恐怖の白人女性、増殖
卑猥な表現あり
「で、どうしてアカントの図書館でそんな非常識な事をしていたのかしら?」
僕と同じ褐色の肌で、黒く長い髪を結んだ、自分よりも背の高い女性であるアミ先輩に、僕は床に正座させられて説教を受けていた。
ここは生徒会室、中央に四つの、長方形の机が向い合せにくっつけられていて、会議ができるようになっている。トリアス総合学園には四人の生徒会メンバーがいて、僕はその一人だ。
生徒会室の端で、正座させられている。
「非常識? 何がです?」
「はぁ……」
「なぜ溜息をつくんですか?」
深く息を吐いて、アミ先輩はこちらを見下ろしてきた。
正直な話、なぜ起こられたのかあんまり理解していない。あの女性が怒るというのなら、本人の目がない所でやるまでだ。
「ちょっと殴るわね」
「暴力反対!」
アミ先輩が拳を上げてこちらにロックオンしてきたので、とりあえず叫ぶ。
別にアミ先輩はそんなに怖くない。だが、暴力は痛いので抵抗する。
「そうですよ。落ち着いてください、アミちゃん」
「そうだけどさぁ……」
扉が開かれ、スズ先輩が現れた。
肌の色は白色で、白い髪を腰の所まで伸ばしている。トリアス総合学園の制服は自由度が高く、自分とアミ先輩は黒色の制服を着ているが、スズ先輩は白色の制服を着ている。白い鳥みたいに全身真っ白な女性だ。
「げ、スズ先輩……」
「ここは私に任せてもらえませんか?」
「……わかったわ」
こちらをチラッと見てから、スズ先輩はアミ先輩の方に向いて、暴力を制した。
これだけ聞けば、スズ先輩は良い人である。だが、それは暴力を使う必要のない強者の余裕で、勘違いはしてはいけない。
雰囲気は最悪で、明らかに機嫌が悪い。十万匹のスズメバチに囲まれている気分になってくる。
「リクくん、聞きましたよ」
「えっと、何が悪かったんですか……?」
「は?」
「すみません……」
顔を近づけて、スズ先輩が睨んでくる。
怒られている事はわかる。しかし、怒られる理由はわからない。スズ先輩が怒りそうなお金を盗む事、物を奪う事、そういう事をやっていない。
「図書館という公共な施設で、人の迷惑を気にせずはしゃぎ、ポテトチップスを持ち込んで、更にはそれを触った油まみれの手でみなさんが使う本を触り、注意してくれた人に悪態をついた事が、悪い事ではないと?」
「で、でも、あの人がいない所なら……」
警戒しておかないと刺されてしまいそうな真顔で、スズ先輩は目を細める。もはや殺人犯を超えて愉快犯だ。
何かを奪ったわけではないのなら、先輩達にとっては悪い事でないはず。確かにそれはあの女性が怒る事ではあったが、スズ先輩とアミ先輩には指摘された事がない。
「……やっぱり殴りましょうか」
「そうよね!」
「ま、待ってくださ……痛い!?」
アミ先輩を見て、スズ先輩は怒ったように満面の笑みを浮かべた。それと同時に、アミ先輩は僕の胸ぐらを左手で掴み、右手で顔を殴りつけてくる。
痛い。鋭利な石ころを投げつけられたくらいに痛い。それが何度もくるので、嫌になる。
「ゆ、許してぇ……」
「何回目ですか?」
「こ、これとそれとは別で……ぐふぅ!?」
「あんたって子は!」
別に悪い事をしたわけではないが、怒られるのが嫌なので謝る。しかし、収まる気配はない。お腹に強烈なパンチを食らったので、思わず‟おえっ”となる。
謝ったのにこれは酷い。謝罪をしたら許してくれないのか。
「また私に絞られたいのかしら?」
「そ、それだけはご勘弁を……」
「いいえ、やるわ」
「そんなー!?」
「それは本当に程々にしてくださいね、アミちゃん」
「わかってるわ」
絞る、それは端的に言えば性行為である。ただし、僕が一方的に襲われるだけだ。
このアミ先輩っていう人、どうやら重度の病気みたいな物があるらしくて、自身より背が同じ、または背の低い男性を見ると興奮するとの事。僕の身長は百五十一センチで、アミ先輩は百六十六センチだから、もちろん興奮する男性の対象内だ。
何度か、説教と称した性行為をさせられているが、この人は本当に激しいから、やりたくない。
「た、助けてぇ……」
「今日も楽しみね!」
だけど、抵抗虚しく生徒会室の奥にある部屋に連行させられた。誰か助けて。
「……私だって、彼ともう一度……」
なんかスズ先輩が言ってた。
え、やりたくないですが。
◇◇◇◇◇
「ぐぇ……」
布団の上で目を覚ますと、真っ暗な部屋にいた。もちろん、生徒会室の奥にある部屋である。
「……アミ先輩はもういないですね」
こってり絞られた後、気を失ってしまった。その間にアミ先輩はどこかに去って行ったらしい。
いや、酷い。自身の性欲を満たすために散々絞っておいて、用が済んだら捨てていくなんて、ソショウアンケンだろう。まあ、そんな事をしたらガチギレされるのでやらないけど。
「ふわぁ……僕も行こう」
布団から出て、服を着る。せっかくアカント男子学園の制服を自前で用意して楽しんでいたのに、なぜこんな目に遭うんだ。
扉を開けて、生徒会室に入る。そこには誰もおらず、真っ暗であった。窓が開いていたので外を見ると、月が出ていた。
「全く、家に送ってくれても良いじゃないですか」
自分と同じ褐色肌の先輩に毒づきながら、生徒会室を出る。
学園は広いから、帰るのも一苦労だ。スロープも止まっているし、時間がかかりそうである。
「お、アカントの制服を着た不法侵入者か?」
「げっ」
「なんだリクか」
生徒会室の前で、会いたくない白人女性の先輩に出会ってしまう。
「こ、ここにいるのはアミ先輩のせいですからね! だから痛い事はしないでくださいよ、アンズ先輩!」
「どうせまた何かやらかしたんだろ?」
「僕は何も悪い事をしていません!」
鮮やかで、返り血みたいな赤の、そして短い髪を持つ白人女性、アンズ先輩が生徒会室の前にいた。
この人は僕より少し身長が低いだけなのに、超強い。どれくらい強いかと言うと、普通なら人間が負けるであろうトラを無力化できるくらい。
「何をやらかしたんだ、言ってみろ」
「別に、アカントの図書館に行って本を読んでただけですよ」
「ポテチを食べて大声を出しながらか?」
「はい!」
「よーし、今からボコボコにするから覚悟しろよー」
「なぜ!?」
言われた瞬間に壁に激突した。
いつもの事だが、アンズ先輩の攻撃は見えない。普段は人間らしくしているくせに、戦闘とかになると豹変する。今のは戦闘じゃなくて制裁っぽいけど。
「いつの間に……」
「センキュー、ストレスが溜まってたんでな」
「せ、センキューって、何ですか……ぐへぇ」
力なく壁からずり落ちる自分、それをアンズ先輩は冷静に見ていた。
床に激突し、チクリと痛みが襲ってきた。
「エクシオでありがとうって意味だ」
「……いや、そんな事より僕の心配をしてくださいよ」
「お前が言ったんだろうが」
吐き捨てるように言われて、少し憤慨した。
このアンズ先輩が所属している『治安維持部』というのは、アンズ先輩以外は弱い。五十人程の先鋭が集まっていて一見強いように見える治安維持部も、戦力の七十パーセントはこの部長であるアンズ先輩に集まっている。
なぜこんな話をしたのかというと、アンズ先輩、あとスズ先輩には、絶対に逆らえないという事を話したかっただけ。アンズ先輩には物理的に、スズ先輩には感情的に、逆らう事ができない。
「ぐぬぬ、これで勝ったと思うなよ……!」
「まだお前は負けてないよな?」
「え」
不敵な笑みを浮かべたアンズ先輩に、しばらくの間はボコボコにされた。
◇◇◇◇◇
「昨日は酷い目にあった……」
昨日は本当に酷かった。ボコボコにされるし、絞られるし、ボコボコにされるし、厄日だ。
「ふわぁ……お金を貰いますか」
ストレスが今日まで残っていたので、とりあえずお金を奪う事にした。
ちょうど、ここは人気がない通りで、お金持ちのフウボウをしている男の人がムボウビに歩いている。これはお金を盗めと言っているのだろう。
そろりと、音なく近づく。
「そこの人、お金を貰いますね」
「は?」
「ふはははは!」
不意をついて、お金持ちっぽい人から、金品の装飾がついているカバンを奪い取る。
慣れている。いつもやっている事だ。
「待て!」
「さようならぁ! アハハハハ!」
なぜか怒りながら僕を追いかけてくるお金持ちの人。だけど、人気のない所でいかにもお金を持っているフウボウをしているのが悪い。
普通なら人通りの多い所を通るし、そもそも自分自身がお金持ちである事をみせびらかしたりしない。
「おぉ、たんまりですねぇ」
撒いた後、路地裏に入ってカバンの中を覗く。中を見たら、思わず良い笑みが浮かんできた。
お金持ちのフウボウをしている人だからなのかは知らないけど、金目の物がたくさん入っていた。やっぱり、既に金品がいくつか奪われている死体なんかより、こっちの方が断然効率が良い。あんまりいないんだけど。
「楽しそうですね」
「もちろん! お金をたんまり手に入れましたからね!」
え、何かいる。
急に、昨日が厄日になった原因である白人女性が現れた。本当にどこから現れた、神出鬼没の女性は。
「ちなみにどこで手に入れたんですか?」
「盗みましたよ」
「なるほど、殴られたいなんて性癖を疑いますね」
「どうしてそうなるんですか!?」
自信を持って答えたら、唐突に殴られる。結構本気で殴られたので、大分痛い。
え、なんで殴られた。本当に意味がわからない。
「全く、返しに行きますよ」
「い、嫌だぁ……」
「あ?」
「ふぐぅ……」
有無を言わせない態度で言われながら、引きずられる。背中に地面との摩擦が起きて痛い。運び方くらいもっと手を加えてくれても良いのに。
それにしても、なぜ返しに行かないといけないのか。別に僕は、わざわざ人の目が届かないような所で堂々としているような人から、カバンを盗んだだけなのに。せっかく盗んだのになぜ返さないといけないのだ。
「誰から盗んだんですか?」
「覚えてません」
「警察案件ですね、これ」
「そ、それだけは……」
「というか、制服を着ながらのスリは頭のおかしい人としか思えないのですが」
「誰が頭のおかしい人ですか!」
「あなたの事ですよ?」
「うぐぐぐぐ……」
結局、盗んだ財布は警察に届ける事になった。そして、二度としないと約束させられ、少年院送りを免れた。
少年院に送られたら脱走すれば良い。まあ、そんな事を小学生の頃にやったら、孤児院の職員にも警察にも殴られたのでもうやらないけど。しかし、こんな事で少年院送りにされては世の中は非常だ。別に人を殺したわけでもないし、許してくれたって良いと思う。
「良かったですね、捕まらなくて」
「捕まえたのはあなたでしょ!」
「チッ」
「ひぃ……」
殴りはしなかったが、相手は目を細めて睨みつけてきた。
なんというか、目力が強い。細められた目から醸し出される、なんというか、引力みたいな物が、僕を拘束するように引っ張ってくる。
「……トリアス総合学園はまだ学校があるらしいですが、アカント学園は夏休みですし、教育します」
「と、図書委員があるのでは……?」
「もちろん、あなたも連れて行きます」
「な、なんでぇ……」
冷淡に話した女性の周りの空気が凍っている。僕の肺も凍らされそうで、息が上手くできない。
「せっかくですし、一緒に住みましょっか。ちなみに私の名前はイロハシロコです」
「いや、実家に帰るんじゃないんですか!」
「許可を貰ってあなたの家に上がり込みますね」
「うぅ……」
イロハシロコ、怖い白人女性が増えてしまった。
この次からしばらくは三日おき投稿




