カーボンとの接触
連続投稿
「ようこそ、『カーボン』へ」
「今日はよろしくお願いします」
ヤスデみたいな顔をした人物の歓迎に、お辞儀する。私達オオカミ小隊は、テロム州にて株式会社『カーボン』テロム支部に訪問していた。
テロム州の担当は、ヤスデことアスロヒレウラである。始末対象は自分達が特殊部隊だと知る由もないため、ノコノコと出てきた。
「デカいなー……」
ジャッカルは、背が自分の二倍くらいありそうなヤスデを見上げてそう呟いた。
オオカミ小隊とヤスデは、机を介して両端のソファに座っている。しかし、その状態でもオオカミ小隊の中で一番背が高いウルフが見上げる状態になるくらい、ヤスデの背が高い。天井はそれに合わせて、オオカミ小隊の四人が合わさっても届かないくらい高かった。
左から私、ジャッカル、ウルフ、コヨーテと並んで座っていた。
「白人男性だったら良かったのに……」
「流石に大きすぎだろ」
しれっと自身の願望を静かに呟いたコヨーテに、ジャッカルがツッコミを入れた。
「客よ、今回はどういった用件で来た?」
「その前に一つ、あなたは人間ですか?」
「何を言ってるんだ」
仲間達は全然違和感を抱いていなかったが、私としては気になる事を率直に訊いた。
オオカミ小隊のメンバーがこちらを向いてくる。質問の意図がわからないといった感じで、コヨーテが首を傾げている。ジャッカルが質問の意図を訊いてきたが、無視だ。
「ふむ、想像にお任せしよう」
「……わかりました」
ヤスデは、淡々と言葉を吐いた。表情は一切変わらない。もしかしたら、顔の筋肉を動かす事ができないのかもしれない、人間ではないから。
相手は自身の種族について曖昧な返事をしている。これ以上訊いて変に思われたくないので、口を一旦閉じた。
「それで、ご用件は?」
気を取り直して、ヤスデは私達に質問した。
「わたしよりも高身長な白人男性に求愛される装置が欲しいです」
「おい」
「人の意識に介入する装置を作るのは難しいな」
「そんなぁ……」
コヨーテの願望が詰まったお願いを、ヤスデは拒否した。オオカミ小隊のツッコミ役は律儀にツッコんでいる。
かわいらしい少女のような見た目をしているメンバーは、自身の身長である百五十六センチよりも三十センチは高い白人男性が好みのタイプであるらしい。本人は人見知りなところがあるようで、自身を好いてグイグイと迫ってきてくれるような男性が好きなどと、そう言っていた。
それを聞いた当時、理想が高いなどと朧気ながらに思っていた。
「なら、アタシより背の高い男性を低くする装置はー?」
「性癖発表の場じゃないわ」
「それなら可能だ」
「なんでだよ」
「やったー、依頼しよー」
コヨーテに続き、ウルフが自身の願望を吐露する。こちらは幾分か可能なようで、ヤスデは前向きな姿勢を示した。その結果、ツッコミ役が呆れ果てた。
コヨーテとウルフ、オオカミ小隊の褐色肌勢は、幼馴染であるらしい。お互いの本名を知っているらしく、結構仲が良い。本名で呼び合っているところはジャッカルも見た事ないらしいが、そこは流石特殊部隊のメンバーである。幼馴染が願望を話し、それに便乗する形であった。
その願望を聞いた当時、危ない人である印象を持った。
「……」
そんな、言葉を借りると性癖発表会、という物を傍聴しながら、今回の作戦について思い返していた。
◇◇◇◇◇
「とりあえず、接触を試みましょう」
「できるのか?」
拠点にてヤスデとの接触を提案したら、ジャッカルが尋ねてきた。
「まあ確かに、名前とかは知られてないけどー」
「うぅ、バレたらどうしよう……」
ウルフとコヨーテは不安そうに表情を強張らせる。
特殊部隊は極秘組織であり、その存在を外部には知られてはいけない。もちろんメンバーについても名前、顔、姿形、声など、個人が特定されるような情報を外部に出す事は禁止である。
「極秘の組織であるのなら、普段通りに行動していれば大丈夫ですよ」
「変声器とか使った方が良いんじゃないか?」
「それだと逆に怪しまれるかと」
普段から特殊部隊としての自覚を持って暮らしているので、ジャッカルの問いに対して自信満々に返した。エディアカラ諸島に住んでいる小隊の三人の事とはても信頼しているので、仲間に対しても変声器を使わないようにさせる予定だ。
「でも、『カーボン』の本拠地の場所がわかってないんでしょー?」
「ヤスデのいる所はわかります。テロム州の中央区に拠点を構えていて、そこで活動しているようです」
「さっきの言い方だと、『カーボン』のメンバー達全員を調査しろって感じだよね。ヤスデだけしかわからないのはまずいと思うよ?」
「尾行します」
「できるのか?」
強めに言ってきたジャッカル、目は細められていて、真偽を問われている感じ。
今更自分を試しているのか、私が慎重になっているからなのか、考えている事はわからない。
「やります。できないなどありえません」
「わかった」
私も強めに返すと、ジャッカルは静かに頷いた。
視界が赤く染まっている。自分自身の目が反応したらしい。
「それー、凄く気になるんだけどー」
「おそらくですが、今回の任務で披露する事になりそうです」
「え?」
「まじー? 楽しみにしとくー」
楽しみを得た子どものように、ウルフは興味を示した。コヨーテは驚いている。
「良いのか?」
「……いずれ見せるときはきますので、いつでも覚悟はできています」
心配そうに聞いてくるジャッカルに、目を閉じながら言葉を返す。
見せたくなかった目、それを晒さなくてはいけない時がきてしまったようだ。特殊部隊を組まされたときから、いつかは見られてしまう日がくるという事は予感していた。
『怖いから近づかないで』
酷く冷たい声が、頭の中で響く。
『お前なんて――』
「任務のやる気出てきたー」
「……頑張るよ」
「よし、作戦を立てるか」
「そうですね」
やる気を見せているウルフ、怖がっているコヨーテ、いつも通りのジャッカル、三人の声によって、続きが搔き消される。
聞こえてきた声を無視して、作戦会議を始めた。
◇◇◇◇◇
作戦会議を経て、ヤスデ討伐作戦は次のようになった。
まずは一般人のフリをして、テロム州に拠点を持つヤスデの所に、客として行く。
適当に注文を取り付けるのと同時に、バレないようにヤスデに発信機を付ける。
ヤスデを追跡して、株式会社カーボンの本拠地を突き止める。
カーボンがテロムの極秘情報を知っていた場合、上官に報告し、指示を仰ぐ。知っていなければヤスデの始末をする。
簡単な概要としては、こんな感じである。
「……」
発信機というのは、私の目によるものである。いわば、能力と言った方が良いだろう。私の能力は小回りが利き、いろいろできるのだが、能力を発動させるには条件がある。発信機系統においての条件は、目を赤く光らせながら、相手に直接触れる事だ。
相手は国の極秘情報を盗み出す程の者だ。国の管理が杜撰であった可能性もあるが、警戒するに越したことはない。だから、目隠しのためのバンダナを黒色にして、できる限り気づかれないようにしてきた。
「やっぱりさー、自分より背の低い男の人が良いよー」
「違うもん! 背が高い白人の男の人が良い!」
「黒人は自分の性癖をひけらかす癖でもあるのか?」
「全員ではないよー。君が知ってる黒人が性癖をひけらかす人しかいないだけー」
「隠せよ」
恥ずかし気もなく自身の性癖をひけらかすオオカミ小隊の黒人勢に、薄橙色の肌を持つメンバーは呆れていた。
黒色のバンダナで目を隠したのは良いが、隙間から光が漏れ出てくるかもしれない。覆面を付けるのは変に怪しまれるかと思ったが、そもそも目隠ししている人間も十分に怪しいし、他のメンバーは普通に顔を晒しているので、覆面でも良かった気がする、もう遅いのだが。
「もっと具体的に言ってもらわないとわからないぞ」
「そうですね、リストを作ってきました」
「はー?」
「き、聞いてないよ!」
「お前らどうせ性癖しか言わないだろ」
リストをまとめた紙を取り出した私に対して、性癖をひけらかしていたメンバー達は抗議した。そして抗議はジャッカルによって制された。
まあ、別に作ってもらっても良いが、予算が決まっている。この作戦を上官に伝えたところ、十万を出してくれた。
「では、渡してもらおうか」
不気味な手がこちらに伸びてくる。どうしようもない緊張感が襲ってきた。
「……」
正直、覆面にした方が良いというのは、ここに来るまでに思いついていた。
しかし、羞恥心があった。とっくに捨てていると思い込んでいたそれは、私の行動を制限した。普段から目を隠しているので今更かもしれないのだが、仲間達と一緒に覆面を被るならともかく、自分だけが覆面を被るのは、躊躇われた。
きっと、大丈夫。私の目は忌々しい物であるが、便利な能力が揃っている。だから、少しくらいは妥協しても良いだろう。
「……」
「どうしたのー?」
「渡さないの?」
ジャッカルは黙っていたが、ウルフとコヨーテは不思議そうに首を傾げた。
この二人、察しが悪い。目を見せた事はないが、これまでに幾度となく私の能力を使ってきた。それなのに、全く想像がついていないらしい。
この世界では、全ての人間が私の目による能力と同じようなものを持っている。その内、ウルフとコヨーテのものを使って解決してきた任務はたくさんある。多くの任務をこなしてきていないのは事実だが、この発信機を取り付けるような能力を使う必要がないくらい、二人の能力は優秀だ。それが原因かは知らないが、察しが悪いのは確かだ。
作戦会議のときに私は発信機を付けるとしか言っていなかったのも事実なので仕方ないのかもしれない。だけど、これくらいは察してほしいという気持ちは湧いてくる。
「……どうぞ」
できるだけ相手が紙を受け取る方を持ち、ヤスデに紙を差し出す。とても持ちにくいやり方だった、もしかしたら怪しまれているかもしれない。
「あぁ、受け取ろう」
ヤスデが紙に集中する。
相手の身長が高すぎる、写真で見たよりもずっと大きい。そのため、紙に集中していても、私の顔を認識できてしまっている。
ここで目を赤く光らせてしまったら、気づかれるかもしれない。そう思って、慎重になってしまった。
◇◇◇◇◇
『ねー』
リーダーであるドールの動向を静かに見守っていると、頭の中に直接、ウルフの声が響いた。
『なんだ?』
『発信機ってリーダーの能力なのー?』
『そうだろうな。あいつは便利な能力をたくさん持っているから、発信機もそうだろ』
『そっかー』
この察しに悪いメンバーに対して、淡々と、相手の脳内に言葉を直接送るようにして返した。
頭会話、とでも言えば良いのか、ウルフが持っている超越的な何かというのは、頭で考えた事を直接相手に伝えられて、相手の考えている事を読み取れるものだ。それだけではなく、本人を介して、他の人とも声を発さずに会話する事ができる。とても便利なものだ。
それが、一旦パタリを止んだ。
「ふむ……」
ヤスデが、紙に集中している。
「何を書いてるんだ?」
ドールがどんなリストを書いてきたのか、気になったから訊く。
「恋の占いをするための機械です」
「お前もか」
しかし、返ってきた返事はオオカミ小隊の黒人メンバー達と似たようなものだった。
ウルフとコヨーテは、特殊部隊であるのに浮ついた事に興味がある。自分達の立場を本当に理解しているのか。
「あなたもでしょう?」
「まあ、気になるっちゃ気になるけど」
「やっぱり自分よりも背が低い男ー?」
「背の高い白人男性だよ!」
「今は余裕ないんだわ」
ドールに言われて困惑したが、それに便乗した二人のメンバーのおかげで心を落ち着かせられた。
好きな人、男の人に対して特別な感情を抱いてきたのかというと、全くない。幼い頃からテロム治安維持の養成学校に入れられて、訓練をするだけの毎日だったので、そういう浮ついた感情を抱く事がなかった。むしろ、なぜウルフとコヨーテはそこまで性癖を拗らせる事ができたのか、理解できない程だ。
オオカミ小隊の無駄な会話を流し聞きしながら、ヤスデは何か考え込むようにピタッと止まる。
「それで、どうでしょう?」
ドールはヤスデに問いかけた。
「要するに、恋占いをするための機械を作れという事か」
「可能ですか?」
「もちろん、可能だ」
「やった!」
「いえーい」
「お前らが一番喜んでるじゃないか」
「それで、これは貰っていいか?」
「もちろんです」
ヤスデは紙を見続けている。表情は全く変わらず、無機質な声を発していた。
ドールは席を立ち、机を介して反対側に座っているヤスデに近づいた。
「まず、前金として十万は頂くぞ」
「高いな」
「もっと安くしてよー」
「物づくりは大変なのだ。仕方ないだろう」
十万、確かリーダーが上官から受け取った予算の額だ。
あまりの金額の高さに、驚いた。まあ、恋占いの機械を作るのなら妥当な額かもしれないが。
「そうですか。決済方法は?」
「現金、クレジットカード、電子マネーに対応している」
「結構対応してるね……」
「では、クレジットカードでお願いします」
「用意する。ちょっと待て」
ヤスデは紙から視線を外した。そして、決済の準備をした。
ドールが、ポケットから財布を取り出した。上から貸し出しされた物だろうか。
「値段は、制作が完了してから発表する」
「わかりました」
隣にいるドールに対して、ヤスデがその大きな片手にすっぽり収まるような決済端末を差し出した。背が高すぎるために、屈んでいて、ドールが決済端末を見下ろす形になる。
「この機械に、タッチか挿し込みで頼むぞ」
「……わかりました」
少しの間黙った後、リーダーは頷いた。
しかし、先程からリーダーの変な行動が目立つ。恋占いのための機械、それをまとめたリストの紙の渡し方がぎこちなかったし、今もなぜかヤスデに近づいている。
発信機、それを仕掛けるために、何か条件があるらしい。
「では、挿し込みで」
そう言って、ドールが差し出された決済端末に手をかける。そのとき、端末を持っているヤスデの手に触れていた。
「一括で良いか?」
「もちろんです」
「……」
「緊張するー……」
「十万が……」
なぜか、息が詰まるような感覚を覚えた。
金額は高い、だがそれは理由ではない。ドールが、目を赤く光らせている。
リーダーは目を見られたくないはずで、それは、始末対象に対しても同様なはずだ。目を赤く光らせる事ですら、親しい私達に見られる事をやっと割り切ったのに、初対面の人に見られたいとは思っていないはず。
自身の目を不気味に思われたくない、それなのに、なぜリスクを冒しているのか。十中八九、発信機に関わっているのだろう。
『み、見ました、か……?』
いつか見たその目、見られた少女の声は、訓練を受けている人とは思えないくらい震えていた。
それ程の女性が、目を赤く光らせているのだ。決済端末を見下ろす形になっているのでヤスデからは見えないとは思うのだが、全く嫌がっている素振りがない。
「それでは、失礼します」
そうして、ドールが無事に決済端末にクレジットカードを挿した。
◇◇◇◇◇
「……ふぅ」
「無駄に緊張したな……」
テロムの外れにある廃ビルで、一息つく。
ジャッカルの言った通り、緊張をしずぎていた。
「それで、発信機は付けられたのー?」
「何を食べているのですか?」
ウルフが、板状のチョコレートを食べながら訊いてきた。
「痕跡が残ったらまずいと思うよ……?」
「コヨーテが消しといてよー」
「わたしが尻拭いをするの!?」
「お前なぁ……」
不真面目なメンバーに、ジャッカルが呆れたように溜息をつく。
ウルフはこういうところがある。優秀な人員ではあるのだが、気を抜いている事が多い。
今まで任務を失敗した事がなく、自身の手を汚した事がないので、このようになってしまったのだろう。
「……発信機を付ける事はできました」
努めて冷静に、結果を言う。
ヤスデ、アスロヒレウラに能力を発動させる事はできた。それを、用意してきた二種類の地図に反映している。
「消しといてねー」
「わたしの事が大好きな高身長白人男性を連れてきてくれるなら良いよ」
「アタシに任せなさいなー」
「そんな事より、この地図を見てください」
仲が良さそうに軽口を叩きあう二人を咎めるように言う。
上官が、というよりかは国が、なぜこの二人を同じ小隊に入れたのか。幼馴染同士、本名を知っている。特殊部隊では本名を知っていてはいけないのに、それが無視されて一緒にいれられた理由は明白で、コヨーテの能力を上手く使うのに、ウルフの能力が必須だからだ。
とりあえず、ウルフに二種類の地図を渡す。一つはテロム超大国の全体地図、もう一つが中央テロム州の全体地図である。どちらにも、赤い光みたいな点が写っているはずだ。後で、目隠しを外して確認しておこう。
「えっと、これは……」
「私の目による特殊能力の一つです。対象に直接触れる事でこのように位置情報を映し出す事ができます」
「便利だねー」
ウルフは二種類の地図を両手で一つずつ持ち、交互に見る。右手の地図をコヨーテ、左手の地図をジャッカルが覗いた。
「どうやら、テロム州からは出ていないみたいだな」
「でも、空港に向かってるっぽいよー?」
「確かにそうだな」
左手の地図、テロム州の全体地図を見て、ウルフとジャッカルはそう言った。
ヤスデに発信機が付いている、あとは追跡するだけだ。点Pのように動く赤い点、それがヤスデの位置を示すものだ。
「南東区の空港方面に向かってるみたいだよ」
「なるほど」
「追うか?」
「今は様子見です。下手に行動して怪しまれたくありません」
「そ、そんなに警戒する必要あるのかな……」
コヨーテが私の方を見た。
今まで任務に失敗した事がなく、自信はある。ウルフとコヨーテのコンビがいれば大体の任務は成功するし、ここまで私が慎重になっているのが奇妙であるのだろう。
「ヤスデ……極秘情報を盗み出す程の人物なので、警戒は十分にするべきかと」
「それは確かに……?」
「どうやって盗んだんだろうねー?」
「管理が杜撰だっただけなんじゃないか?」
「正直私もそれを疑っていましたが、会って確信しました。ヤスデは、相当厄介な人物です」
最初に思った事、それはジャッカルも考えたらしい。だが会合する事で、私の考えは変わった。
私がこの世で最も嫌い、最も信頼している目が、言っている。アスロヒレウラはとても危険である、今まで始末してきた人達とは訳が違う、だから、慎重に行動するべきだ。
「本当に追わなくて良いのー?」
「今は、です。いずれ追います」
「わかった」
結局、私達は廃ビルで待機する事になった。
◇◇◇◇◇
「この方向は……『カルボ島』かなー?」
「あんな小さい島に行くのか?」
「飛行機に乗ってるみたいだよー」
ヤスデの位置を示している赤い点は、地図上で空港に向かった後に、空港へ向かっているらしい。
疑問に思ったらしいジャッカルの問いを無視して、アタシは対象の行動を示す。
「カルボ島か」
「私はあまり詳しくないのですが、どういう島ですか?」
「簡単に言うと、独自の生態系が発展してる島だな」
「そういう事ではなく……」
「うーん、ただの島としか言いようがないんだよな」
首を傾げて、ジャッカルはうーんと唸る。
ジャッカルの言う通り、カルボ島というのはとても小さい島で、独自の生態系が発展している。
「小さい島だよ」
「飛ばない鳥のクイナが有名だよー」
「翅が退化してるヒメマルカツオブシもいるよ!」
「あんたは本当にそいつが好きねー」
「えへへ……」
「褒めてないわ」と、照れてるコヨーテに対して、語尾を伸ばさずにマジトーンで言った。
コヨーテ、自分の幼馴染である犬見月渚は、昔からヒメマルカツオブシムシという、キク科の花に集まる小さな虫が好きである。出身地である『ワナンド州』という所にいたときも、テロム州に来たときも、シーズンになると毎年飽きずに捕まえに行っていた。幼虫が衣類を食害するので嫌われているのだが、この子は逆だった。
「害虫なのにねー」
「人間が勝手に言ってるだけだもん!」
「愛が凄いな」
「今はヒメマルカツオブシの事は置いておきましょう。本来の目的を思い出してください」
ヒートアップしそうなコヨーテを制して、リーダーは強めに言う。赤い光が、目を覆っている黒いバンダナ越しでもわかるように漏れていた。
ヤスデ、アスロヒレウラをとても警戒しているらしい。それには、アタシも同意だ。
今回の目標は、明らかに今までの奴らとは違うとわかる。見た目が不気味であるのはもちろん、佇まいが違った。一度動かなくなると、まるで虫のように止まる、ちょっとした揺れも起きない。そして、呼吸している様子が見受けられなかった。
「どうでも良くないもん……」
「任務が終わった後にいくらでも聞いてあげますから」
「ほら、落ち着いてー、」
「むぅ……」
今にも好きな虫を語りたそうな少女を制止しながら、リーダーはこれからの作戦について話し始めた。
「カーボンの本拠地を突き止めるのもそうですが、ヤスデ以外のカーボン所属のメンバーについて調べておきました」
いつの間に用意をしたのか、アスロヒレウラ以外のメンバーを含めたカーボン所属の三人の情報が記された紙を渡された。
以下が記された内容である。
株式会社カーボンの構成メンバーは三人である。
メンバーはアスロヒレウラの他に『メガウラネ』、『ヘラシネラ』がいる。
メガウラネはペルム州とトリアス州を担当し、ヘラシネラはワナンド州とエクシオ州を担当している。
「凄い当て字っぽいねー」
「『明日炉鰭浦』もそうだったし、『目芽占根』と『箆子根裸』も後から付けた感が強いよな」
「多分、『アースロプレウラ』、『メガネウラ』、『メガラシネ』なのかな」
「高身長の人に羽が生えたような姿ですね」
全身が写った写真を見て、心の底から悍ましい、自分よりも大きな昆虫に会ったような感覚を覚える。
「こいつらが、私達ですら知らないテロムの極秘情報を盗みだしたかを調べるんだよな」
「ヤスデは知っています。問題は他のお二方なのですが」
「メガウラネは『トンボ』、ヘラシネラは『クモ』で良いよねー?」
「良いと思うよ」
果たしてカーボンのメンバーは全員極秘情報を知っているのか、現状では見当がつかない。
見た目の不気味さ、身長の威圧感、それがカーボンの怪しさをより際立たせている。そして、リーダーの慎重さはそれをさらに加速させていく。
今まで任務に舐めてかかった事はないが、今回は本気でやらないといけないらしい。
「これからの行動について、方針を固めましょう」
「あのよくわからない機械の製作期間が一か月とか言ってたな。それまでには特定しないと」
「恋占いの機械です。よくわからない機械ではありません」
「そうだそうだー」
「訂正して!」
「おい」
とりあえず、しばらくは様子見をするだけに留まった。
この系統の話は章が終わるまでは連続投稿をしていきたい




