寂しがりな少女
「むぅ」
自分のスマートフォンを覗いて、リスみたいに頬を膨らませてみる。だけど、誰も反応してくれる人はいない。
『すまない、今日は予定があって生徒会室に行くのが遅くなる』
『ごめんなさい、遅れます』
『ごめん、今日は予定があって生徒会室に行けない』
エノモトケイ先輩、コツナチヨ先輩、ハザマエミ先輩からそんなメッセージがきた。でも、マキナマリカ先輩からメッセージはこない。
誰もいない生徒会室のソファに座って、退屈しのぎにスマートフォンのゲームをやってみる。
「……つまんない」
だけど、一緒にやってくれる人がいないから、飽きた。
寂しい。クラスメイトで一緒に遊んでくれる人もいないし、何もする事がない。
あまりにも心が苦しいから、マリカ先輩に電話をかける。
「ふん、出るまでかけ続けるから」
一緒に遊んでくれない人には迷惑をかけても良いと思いながら、虚空に向かって言葉を投げた。
構ってくれない嫌な先輩に対してそんな事をしていると、またメッセージが送られてきた。
『ハルカ、客人が来るのだが、対応できるか?』
ケイ先輩のメッセージに、少しだけ心が軽くなる。
『客人ってだれ?』
『別の州立学園の人だ』
その文字列に少しだけ驚いた。客人だから、どこかの偉い人、先生の知り合いの人なのかと思ってたけど、違う。
ケイ先輩は友達を作るとき、絶対にエクシオ州の人だけって言ってた。生徒会室に別の州立学園の人を呼ぶって事は、交流会かも。
「ケイ先輩とチヨ先輩が来るまで、遊んでくれるかな」
少しだけ、心が笑った気がする。
あんなに他州の人達を敵対視していたケイ先輩が、ここに別の学園の人を連れてくるなんて、ワクワクする。どこの学園の人だろう。州立学園は一つの州に一つだけで、他は私立の高等学校。
トリアス州、ワナンド州、アシンレ州、もしかしたらアカント州――それだけはないよね。
「……仲良くしたいな」
どこの学園でも仲良くしたい、そう思って客人を待った。
◇◇◇◇◇
「はぁ、どうして私があの女の本拠地に行かないといけないのですか」
嫌いな女、紫色の下品な女のいる所に行く事が嫌で、思わず毒を吐く。
「ヒヨリが不満を言うだなんて、どれだけ嫌なんです?」
「嫌いな人がいないシスター・ハルナにはわかりません。あいつ、私の男を誘惑してわが物にしようと企んでいるので」
「そうですか……」
無駄に広いと感じるエクシオ学園の校門に圧倒されながらも、上司のシスター・ハルナに愚痴を零す。
エクシオ州唯一の州立学園であり、男女共学であるエクシオ学園は、本当に広い。アカント州の学園は男女で分かれているため、一つの所に校舎が集まっている所が新鮮である。
それはそれとして、紫色のモップみたいな髪を持つ女に会いたくない。
「行きますよ」
「私達、シスター服のままですが、大丈夫でしょうか」
不満とは別に、不安の種を吐露する。
エクシオ州は野蛮であるというのはアカントで噂として存在する。実際に、アカント州とエクシオ州というのは仲が悪い。エクシオ全土の生徒がここに集めれているのなら、必ず反アカント過激派がいはすで、その方々に襲われる可能性が捨てきれない。
「大丈夫です。私にはミセス・ケイがいるので」
「不安なのですが……」
ここにいない人の名前を出されて、不安の種が芽を出しそうになる。
シスター・ハルナ、純真無垢で寂しがりな聖堂会の長は、いつも楽観的だ。責任感は強いのに、自身の欲望に正直で、その部分においては貴族であるという実感が湧く。
『ミセス・ケイからのお誘いが来たので、明日にでも行きます。あなたもついて来なさい』
昨日いきなりそう言われて、驚愕するしかなかった。
「早く行きますよ」
「わかっています」
拒否する間もなく命令されたので、ついて行く。
こういう強引さがあるからこそ、あの聖堂会を仕切る事ができるのかもしれない。
「あれ、あの人達は……」
「アカント州の、聖堂会の人……?」
「う、噂通り、怖い……」
校門から学園の敷地内に入って、そんな噂話が聞こえてきた。
「ふふ、注目されていますね」
「護衛がいた方が良かったのでは?」
「ミセス・ケイと会うのに、なぜ護衛をつけるのですか?」
「いえ、自分の立場を理解してもらわないと……」
「あなたが護衛の代わりなので、大丈夫ですよ」
無茶苦茶な命令に、うんざりする。
私は非戦闘員、守られる側だ。ここに来るまで、貴族であるシスター・ハルナの護衛に守られる気でいた。私は平民だけど、貴族の部下だから、守られる権利がある。
しかし、この方は人を信じすぎだ。自身の周りにいる人達に全肯定されてきたのかは知らないが、皆が平和ボケしていると思い込んでいる。そのせいで、護衛がいない。
「に、逃げよう……」
「こ、攻撃したら殺される……」
周りのエクシオ学園の人達が逃げていく。
いかにもアカント嫌いの人達が睨んでいる。しかし、攻撃してくる様子はない。
「……」
シスター・ハルナ、純粋で平和ボケしている人。
おそらく、この人は襲われた事がない。先天的か後天的か、悍ましいオーラが溢れている。シスター・ハルナは満面の笑みを浮かべているが、それに守られているのだろう。
喧嘩を売ったら、拷問されてしまいそうだ。
「どうかしましたか?」
「あの下品な女の所に行くのが憂鬱なだけです」
「もう、少しは我慢してください」
思考を誤魔化しつつ、シスター・ハルナと初めて会ったときの事を思い出す。
『よろしくお願いしますね』
満面の笑みで、マンモスが目の前にいるのかと思うくらいの圧を初対面受けて、思わず涙を流したのを覚えている。
「ふふふ」
「……」
前を歩くシスター・ハルナの足取りはとても軽かった。
◇◇◇◇◇
「ここですかね」
特に絡まれる事なく、無事に生徒会室の前に着いた。
「それでは、ノックをしてください」
「かしこまりました」
シスター・ハルナに促され、扉を三回、右手でノックする。
「失礼します」
あの女に声が届くように、大きめに言う。
対面したくないので、別の人が出てくれる事を祈った。
「入って!」
「?」
中から、幼い女の子の声が聞こえた。
声が幼い人なのか、それとも幼い子どもが中にいるのか。聞こえてくるはずがない声だったので、一瞬だけ戸惑う。
「では、入りますね」
とりあえず心を落ち着かせて、ドアを横にスライドさせて開けた。
「こんにちは!」
「え?」
「はい、こんにちは」
扉を開けると、目の前に小さな少女がいた。
声通りの見た目の少女がいたので、困惑する。しかし、シスター・ハルナは戸惑う事なく挨拶をした。この人はなぜ対応できるのだろうか。
「えっとね、ケイ先輩は今生徒会室にいないから、来るまでハルカがおもてなしするよ!」
「そうなのですね、ありがとうございます」
呆気に取られているうちに、話がどんどん進んでいく。
生徒会室の真ん中にはソファが二つ向かい合って並べてあり、その間には背の低いテーブルが置かれている。その近くにまで案内されて、ミスター・ハルカ自身が座って、こちら側にも向かい側に座るように促してくる。
上司は普通に座ったが、私は座りたくないのでテーブルの横に立った。あのクズ女が座っているかもしれないソファに腰をかけるだなんてまっぴら御免だ。
「ハルカはね、コミハルカって言うの。お姉さんは?」
「コミハルナです」
「名前が似てるね!」
「そうですね」
「えへへ」
私を置いて蚊帳の中に入ったみたいに、名前が似ている二人は話を進めていく。私は置いてけぼり。
それはともかく今は、人身売買したら大金で売れそうな女はいないようで、好都合ではある。
「えっと、こっちのお姉さんは?」
「私は、キョウドウヒヨリです」
「よろしくお願いします!」
少女みたいな学生が、こちらをペコリとお辞儀をして挨拶をしてくれた。
その後、「座らないの?」という言葉が聞こえてきそうな程にミスター・ハルカは小首を傾げたが、ニコっと笑顔を作って黙らせる。
小さい学生が、シスター・ハルナの方を向き直す。
「えっと、ハルナ先輩と、ヒヨリ先輩で良い?」
「私は構わないのですが……」
「気軽にハルナと呼び捨てでも良いですよ」
「それだとチヨ先輩に怒られちゃうから。でも、ハルカはハルカで良いよ」
「はーい」
「チヨ先輩、ですか……」
聞きたくない名前が出てきて、思わず顔をしかめる。
この子はエクシオ学園生徒会のメンバーであるらしい。ミセス・ケイが生徒会長であったはずなので、そうなるだろう。小さいが、生徒会を象徴する赤マントを羽織っている。無駄に元気なその動きがいちいちチック――ヒヨコのようで、子どもであると錯覚する程だ。
「どうかしたの?」
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません」
こちらに顔を向けてきたシスター・ハルナとミスター・ハルカに、精一杯の笑顔を作る。
少女はともかく、私の上司は圧が強くて、やっぱりマンモスがいる気分だ。ただソファに座っているだけなのに、王者の風格が私を圧倒してくる。
「ねえねえ、遊ぼ!」
「もちろんです」
「やったー!」
無邪気にはしゃぐ少女を見ながら、嫌いな女の呪縛から解放されたような優越に浸った。
「でも、ケイ先輩が戻って来るまではここから出られない……」
「外に出たいのですか?」
「せっかく他の学園から来てくれたから、ハルカが案内したい……」
しゅんとするように俯いた少女に、シスター・ハルナが優しく問いかける。
「それなら、私がここでお待ちしております」
ちょっと待て。
「でも、おもてなしをしないといけないから……」
「ミセス・ケイを待っていたいのです。だから、大丈夫ですよ」
「う、うん!」
「ヒヨリ、行ってきなさい」と続けられて、絶望した。
今まではシスター・ハルナがいたから襲われなかっただけだ。私とこの少女だけでは、きっと攻撃される。
「で、ですが、私達は聖堂会の制服を着ていますし……」
「セイドウカイって?」
「アカント女子学園の組織ですよ」
「え!?」
驚いたように、少女が首を傾げる。信じられないと言った感じだ。
もしかしたら、この子は反アカントなのだろうか。でなければ、ここまで驚きそうにないが。
「ケイ先輩はアカント州の事が大嫌いだよ! 嘘ついたらダメ!」
「私は特別な存在ですから」
「そうなんだね!」
思わず立ち上がって、両手をテーブルについて叫んだミスター・ハルカだったが、シスター・ハルナの説明で納得したらしい。
この子が反アカントでなくて良かった。もしそうだったら、めんどくさい状況になっていただろう。
それにしても、この愚かそうな少女は純粋だ。誰かに騙されてお金を盗られていてもおかしくない。
「シスター・ハルナがいないと怖いです……」
「ハルカが守るから大丈夫!」
「そ、そうですか……?」
「大丈夫ですよ。ここに来るまでに攻撃されなかったではないですか」
呑気に言ってくる上司に、「あなたがいたからです!」なんて叫びたかった。
まあ、ミスター・ハルカは生徒会のメンバーであるので、顔は知れているはずだ、うん。
「行こ?」
「は、はい……」
いつの間にか近くにいたミスター・ハルカに手を差し出されてしまったので、握る。明るい笑顔で、世間の事を何も知らなさそうな表情だ。
全く頼もしくなく、むしろ不安の種を芽吹かせるような少女が、私の上司と重なって見える。まるでキツネとトラだ。
「行ってらっしゃいませ」
「行ってきます!」
「……行きます」
何も知らなさそうな聖堂会の長を、心の中で精一杯に睨んだ。
◇◇◇◇◇
「ハルカのお気に入りの場所に連れて行ってあげるね!」
「お気に入りの場所、ですか?」
ミスター・ハルカが私の手を引きながら、楽しそうに騒いで廊下を歩いている。
生徒会室の外に連れ出されて、周りの生徒に睨まれている気がする。一部の生徒は攻撃的な視線を向けていて、今にも喧嘩を吹っ掛けられそうで吐き気が催されてきた。
「チヨ先輩……大好きな先輩とよく休む所だよ!」
「別の所にしましょう」
「え?」
「あそこの風紀委員室とか、案内してもらえますか?」
「う、うん……」
私と大好きな先輩との関係を知らない少女のお節介を躱して、近くにあった風紀委員の部室に案内してもらう。
あの紫色の色素になった方が価値がありそうな女、名前を聞くだけでも嫌悪感が湧く。その女がよく休む場所に行くなんて、シスター・ハルナがトイレをして流さなかった便器に手を突っ込むようなものだ。
「でも、ケイ先輩がね、風紀委員は危険な集団だって……」
「危険な人達を制圧する事が仕事の一部ですから、そう言われるのも仕方がないですよ」
「ほんと?」
「はい。あなたのような愛くるしい方を攻撃する程野蛮な方もいないはずですから」
「うん!」
怖がっている少女を安心させるように、優しい声で話す。
エクシオ州の常識がとち狂っていない限りは、小さい子どもを襲うような人はいないはず。私は襲われるかもしれないが、そのときはこの少女を盾にしよう。そうしたら手出しはできなくなるはずだ。世間一般で愛くるしいって言われているはずの少女に攻撃する人は狂っている扱いされるだろうから。
一抹の不安を抱きながら、風紀委員室の前に来た。
「巡回中……?」
「不在のようですね」
扉に『巡回中』という看板が貼ってある。それを声に出して読んだ少女に答えるように、呟いた。
よくよく考えたら、外部の人間が風紀委員に行くのは意味わからない。仮にもしそのような人類がいたとしても、困惑させるだけだ。泥棒女の事を避けようとするあまり、意味不明な行動をしていた。
「風紀委員に何か用?」
「……!」
不意に、シスター・ハルナよりも凄まじい、海でシャチに狙われたような圧を後ろから感じた。
振り返ると、一人の女性がいた。身長は自分と同じ約百五十センチくらいだが、それを感じさせないくらいのオーラが出ている。
肩にかかる程の白い髪、真っ黒な瞳孔に赤い虹彩、それが特徴的な女性は、こちらを警戒しているようで、目を細めてこちらを睨んでいる。
「お姉さんってだーれ? ハルカはコミハルカだよ!」
「あなたが……?」
扉の前でミスター・ハルカが自己紹介をすると、相手は困惑するように目を大きく見開いた。
「申し訳ございません。特に用があったわけではないのです、今すぐ去ります」
「……あなたは聖堂会の人ね」
「ケイ先輩が招いたんだって!」
「そうなのね」
少女の説明に、相手は無表情になった。穏やかというわけではないが、警戒心は解いてくれたらしい。
「私は風紀委員長のシャチマキカズラ」
「カズラ先輩! 風紀委員の部室を見たい!」
「そう。入れてあげる」
「良いのですか?」
カズラと名乗った女性が、すんなりとミスター・ハルカの要求を飲む。
「別に、問題ない。生徒会の命令に逆らったら後がめんどくさそうだし」
「は、はあ……」
「早く早く!」
「鍵を開けてあげる」
小さな女の子に急かされると、ミスター・カズラが鍵を取り出し、扉の前に立った。
先程のオーラはなく、怖さがなくなっている。シスター・ハルナなら絶対にありえない事であったので、少し可笑しい。
それにしてもミスター・カズラ、エクシオの風紀委員長は、生徒会の命令に逆らうという表現を使った。ミスター・ハルカは命令というよりお願いをしたと表現した方が正しいような気がするのだが。それに、まるで逆らう事が許されないと解釈できる言葉で言っていたのも気になる。
生徒会と風紀委員の複雑な関係を想像してしまい、深く考える事をやめた。
「広い! 生徒会室が狭く感じるね!」
ミスター・カズラが鍵を開け、扉を横にスライドされて開くとすぐに、私はミスター・ハルカに連れられて風紀委員室の中に入った。
中は、教室の一室とは思えない程に大きい。例えるなら、ホテルのロビーから無駄を省いた空間、と言ったところか。真ん中にはどでかいデスクが置かれていて、部屋の奥にホワイトボードが置かれている。とても会議がし辛そうである。
「当たり前よ。今は五人しかいない生徒会より、百人を超えるメンバーがいるもの」
「そうなんだ!」
「まあ、それくらいですよね」
堂々とした態度で言ったミスター・カズラに、無知な少女が感嘆するように相槌を打った。
アカント女子学園でも、風紀委員の人数は多い。州立学園が州に一つしかないので、学生の数は多くなり、必然的に風紀委員の人数も膨大な数になる。
「そっちはあまり暴力事件とか起きないと思うのだけど、どうなの?」
「最近は多いみたいです。『パレオセネ派』首長の娘であるマスター・リンの影響が強くて……」
「チトラリン……」
「誰のこと?」
「偉い人ですよ」
「まあ、大変なのはわかったわ。そんな事より自由に見て良いわよ」
「はーい!」
チトラリン、あまり考えたくない、アカント州の問題児の事を考えて、少し憂鬱になる。相手の方もあまり話を広げたくないのか、話題を逸らしてきた。
何も知らない女の子は大きな声で返事をしている。アカントの問題児の事など、知る必要はない。
「と言っても、面白いものはそんなにないのだけど」
「おもしろいよ! この首輪とか!」
「何これ?」
「犬に着ける物ですね、なぜここにあるのかはわからないですが」
ミスター・ハルカが指差した床の一部分に、首輪が落ちていた、明らかに場違いである。警察犬ならぬ風紀委員犬はいなさそうであるので、意味不明な物品だ。風紀委員長も困惑している。
「犬飼ってるの?」
「飼っていない。だからどうしてそれがあるのかわからない」
「そっか」
「持って行って良いよ。ケイに着けて犬ごっこでもしてきなさい」
「うん!」
「いや、流石にそれは良くないかと思うのですが」
うんざりしているように言った風紀委員長に、ミスター・ハルカは快活に返事をした。エクシオ学園の生徒会長と風紀委員長は、やはり仲が悪いらしい。
変な事はあったが、その後は問題なく風紀委員室を見させてもらった。
◇◇◇◇◇
「客人って、ハルナさんの事ですか?」
「そうだが」
「あの堕落シスターもいやがりますかね?」
「それは知らん。俺が誘ったのはハルナだけだが、連れて来られているかもしれないな」
「チッ」
堕落シスター、私の敵を思い浮かべて、苦汁を飲まされた気分になった。
今、生徒会室にはハルカがいる。あの女とハルカが対面している事を想像すると、吐き気がする。
「どうして今日に限って校長先生の知り合いと会談しなければ……」
「生徒会長になったら頻度が多くなるぞ」
「うげぇ……」
嫌な事実を聞かされて、頬が引きつった。
ケイ先輩は一年生で生徒会長を任された程の人だ。そこから今日まで、生徒会長としての責務を果たしてきている。
「そろそろお前も生徒会長だからな。いい加減慣れろ」
「マリカにやらせて引退したいです」
「ダメだ。やれ」
「はい」
冗談みたいに軽く言ったら、強めに返された。
七月もそろそろ終わり、ケイ先輩もあと半年で卒業という時期、私は次期生徒会長としての重圧に耐えられていない。軽い気持ちで生徒会に入り、副会長になった一年生の自分を責めたい。
「はぁ、入らなければ良かったです……」
「マリカはあれだが、他の優秀な奴を見つけられるのなら、辞めても良いぞ?」
「ここまで来て辞められる程の勇気はないです」
溜息をつきながら、ケイ先輩の優しい言葉を一蹴する。
確か、私が想いを寄せている男の先輩が立派に他州の学園にて生徒会長をやっているというのを聞いて、それを真似たくてケイ先輩に頼んで入れてもらった。当時は生徒会に入った事がなかったので、よくわかっていなかった。
今更辞めるのも何か違うと思うから、責任を持って生徒会長を全うする。
「三年になったらOBとして助っ人に来てくれません?」
「来る事はできると思うが、参加は許されなくないか?」
「幼馴染って事でごり押します」
「都合の良いときにそれを使うな」
「はぁ……そんな事よりも客人を待たせているのでさっさと行きましょう」
「そのつもりだろ」
廊下を走っていけないというルールを守りながら、早歩きで生徒会室に向かう。
別に私は、幼馴染という立場をこういうときにだけ使っているわけではないのだが、ケイ先輩からはそう見えているらしい。確かに自分を守ってくれる都合の良い存在として扱ってきたのは否めないが、はっきり言われると腹が立つ。
「……別に先輩の事は――」
「よし、着いたな」
生徒会室に着いた。ケイ先輩が急いで扉を横にスライドさせて開ける。
「……」
話くらい最後まで聞いてほしい、兄みたいな存在に対して心の中で思った。
◇◇◇◇◇
「楽しかった!」
「そう」
混じりけのない声に、相手は若干の笑みを浮かべながら頷いた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「また遊びに来て良い?」
「あなたなら歓迎するわ」
入口の近くで最後の挨拶をして、風紀委員室を後にする。
「またねー!」
ミスター・ハルカが手を大きく振ると、ミスター・カズラが小さく手を振り返してくれた。
最初の印象とは打って変わって、穏やかな雰囲気を醸し出している。どこかの会長とは大違いだ、見習ってほしい。
「広かったね!」
「そうですね」
「生徒会室も広かったら良いのに」
「そうはいきません。学園をまとめる生徒会と違って、風紀委員は学園の平和を守る組織なので、それなりの人数が必要なのですから。少人数なら広さは必要ありません」
「はーい」
優しく語り掛けると、素直に返事をしてくれた。本当に子どもみたいだ。
今までも少女みたいな反応が多々あった。知識が学生と同程度である雰囲気だったからこの子はれっきとした学生だと思い込んでいたが、実は飛び級の子どもかもしれないと、朧気に思った。
私の事を先輩と呼ぶのも、チヨ先輩と同じ年だと勘違いしているからだと思っていたが、そういうわけではない可能性が出てくる。
「次はね、ハルカの教室に行こ!」
「わかりました」
透き通った声が廊下に響くと、周りの生徒達が注目してきた。
攻撃的だったり、穏やかだったり、生徒によって違う視線が送られてくる。そのほとんどは私に向けられていて、肩身が狭い。
「今、誰かいるかな」
「放課後に残っている人といえば、勉強している人とかですかね」
「勉強って、お家とか図書館でするものじゃないの?」
「教室は広くて声も出しやすいので、たくさんの友達と一緒に勉強会をしやすいのです」
自身の学園での一幕を思い出す。
中学生のときもそうであったが、勉強会は教室でやる事が多い。家には自分の好きな先輩の写真が至る所にあるために人を招きたくないし、図書館だと専用のスペースに行かない限りは声を出すのが憚られるので、クラスメイトとの勉強というのは教室が一番都合が良いのである。
「……」
何気ない言葉であったと思うのだが、それを聞いたミスター・ハルカが寂しそうに俯いた。
「どうかされましたか?」
「……なんでもない」
疑問を呈すると、首を振られる。表情が暗く、何か気になる事があるらしい。
ミスター・ハルカが歩みを止めてしまった。
「えっと、何か失言をしてしまったのなら謝罪をしたいのですが」
「……うぅん、早く行こう」
もう一度、ミスター・ハルカが歩き出した。
先程よりも速足で、どこか焦っているように感じられる。
「……?」
小さな子どものように、理解の範疇を超えた行動をされて、訳がわからなくなってきた。
◇◇◇◇◇
「お邪魔させてもらってます、ミセス・ケイ」
「なぜハルナだけなんだ?」
生徒会室には、客人であるハルナさんだけがソファで座っていた。
「あの、ハルカはどこに行ったのですか?」
寂しがりな少女がおらず、心配になる。
生徒会室に誰もいなかったから、勝手にどこかに行ってしまったのか。そうだった場合、早く連れ戻さないとならない。
「ヒヨリと一緒に――」
「は?」
「……あ」
立ってこちら側に来ていたハルナさんの言葉を思わず遮る。すると、失言をしてしまったと言わんばかりに口を噤まれて足を止めた。
「なるほど。ハルカがお前の部下にこの学園を自慢しているのだな?」
「何呑気になっているんですか。あの泥棒猫にうちのハルカが奪われようとしているのですよ?」
「いや、ハルカを一人にした俺らにも責任があると思うが」
「うるさいですね」
「……」
危機感が足りないこの兄みたいな人に、思わず毒を吐く。
あの女の上司は、焦ったように冷や汗をかいている。ケイ先輩の言っている事は事実であるようだ。
「まあ、とりあえずハルナをもてなすか。お前も手伝え」
「私はハルカを捜さないといけないんですけど」
「時期に戻ってくるだろ。捜しに行って入れ違いになったらどうする」
「くっ……」
「ハルナ、もう一度ソファに座っていてくれるか?」
「かしこまりました」
ケイ先輩に痛い所を突かれ、口ごもる。
言われるがままに、コーヒーの準備を始めた。ケイ先輩の方はクッキーを用意している。
ハルナさんは、ソファに座り直した。
「この間のプリン程美味いわけではないが、精一杯のおもてなしだ」
「ありがとうございます。お気持ちがとても嬉しいです」
お皿に綺麗に並べられた真ん丸のクッキーがテーブルのハルナさんの前に置かれる。
このクッキーはケイ先輩が作った物で、チョコチップがふんだんに使われている。先輩と私の好みは似ているので、ケイ先輩が作る料理、お菓子というのは口に合う。
「コーヒーに砂糖とかミルクは淹れますか?」
「あなた方がいつもされているようにお願いします」
「ならミルクだけ淹れますね」
ハルナさんの言葉に合わせて、私がいつもやっているようにする。
このクッキーには、いつも砂糖なしのミルクコーヒーを合わせている。ケイ先輩がそうしているので、なんとなく私も真似しているのだ。
「先にこっちを食べてみてくれ」
「それでは、いただきます」
ハルナさんがクッキーを手に取り、小さな口に運んだ。
「……」
コーヒーを淹れるためのお湯に注意しながら、無言でクッキーの行方を見守る。私が大好きなクッキー、口に合えば良いのだが。
サクッという音と共に、クッキーが口に吸いこまれた。
「……美味しいですね」
「本当か!?」
その言葉を聞いて、ほっとした。ケイ先輩も、とても喜んでいた。
◇◇◇◇◇
「……」
ミスター・ハルカによって連れられてきた教室には、誰もいなかった。キレイにデスクと椅チェアだけが並べられている。
七月も終わりに差し掛かっていて、学園も明後日から夏休みだ。アカントの学園とエクシオの学園は大体同じくらいに夏休みに入るらしいが、その間は授業がないため個人的な活動がいろいろできる。
「誰もいませんね」
「……」
私の問いに、ミスター・ハルカが黙り込んだ。
先程のやかましいチックみたいな印象から一転して、死期を悟ったヘン――ニワトリみたいな雰囲気だ。
「先程から静かですが、どうかされましたか?」
できるだけ優しさを詰め込んで、語り掛ける。
子ども、というよりかは人類についてだが、私にとって理解の範疇を超えるような存在だ。大人ですら何を考えているのか理解できないのに、子どもは滅茶苦茶で、どう接して良いのかわからない。
「……ヒヨリ先輩」
「はい?」
少しの沈黙を過ぎ、不意に相手が問いかけてくる。
寂しそうに細められた目に、私の事を値踏みしているような印象を抱いた。
「……ハルカは、怖い?」
「……?」
こちらを試していそうで、だが震えながら、相手は言葉を吐き出した。
理解ができず、思わず首を傾げた。この少女は何を言っている。まだ会って時間が経っていないのに、怖いわけがない。
「答えて」
目つきを鋭くし、語気を強めてミスター・ハルカが言った。
「……まあ、怖くないですよ」
「ほんと?」
とりあえず返事をすると、芯の通った声で返された。
「本当です」
「あなたの事などどうでもいいので」、喉を通りたそうな言葉を抑えて、答える。
質問の意図が見えない、こいつは何を言っている。こちらを見下したような視線も謎であり、脳の処理が追い付かない。
「……うん」
静かに、ミスター・ハルカは頷いた。
所詮は他人だ。この少女が何を思っているのか理解ができないし、同い年の人を見下そうとする奴はさらに他人でしかない。
いっその事、こいつが本当に子どもであるのなら、特に興味が湧かなかったのだが。
「質問の意図が理解できませんね」
「……なんでもないよ!」
こちらも負けじと聞き返してみたが、首を横に振られた。
やはりこの学生は私の恋敵の後輩だ。生徒会室であの女の影響を受けまくったのであろう、よく知らないのに性格の悪さが透けて見える。
「そうですか」
「えっと……ここ、ここがハルカの机だよ!」
ミスター・ハルカに手を引かれ、数ある席の中から一つの近くに連れて来られた。
特に目立った物はない、何の変哲もないデスクだ。中身に何か入っている事はない。唯一、チェアの座高が高い事が特異点だが、気になる程ではない。
「何も置いていないようですが」
「?」
本当にデスクが使われているのか疑問を口に出したら、相手は首を傾げた。
「授業のための教科書とか、机の中に置いていかないのですか?」
「それだと家で勉強できないよ?」
「……」
私の疑問に、当然のように勤勉な少女が答えた。
なんだか、恥ずかしい。私でもわかるくらいに顔が熱くなっている。
こんな子どもみたいな女の子が、私なんかよりもはるかに勤勉である。私の上司であるシスター・ハルナも勤勉であり、名前が似ているのも合わさって思い浮かべてしまった。
「ヒヨリ先輩は何か置いてるの?」
「……はい。教科書とかは重いので、学園に置きっぱなしである事が多いのです」
純粋な疑問に、言い訳をしながら答える。
教科書が重いのも事実だが、実際は家であまり勉強しない。家でやる事といえば、大好きな先輩との結婚生活を想像したり連絡して話したり、それ以外だと家にある古生物学の参考書や論文を読んでいるくらいで、勉強は苦手だ。
「そうなんだね」
「そろそろ戻りましょう。生徒会長が戻ってきているかもしれないので」
「……うん」
頭が痛くなりそうな話題を切り上げて、生徒会室へと誘導した。
どうせあの女も戻ってきているのだろうが、この状況に私は飽きていた。だから、そろそろ帰りたいと思った。
「……はぁ」
嫌な顔を思い浮かべて、思わずため息が漏れる。
なぜあんな女が紫という高貴な色を持っているのか、考えただけで苛立ってきた。おまけに私の好きな女優みたいな姿形をしているし、羨ましい。
「どうしたの?」
「なんでもありません、行きましょう」
「……?」
何もわからないといったように見つめてくる少女の手を強引に引いて、ここまで来た道を引き返した。
◇◇◇◇◇
「ハルカが戻って来ない……」
ハルナさんをもてなしてから、一時間程が経った。体感的には五時間くらいだ。
「とても楽しんでいる様子ですね」
「いや、まあ、そうだな……」
「何かおかしな事が?」
「あ、あぁ、なんでもない」
歯切れの悪いケイ先輩の声に、ハルナさんは違和感を持ったらしい。
実際の所は、教室に連れて行っているのだろう。ハルカが誰かに学園を案内する所といえば、私と一緒に休憩する所かハルカの教室くらいである。
生徒会室からハルカの教室まで、急いでも二十分くらいはかかってしまう。ゆっくり案内しているとしたら更に時間がかかってしまうのだろう。
しかし、ケイ先輩はその事を隠したいらしい。私の知らない何かがあるのだろうか。
「くっ、ミカンのニオイでハルカの気が狂ってないか心配です」
「そんな事あるか?」
「イメージはできます。あの子の髪を見ているといつの間にか手にオレンジがありますから」
「え、そうなのか?」
「あいつの場合はカビが生えてますけどね」
「それ以上はやめろ、言わせんからな」
「チッ」
思わずあの女、ヒヨリの事を思い浮かべて、愚痴を吐き出しそうになるが、ケイ先輩に遮られたのでしぶしぶ受け入れる。
ケイ先輩、自分が愚痴を吐きまくったせいでアカント嫌いがなくなりかけたなどと言っていたが、そんな事はない。実際は性欲によって一人の女に対して嫌悪感を覚えなくなっただけなはずだ。
実際に、アカントの事は今でも普通に嫌っている。聖堂会だけ、ハルナさんに嫌われたくないから嫌悪感を抑えているようだが。
不意に、扉が開かれた。
「誰がカビの生えたミカンですか」
「なんで聞こえてるんですか」
目を細めてこちらを睨みながら、恋敵が生徒会室に入ってきた。
「ただいま!」
「ちょ、どうして手を繋いでるんですか!」
「んー?」
普通に手を繋いでいるハルカに、危機感を覚える。
とりあえずヒヨリから引き離す。その後に、とりあえずハルカを抱きしめた。
「……なんの冗談ですか?」
何が起こっているのか理解できていない人の声が聞こえた。
ハルカを抱きしめているので相手の表情は見えない。しかし、見たくないものを見ているかのように苦しい表情をしてそうで、声のトーンが過去一で低い。
今まで聞いた声の中で一番低く、真っ黒な虫を見たような声だ。
「大丈夫ですか、虫を食べさせられてないですか?」
「優しくて温かい人だったよ?」
「うぇ?」
聞きたくない言葉を聞かされて、頭が真っ白になる。
「虫を食べるというと、やっぱりアリの幼虫とかですかね?」
「わかるぞ、アリの幼虫は美味しいからな」
「そうですよね」
ケイ先輩とハルナさんの会話が右耳から入っていたが、左耳からそのまま流れる。
「ヒヨリ先輩、すっごく優しかったんだよ」
「そそそ、そ、それ、それは……」
「ふっ」
「笑うな!」
ハルカの純粋な言葉に動揺していたら、鼻で笑われた。
「チヨ先輩、どうしたの?」
「えっと、あいつは……うぅ……」
純真無垢、濁りのない湖みたいな目に、心が押し潰されそうになる。
何も知らなさそうな少女に、醜い関係性を晒したくない。
「……あなたって、意外と性格が良いみたいですね」
「意味がわからないのですが」
「なんでもないですよ」
変な事を言ったヒヨリの方を向くと、冷や汗をかいているのが見えた。
こいつ、普段は私の事を褒める事はない。きっと何か企んでいる。心なしか私を見下しているようで、腹が立つ。
「うざいですね、殴り合いでもしますか?」
「なぐりあい?」
「あ、いえ、なんでもないですよ……」
「ふふ、私とチヨ先輩は少し用事があるので、また後で会いましょうね」
何も知らなさそうな少女に対して満面の笑みを浮かべるヒヨリが気持ち悪い。
いつも見る悪い笑みでも、私以外に向けている猫被りのような笑顔でもない。近い表現は愛想笑いとかだろうか、それにしては虫が口の中に入ってきそう。
「ほら、行きましょうか」
「そうですね」
「行かせません、もう帰りますよ」
「大人しくしてろ」
ハルカから離れて性悪女について行こうとすると、先輩に止められた。
「これだけは譲れないです」
「ダメです。帰りますよ」
「ですが……?」
「あまり困らせないでくださいね?」
「……はい」
往生際の悪い女の言い分に、ハルナさんの表情が消えた。
思わず冷や汗をかいて、ケイ先輩の方を見た。むしろ見惚れているようで、頬を紅潮させている。
いや、さすがに盲目すぎる。マンモスですら尻込みしそうな圧に惚れるとか正気の沙汰ではない。実際に、圧を受けたヒヨリは怖がって、水を奪われた魚みたいになっている。
「いやー、かわいいな」
「はぁ?」
「良いだろ別に」
小賢しく、ケイ先輩は小声で呟いていた。その言葉はハルナさんに届いていないようで、ヒヨリを直視していた。
というか、最初は怖がっていたような気がする。短期間でどうしてここまで変わってしまったのか。性欲はそんな万能な物ではないと思うのだが。
「それでは、帰りますね」
「ああ、またな」
ハルナさんが振り返って、笑顔で言った。ケイ先輩も笑顔で返した。しっかりと顔の赤みを消していて、ちょっとうざい。
「……あの」
「なんだ?」
「えぇと……」
しかし、急にハルナさんの方が恥ずかしそうに頬を赤らめて、ケイ先輩から目を逸らした。
「何かあるのか?」
何もわかっていなさそうなケイ先輩が質問をする。
なんとなくだが、見送ってほしいような気がする。ハルカが、一緒に来てほしいときに誘ってくるようなしぐさに似ていて、少しだけほんわかした。
意外と、ハルナさんもケイ先輩の事が気になっているのかもしれない。
「ケイ先輩に送ってほしいと思ってるよ!」
「そ、そうなのか?」
「は、はい……」
ハルカが察したのか、大声で言う。それを聞いてケイ先輩が確認すると、ハルナさんが俯きながら肯定した。
「そ、そうだな!」
「察し悪いですね、あなた」
「う、うるさいな!」
目を細めて呆れたように言ったヒヨリに、ケイ先輩が狼狽えた。
普段は絶対に思わないけど、良いぞもっと言ってやれ、と考えてしまった。
「ハルカも一緒に行く! ヒヨリ先輩と手を繋ぎたい!」
「……え?」
「え?」
ハルカはそう言って、ヒヨリの手を取る。
「えへへ……」
「……わかりました」
「だ、ダメですよ! 私と手を繋いでください!」
「チヨ先輩とはいつでも繋げるもん!」
「そ、そんな……」
急に眩暈がしてきた。
え、私よりこの女を選ばれるのか、え、そんな、おかしい、そんなわけ、え、え――
「あ、あぁ……」
「おい、どうした!?」
ケイ先輩の声が最後に聞こえて、意識を失った。
大人になってしまったので、子どもの描写が難しい




