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テロム  作者: 冷凍御飯
オーバーワールド
11/22

第二次アカントーエクシオ大戦勃発の危機

別視点

「ハッハッハ、アカントどもに宣戦布告をしに行くぞ!」


 アカント州、それは我がエクシオ州の敵である。

 エクシオ学園生徒会室のソファで、呑気に好きな女優の写真集を見ている後輩を連れて、アカント州とエクシオ州の戦争の火種をつけてやろうと思い立った。


「めんどくさいので嫌です」

「何を言っているんだチヨ、強制だ」

「はぁ?」


 ソファで、腰まで伸びているであろう長い紫色の髪を枕代わりにしている後輩、コツナチヨはめんどくさそうにその長髪に指を絡める。

 こいつは俺の幼馴染でもある。


「私は穏便派なんですけど、ケイ先輩一人で勝手にやってください」

「さっさと行くぞ」

「わかりましたよ」


 あくびをしながらこちらを睨んできたので、有無を言わせずに連れて行く予定だ。

 チヨは、だるそうにソファから立ち上がり、写真集を本棚にしまって、俺に近づいてきた。


「わざわざ車で行くのだからな」

「事故は起こさないでくださいね」


 チヨの嫌味を無視し、生徒会室を出た。


「私は戦争が起きても田舎に避難しますから。勝手に行ってください」

「まあ、それは個人の自由だが……」

「はあ、せっかくシュリちゃんの写真集を見てたのに」


 わざとらしく大きなため息をついて、チヨは言葉を吐いた。

 シュリちゃんとは、十条朱里(ジュウジョウシュリ)という女優の事だ。最近写真集が出たとかで、更に熱中しているらしい。俺には理解できない感覚だ。


「そんな写真集を見て何が楽しいんだ?」

「楽しいですよ。綺麗な美人さんって、見ているだけで眼福じゃないですか」

「あまり好みではないからピンとこないな」


 確か、この女優は今人気を博しているとかチヨが言っていた。しかし、自分の好みではない。


「先輩って、あんまり女の人に興味ないですよね。ゲイですか?」

「どうしてそうなる。というか、俺がゲイでないのを一番知っているのはお前だろ」

「まあ、ゲイって他の人には良いたくないですよね」

「お前なぁ……」


 澄ました顔で言ってくる幼馴染に、思わず呆れる。

 そんな話をしているうちに、学園の正門前に着いた。そこに用意してある車に、チヨを助手席に乗せ、俺は運転席に乗った。免許を取ったのは一か月くらい前だから、初心者マークは必須だ。


「目的地を変えてテロム州に行きません?」

「好きな男に会いたいだけだろ」

「良いじゃないですか。私の愛しいミキ先輩に会わせてくださいよ」

「家を知らん」

「チッ」


 行先を変えようとしてくる幼馴染の言葉を全て一蹴して、アカント州へと向かった。


◇◇◇◇◇


「……よりによってここですか」


 いかにも嫌そうに顔をしかめて、チヨが言った。

 車を駐車場に止めて、外に出る。ここは、アカント女子学園の一つ、聖堂会という所だ。駐車場から聖堂会まで距離は結構離れているのだが、それでも壮大な建物が見える。

 建物の名前は聖堂と言い、エクシオでは教会と呼ばれる。白い壁に尖った屋根、そして所々にあるガラスが特徴的である。


「ここはアカントどもの中の穏便派の中で一番勢力が強いと言っても良いからな」

「チッ」

「どうした?」


 チヨは舌打ちをして、表情に怒りを滲ませた。

 自分の狙いとしては、アカント州の穏便よりの派閥である『プレイストセネ派』に属する聖堂会の一部を爆破する事で、アカント州を刺激し、戦争を勃発させようというものだ。戦争を起こす事が目的であるため、人を殺さないように、できれば怪我をさせないように、人気のない所で爆破する。人が死ぬときは戦争のときだけで良い、だから、この時点では誰も殺さない。そして、自分が爆破の犯人だと名乗り出て、宣戦布告をする。

 戦争でアカント州の奴らを合法的に殺す、それが主目的だ。

 しかし聖堂会に来てから、チヨの雰囲気がめんどくさそうなものから確実な怒りに変わった。それに違和感を感じたが、アカントに対して怒りを抱く事は良い事なので、とりあえず無視する。


「……まあいい、とりあえず爆弾の準備を……」

「原子爆弾ですか?」

「そんな物使うわけないだろ!」

「徹底的に潰しますよ、特にあいつを」

「あいつって誰だ?」


 怒りを抱く事は良い事とは言ったが、原子爆弾を使うのはあれだ、良くない。なぜ良くないかと言うと、危険だからだ。いや、そもそもエクシオでは核兵器を使うのが躊躇われている。めんどくさい手順を踏んで、ようやく使えるようになるくらいには危険な物を易々と使うわけにはいかない。

 流石に、チヨの変わりように驚く。あいつという言葉から察するに、この聖堂会にチヨの嫌いな奴がいるらしい。

 聖堂会の、大きな門がある所に来る。ここは正門だ。聖堂会というのは、アカントの中でも自然をより大事にする所で、周りには林が整備されており、門の中は草原のように、草木が手入れされている。

 アポは全く取っていないので、不法侵入だ。まあ、バレないようにすれば問題ない。


「お客人ですか?」


 急に背後から、まるでゾウに睨まれているような凄まじい圧を感じた。

 恐る恐る振り返る。そこには、ライオンを従えてそうなオーラを放つ、俺と同じようにギラギラとした銀髪を腰まで伸ばした、怖い人がいた。黒を基調とした修道服を身に纏い、いかにも自身が聖堂会の長だと示しているようだ。

 隣には、同じく腰まで伸びた、橙色の髪をを持っている、付き添いの女性がいる。同じく修道服を着ているが、別に恐ろしい事はない。


「く、ここで遭遇してしまうか……」


 不覚であった。最近は忙しかったために、ここについての下調べはあまり行っていなかった。唯一やった事と言えば、人が少ない時間帯を調べるくらいである。


「うわ」

「あ? 喧嘩を売ってるんですか?」

「絶賛安売り中ですよ」

「買います、来てください」


 付き添いの女性が、チヨを見るなり、いかにも嫌そうに表情を歪める。それに対して、チヨは喧嘩腰に挑発した。

 後輩の幼馴染と相手の付き添いが、一触即発な雰囲気になる。


「シスター・ハルナ、少し席を外します」

「え?」

「ケイ先輩、決着をつけてきます」

「何を言っているんだ?」


 そして、チヨとその少女は聖堂の裏の方に消えていった。

 これはまずい。銀色の長髪を持つ女性の圧に、このままでは屈しそうだ。


「ち、チヨ! ま、待て!」


 必死に呼び止めるが、無視されてしまった。

 おかしい、チヨがここまで敵意を向けるなんて、初めての出来事だ。いつもは、争いがめんどくさいとかで敵意を隠すのに。


「……後で詳しい事情は訊いておきます。とりあえず、客室に案内しますね」


 一瞬呆れたように額に手を当てたが、この女性はすぐに、裏がありそうな笑顔になった。

 なんというか、本当にゾウみたいだ。客室に案内するなどと言っていたが、実は拷問室に連れて行かれるのかもしれない。

 俺はエクシオ学園の生徒会の恰好をしている。確かに聖堂会はプレイストセネ派という派閥に所属しているが、全員がそれではない。この女性はアカント州で一番の強硬派で反エクシオが強い『パレオセネ派』であるのかもしれない。


「……あぁ」


 だが、屈しない。確かに恐怖でどうにかなりそうだが、何とか踏ん張る。

 爆弾を仕掛けるのは後で良い。まずは、この女性に勝つ、そして屈辱を晴らしてやる。


◇◇◇◇◇


「私は、アカント女子学園の聖堂会で会長を務めております、三年のコミハルナと申します」


 客室に案内され、ソファに座らされた。机を介して、女性は反対側のソファに座っている。相変わらず圧を放っていて、怖い。あまり派手な置物などは置かれておらず、質素な客室の中だと、さらに圧がある。

 まさか俺よりも背の低い、しかもアカント州の女性にここまで苦汁を飲まされるとは、予想外だ。

 相手の女性は聖堂会の会長であったらしい。なら、パレオセネ派の人物ではなく、プレイストセネ派で確定だ。これは有名な事ではあるのだが、聖堂会では、必ずプレイストセネ派の人物が代表になる事になっている。


「なるほど、コミハルカか」

「ハルナです。古く美しいで古美、晴れるに野菜の菜で晴菜です」

「す、すまない……」


 聞き間違えたらしい。確認のために名前をオウム返しすると、漢字まで言われて訂正された。

 コミハルナ、この女性はそう名乗るらしい。コミハルカという、知り合いである七歳の天才少女と間違えてしまった。

 間違えたからなのか、圧がさらに強くなる。心の中だが言い訳をさせてくれ、コミハルナとコミハルカ、名前が似すぎでややこしい。恐怖により少しばかり頭が混乱していたのだ、だから間違えていても仕方ない、はず。


「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「こ、コツナチヨだ」

「あら、おかしいですね。先程の連れ添いの方をチヨと呼び捨てでおっしゃられていたのですが」

「……」


 本名を知られるのが癪だったので、チヨの名前を騙った。しかし、お見通しと言うように、このアカントの女性は指摘してきた。

 ふざけているように感じたのか、相手の圧がさらに強くなる。さながら、ゾウを超えてマンモスだ。下手したら踏みつぶされそうである。

 確かに、さっき大声でチヨの名を呼んだ。俺の名前もチヨかもしれないだろ、という不満を抑えて、本名を名乗る。


「……ジョークだ。俺はエノモトケイだ。エノキに本で榎本と、絶景の景で、榎本景だ」

「なるほど、ではミセス・ケイとお呼びしますね。私の事は気軽にハルナとでもお呼びください」


 ハルナという女性に倣って、自分も漢字をわかりやすくした。

 俺の事をミセス付けしているが、圧は相変わらずだ。おそらく、ミスター・ハルナと呼ばないとお命が危ないですよ、などと暗に言っているのだろう。アカントでは、ミスターは女性の敬称であり、ミセスは男性の敬称である。

 だが、屈してはいけない。この女性の言う通りに、呼び捨てにする事にした。


「急な来訪でしたので、大したおもてなしができないのですが、お許しください」


 ハルナはそんな事を言った。「アポなしで来たのは英断だな。お前を葬る準備ができていないからな」というニュアンスで言っているのだろうか。

 なんという恐ろしさだ。本当に今日が命日になってしまいそうだ。満面の笑みで俺の命を奪ってきそうなこの女性が、狂気的に思えてきた。


「き、気にするな……」


 今にも震えてしまいそうな体を押さえつけながら、強がる。

 正直な話、今すぐ帰りたい。こんなにも恐ろしい女性がいるという事を知ったら、もう少し準備をしてきた。

 そもそも、チヨが隣にいたらここまで怯えるような事態に陥っていない。

 空気の流れが淀んでいるし、冷や汗もかいている。


「それで、本日はどのような御用で?」

「……ハッハッハ、俺を見くびるなよ?」


 笑顔を崩さず、ハルナは言ってくる。さらに圧が強くなってきた。

 強がりを続けようとするが、口が上手く動かない。頑張って絞り出そうとしても、震えてしまいそうだ。だが、それを察せられたくない。


「……くっ、俺は屈しないぞ!」

「何にですか?」

「何!?」


 ようやく言葉を絞り出したが、受け答えが上手くできていない。せめてもの抵抗で睨みつけるが、相手は気にしていない様子だ。

 とにかく、俺はこの女性が天然であると思い込む。そうすれば、圧というのは勝手に出てしまうという、気休めにはなる。あとは、名前が似ているハルカの顔を思い浮かべれば、何とかなりそうだ。

 心なしか、ちょっと似ているような気がする。


「……」

「喉が渇いているのでしょうか。それなら、飲み物を持って来させます」


 「飲み物と、客人用のもてなしの品を、至急を持って来なさい」と、ハルナは客室の扉の前にいた背の高い生徒に言う。その生徒は元気よく返事をし、部屋を退出した。


「少々お待ちください」


 「もうすぐお前の人生が終わるぞ」、という空耳が聞こえてきた。


「……こ、このケイ様を舐めるなよ?」


 覚悟を決める。

 この様子だと、飲み物には毒が盛ってあるのだろう。そして、このケイ様を毒殺した後、証拠隠滅として死体を隠すのだ。

 俺が行方不明になって、ここに捜査が入ったとしても、この圧で全てをなかった事にするのだろう。なんという恐ろしい女性だ。


「お待たせいたしました」


 扉が開かれると、先程の生徒が、グラスに入ったアイスコーヒーとプリンをトレーに乗せて持ってきた。それを、俺の元に差し出してくる。


「知るが良い! このイエス・ケイの崇高さを!!」


 イエス、エクシオの最高敬称で自分を称して、高らかに宣言する。

 グラスにはストローが差してあった。コーヒーにではなく、ストローに毒を塗っていると思えば、直で飲むのが良い。しかし、それだと逃げているだけに過ぎない。

 俺は、誇り高きエクシオ州の知事、その息子で、エクシオ学園の生徒会長だ。ならば、毒に怖気づく事なく、飲み込むのだ。そして、なんとかして生き残り、エクシオの力強さを証明する。

 だから、飲むのを拒んでいる場合ではない。さっさと飲んでしまおう。意を決して、コーヒーを飲む。そして、その後に用意されたスプーンでプリンを食べる。


「ふ、美味いな。アイスコーヒーの苦みとプリンの甘みのバランスが良い」


 精一杯のキメ顔をして、言い放つ。

 最初にアイスコーヒーを飲んだので、一気に苦みがやってきた。その後にプリンを食べる。口の中に苦みが広がっていたので、プリンがより甘く感じた。


「アイスコーヒーに砂糖が入っていないのはとても良い。それがよりプリンの甘さを引き立てている。それに、プリンは甘めに作られているが、それでいて美味さが消えていない。とても素晴らしい」


 「お前の毒攻撃など効かぬわ。残念だったな」というニュアンスを含みながら、強がった。

 遅効性の毒であるのか、苦しみはない。逆に、コーヒーの苦みとプリンの甘みが伝わってくる。この感覚は素直に心地よいと思った。


「あ、ありがとうございます」


 ハルナは、頬を赤らめながら、嬉しそうにはにかんでそう言った。

 なんか違う。予想していた反応としては、次の刺客を送ってトドメを刺してやるというものであったが、普通に喜ばれてしまった。

 なんだか、空気が澄んできたような気がする。


「コーヒーはわからないが、このプリンは自家製だろうな。これを作った者に賞賛を送りたい」


 続けて、俺の率直な感想を言う。

 とにかく、自分の権威を見せたかった。エノモトケイの強さを相手に見せびらかし、相手に畏怖の念を持たせたかった。

 毒が効いていない事を示すために、おそらく自分を殺すためにだされたであろう物を美味しく頂く。これこそ、相手への最大限の威嚇であるはずだ。


「わ、私です……」

「そうか、そうだったのか。流石、聖堂会の長だな。素晴らしい」

「そ、そんなに褒めても、何も起こりませんよ……?」


 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに、ハルナは俯く。

 やはり、なんか違う。いや、反応の一つとして間違ってはいないのだが。そもそも、このプリンを作った人がハルナだとは微塵も思っていなかったので、本当に予想外であった。アカントには、上に立つ者が料理をしてはいけないなどという訳のわからない文化が合ったはずなので、なおさらだ。

 気が付いたら、圧が消えていた。


「正式に買い取りたいくらいだ」

「もう、お世辞が上手なんですから……」

「いいや、本気だ」

「……」


 もはや、邪念はなかった。素直に、ハルナのおもてなしを嬉しいと思ってしまっている俺がいた。それなのに、屈辱感はなく、逆に清々しさがあった。さらに、このコミハルナという女性が、とても魅力的に見えてきている。

 それにしても、このプリンは本当に美味い。毒が入っていないのであるのなら、生徒会の面々にこのプリンをおすそ分けしたい。特に、プリンの作り主と名前が似ているハルカは、こういう甘い物が大好きだ。この、砂糖に塗れていない、上品な甘さのプリンも、喜んで食べてくれるだろう。


「……本題に戻しますね。どのようなご用件で来たのでしょう」


 先程まで頬を赤らめていたハルナであるが、圧のある笑顔に戻った。


「……」


 そんな顔を見て、不覚にも美しいと感じてしまった。


◇◇◇◇◇


「あなたに、この聖堂会秘伝の苦いジュースを飲ませます」

「どうせそんなに苦くないでしょうね」


 不意に扉が丁寧に開かれ、客室に二人の女性が入って来た。一人はチヨで、もう一人はハルナが連れ添っていた女性だ。

 なぜか、チヨはコップを持っている。


「ひ、ヒヨリ、なぜそれが!?」


 ハルナは、ヒヨリと呼んだ少女が持っている、濃い緑色をした飲み物が入った透明の容器を見て、目を見開いて驚きの声を上げる。さらに、その衝撃で座っていたソファから立ち上がった。

 その飲み物は、見ただけでも恐ろしい緑色をしていた。まるで腐った果物みたいな、ドロドロとした液体である。飲み物と言及はしてみたが、ただの液体といった表現の方が正しい。


「チヨ、お前は何をしている?」

「ちょっと黙ってください」

「何!?」

「黙ってろと言ったでしょうが」

「意味がわからないぞ!?」


 俺の知っているチヨとはもはや別人のような豹変ぶりに、困惑した。俺の知っている幼馴染は、嫌味は吐くが暴言は吐かない。

 ヒヨリと呼ばれた女がコップに緑色の飲み物を入れると、チヨはそれを受け取って飲む。


「あ……」


 その光景を見て、ハルナが啞然とした。目を見開いて、唖然としている。


「あの液体に何かあるのか?」

「いえ……あれは、私達聖堂会が飲んで、九割の生徒と全ての先生が気絶した程苦いのですが……」

「危険すぎるだろ!?」


 恐ろしそうに言うハルナに、その恐ろしさの片鱗を感じた。

 というか、どうしてそんな物を作った。拷問にでも使う予定だったのか。それにしては、聖堂会の全員が飲んでいる。いや、本当に意味不明だ。


「……おぇ……余裕ですよ」


 しかし、チヨはとても苦そうにしているものの、一気飲みした。

 自分では絶対に飲みたくない物を飲む後輩は凄いと思ったのだが、同時に呆れた。俺は絶対に飲みたくない。

 嫌いな奴に対して強がりたい、その気持ちはわかる。だが、何がチヨをそこまで動かすのか。


「ふふ、苦いとお顔がおっしゃっておられますよ?」

「ヒヨリ、後で懺悔室に来なさい」

「いくらハルナ様の命令でも、それだけは聞けません。殉職した方が良いです」

「どうしてですか!?」


 ヒヨリがチヨを煽ると、ハルナは怒ったようにヒヨリを叱った。しかし、ヒヨリは毅然とした態度で言い返した。

 驚いた。今のは、本当にハルナが怒っているという雰囲気であった。それにも関わらず、ヒヨリという少女はまったく意に介さないどころか、逆に覚悟を決めたように凛とした表情を見せた。それに対して、悔しさと尊敬の念を感じた。


「チヨ、本当に大丈夫なのか?」

「うるさいな。お前がここに連れてこなかったらこんな目にあってないですよ」

「なんか口が悪いな!?」

「いちいち声が大きいんですよ。少しは音量を抑えたらどうですか」

「そんなに大きな声を出した覚えはないが……」


 敬語ではあるが、完全に怒っている。ここに連れて来られたのが本当に嫌だったようで、少し申し訳なくなった。

 いつものチヨなら、悪態をつきつつも、愛嬌がある。だが今のチヨは、ただただ怒っているだけの少女だ。


「うるさいので、飲んでください」

「おい……ふぐぅ!?」


 チヨは、コーヒーに差してあったストローをドロドロの液体の方に差すと、口に入れてきた。俺は座っていたので、身長差は関係ない。三十センチくらいは差があったはずだが、無意味になっている。

 思わず啜ってしまった。すると、強烈な苦みが襲ってくる。


「おぇぇ……」

「ミセス・ケイ!?」


 ハルナが心配そうに、こちらを見てきた。

 苦い、ただそれだけでしか表現できない。苦汁の飲まされるという次元ではない、これは口にしてはいけないモノだ。先程のコーヒーは苦みも含めて美味かったが、これは違う。

 本当に、なぜこんなモノを世に生み出してしまったのか。というか、誰が生み出した。


「……お二人とも、正座しなさい」

「ひぇ……」

「し、シスター・ハルナ……」


 途端に、ハルナの雰囲気がガラリと変わった。圧がある、それは先程と同じなのだが、そんなレベルではない。

 明らかに、激怒していた。その雰囲気に、チヨと、ヒヨリと言う女性がピクッと震えた。


「あなた方の関係がどんなものかは知りません。ですが、人に迷惑をかけるのは言語道断です。反省しなさい」

「うぅ……」

「はい……」


 恐ろしい、その一言に尽きる。相対している二人の女性も、目に涙を浮かべていた。

 もし俺に向いたとなると、無様に気絶してしまいそうだ。

 しかし、先程の苦みがまだ口の中に残っていて、それどころではない。とにかく甘い物が食べたくて、プリンに手を伸ばす。しっかりと残しておいて良かった。


「表面上でも良いので、今は仲良くしてください」

「それは無理です」

「それだけはできません」

「なぜ!?」


 ハルナが言った事に、チヨとその隣の女性は、力強い意志が籠っているような声を発して否定した。

 表面上ですら仲良くしたくないとは、どれだけお互いの事を嫌っているのか。


「……次はお前の番だ」

「では、私はこれで」

「逃げるな!」

「こら! 待ちなさい!」


 嵐のようにヒヨリという少女は客室から去り、チヨが追いかける。ハルナが制止したが、無視されていた。

 二人がいなくなった客室は、静かであった。さながら嵐が去って何も残らなかったようである。


「い、いつもはあんな性格ではないのですが……申し訳ございません」


 ハルナが頭を下げてくる。

 正直、チヨのそれで、アカント嫌いを出している暇はなかった。最初こそ爆弾を仕掛けようとしたのだが、今はどうでも良い。

 とにかく、チヨとあの少女を引き離す事だけを考えていた。


「いや、こちらにも非があるだろう……頭を上げてくれ」

「いえ、それはできません」

「頼む、頭を上げてくれ」

「……そこまで言うのでしたら」


 頭を上げたハルナは、決意に満ちた表情をしていた。

 チヨめ、こんな美しい女性になんて表情をさせているのだ。説教してやらないと気が済まない。まあ、めんどくさそうなのでしないが。


「このお詫びは、しっかりとさせていただきます」

「そこまでは求めていないのだが……」


 なんか、疲れた。これは、チヨのせいだ。あいつがヒヨリという少女の事が嫌いだと知っていれば、他の所に行った。プレイストセネ派より、強硬派である『パレオセネ派』の首長に喧嘩を売った方がマシだっただろう。ハルナの圧も疲れの原因ではあるが、もうどうでも良い。

 ハルナの方も疲れている様子だ。短時間でここまで疲れさせるやり取りをした二人の少女に、逆に尊敬の念を抱いた。敵対心を抱いている場合ではない。


「あと一つ、確認させてくれないか?」

「どうぞ」


 散々振り回してくれた二人の女性は、ハルナの素みたいなものを、ほんの少しだが出させてくれた。だから、それを確認する。


「お前、もしかして、勘違いされやすいのではないか?」

「な、なぜそれを!?」


 俺の質問に、図星であると言った感じで、ハルナは答えた。それに対して、思わず遠い目をせざるを得なかった。


◇◇◇◇◇


「ケイ先輩、チヨ先輩、どこに行ってたの?」


 無事にエクシオ学園の生徒会室に帰ってきた俺とチヨは、ソファに座っていた背の低い少女に出迎えられた。

 この少女こそが、コミハルカという少女である。肩の所まで伸びた金髪が特徴的であり、七歳であるために自分達より身長がとても低い。少女というより、幼女という表現が適切だろう。


「聖堂会だ」

「ハルカも行きたかった!」

「あそこは危険ですよ?」

「ケイ先輩とチヨ先輩は行ったじゃん!」


 頬を膨らませながら、自身の怒りを伝えるように、ハルカは両手を大きく動かす。

 ちゃっかりチヨは聖堂会を危険な場所と表現していた。俺は別に聖堂会を危険だとは思っていなかったが、小賢しい情報操作だ。


「貰ってきたプリンをあげるから許してくれ」

「むぅ!」

「というか、エミ先輩とマリカはどこに行ったんですか?」

「知らないもん……」


 ハルカは拗ねた。まだ七歳という若さでエクシオ学園に入学し、さらに生徒会にも所属できたハルカは天才だ。しかし、周りが年上ばっかりでありで上手く馴染めなくてないらしい。一応クラスの人気者であるらしいのだが、クラスメイトと一緒に遊んでいる所は見た事がない。

 それとは別に、ハルカは重度な寂しがりである。常に誰かと一緒にいないと、今のように拗ねてしまう。だから、生徒会には常に誰かがいないといけない。


「マリカはいてくれると言っていた気がするが」

「マリカの事を信じたんですか?」

「……エミは本当にどこに行ったんだ」

「電話したけど出てくれなかった!」


 マリカとエミは、生徒会の一員である。エクシオ学園の生徒会は五人のメンバーで構成されている。

 マリカの奴は後で説教するとして、エミはどこに行ったのか、後で訊いておこう。


「悪かった、一緒にプリンを食べよう、な?」

「その後は一緒に遊びましょう、ね?」

「……うん」


 若干の不満を残しながら、ハルカは貰ってきたプリンを美味しそうに食べたのであった。

時系列は特に考えてないけど、後で整合性を取っておく予定

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