3通目 日曜日の機関車症候群
遥か遠くの山から、校舎の間へ春風が吹いてくる。
歩道橋をくぐって、団地の中心にたたずむ藤蔵高校、私はその前にいる。
ここがこれからの高校生活の舞台。
その舞台へと上がった。
「んー」
いやーしかし。試験が楽すぎてムカついた。
すごい難しいかなって緊張持って挑んだのに、応用が必要な問題はほとんど出なかったし、記述も全然なかった。なんだよいままでの頑張りほとんど意味ないじゃん、お母さんたち余分にやらせすぎだって、遊ぶ時間もっと増やせたって、ほんともー
…と2ヶ月前の私は思ったけど、でもまあ学校生活に縛られずにリアのほうに全力注げるから、結果的にいいのかな!
勉強の束縛から解放されたぜ!やっはー!
意気揚々と入学式の会場へ向かった。
「ああ我らの藤蔵高校」
なんとなくで校歌を歌いきり、入学式が終わった。
「ではみなさんまた明日。号令」
「起立、礼」
「ありがとうございました」
不揃いな号令で、今日の日程が終わった。
「じゃあ行くかー」
みんなこのまま下校…と普通の高校ならなるはず。
だか藤蔵高校特有のポイントとして、入学式の日から体験入部ができるのだ。周りを見渡すと、みんな別々で動き始めている。
同じ学校同士でダベっている人達。
気のあったクラスメイトと体験入部に行く男子達。
爆速コミュニケーションで友達になっている女子達。
今日は帰ろうと言わんばかりに、そそくさと帰っていく人達。
いつもなら、私もそそくさと帰っているはず。だが!今回は違う!廊下を少し歩いていると
「いくぞ」
アキラが待っていた。
「うい、いこーか」
そう!今から例の演劇部に行く。
アキラの話によれば部員は4人…のうち2人が幽霊部員で、実質2人の過疎ってる部活なんだと。まあその少なさのおかげで、コシャープ星人の話が堂々とできるから好都合だそう。
でも演劇部の活動はちゃんとできているのかな?2人でできる劇ってほぼ漫才みたいなもんじゃないのかな、ある意味面白ろうだけど。まあ今回で何人くらい入部してくるかって話か。
「スオウは?」
「いるぞ。お前は?」
「いる」
今日はリア達も同行させている。
部員にコシャープ星人知ってるよの証明をするためにね。
どうせなら寄生させて学校を見て回らせたいけど、寄生すると目が変わってしまうから仕方ない。いつかは見せてあげたいな。
ちなみに、あらかじめわたしとリアのことはアキラから伝えてある。
「ここ」
「えっあここか」
アキラが図書室の前で止めた、ここが演劇部の活動場所らしい。
扉の隅を見ると、色んな色で書かれた演劇部の文字に「ぜひきてね♪」のキャッチコピーが付け足された看板が、黄ばんだテープで貼られている。
ダッダッダッ
ガササササササ
「失礼しまーす」
「お久しぶりでーす」
部品が少し緩んでいる扉をノックして開けた。
「ども〜」
「おっいらっしゃい」
中に入ると円に並べられた椅子の真ん中に、男女二人の先輩が座っていた。
男子の先輩は大柄な体格だ。刈り上げのワイルドヘアーをしているが、対照的に柔らかい表情をしていて、なんだかクマさんみたい。
女子の先輩はバランスの整った体格だ。ウルフカットに合う、吊り上がって元気な表情をしている。
私たちは向かいの席に座った。
「あなたが例のヒナタちゃん?」
「はい」
「うちは実哉カヒロ」
「わいは白井リョウヘイやで〜」
「じゃ改めまして、村上ヒナタでーす」
「‥俺は前に言ってるからいいすよね?」
「うん別にいいよ」
「うす」
「じゃさっそく本題、リア見せて?」
「えっ今ですか?他に体験しに来る人とかいるかもしれないですよ?」
「チラ見でいいから、あと敬語じゃなくていいよ」
「わかった、リア出てきて」
そうバックに向けて言うと、リアがモゾモゾと出てきた。
「能力って何?」
「えーと光まとってタックルする能力っす」
「おーバスみたいな感じか」
「だいたいそういう感じ」
「うんうんじゃこっちも」
そう話すとカヒロ先輩のバックから、ちょんまげのような触角が生えた星人が。
リョウヘイ先輩のポケットから、大柄で2本の黒い触角の生えた星人が出てきた。
「うちのワカサは、例えるならリニアモーターカー!超高速で移動できる!」
「わいのザキはジャンボジェット機やね」
「へーどちらとも規模感でっかい」
「俺前に使ってるの見せてもらったけど、まあ周りをだいぶ巻き込むな」
「そう、だから屋内だと使いづらいんだよ」
「リアのはどう?」
「いちおう屋内でも使えるっす」
「じゃここのメンツだと唯一か、アキラは水がやばいもんね」
「そうすね」
「じゃ星人の話もここまで、演劇の説明をするよ」
「はーい」
そうして時間は過ぎていった。
・ー・ー・ー・ー・
1週間後。
「じゃ改めまして、演劇部にようこそ!」
歓迎会が開かれた、入部したのはわたしとアキラと
「お願いしやーっす」
ゲンだ。
…誰と思った?わたしも思った、誰やねん。
なんか後から先輩に聞いたところ、どうやら普通に演劇部をしたい一般生徒だそう。
でも演劇したいなら、他の強豪校に行けばよくないかな?進路探しで目にしただけでも、元町や沼多や船入、そんな賢くなくても公商があるはず。
それでもうちに来た理由は「俺が強豪校に成り上がらせてやる!」だそうで、なんともありがた迷惑な話だ。これじゃコシャープ星人の話ができない、いっそのこと知らせてみようかな?いやさすがにリスクが大きすぎる、ただでさえ今の話の限り、なにしでかすかわかんないし。
「じゃさっそく劇練と行きたいが…」
「はいはーい!」
ゲンが割り込んだ話す。
「はいなんだいゲンくん」
「オレ、ヒヒオを見に行きたいっす!」
「あーヒヒオかそうだね!」
「ヒヒオ?」
「まじ!?演劇部入ったのにヒヒオ知らねえの!?」
「いや高校からだから」
「あーヒヒオは色んな強豪校が結託して作ってる劇のことね」
カヒロ先輩が補足してくれた。
「なんと入場料は無料!それで強豪校の劇を学べるのは爆アドだろ!」
「はあ」
「まあありかもしれんね」
「おっほら先輩も言ってんだし、行こうぜ!」
「まあ見に行くか、しょーがない」
熱気に押されて、半ば無理矢理行くことになってしまった。ただ私達は知らなかった、
この出来事がをきっかけにわたしが月へ行くことも。
・ー・
ヒヒオ公演の日。
その日は雨が降っていた。わたしはあらかじめリアを中に入れて見せようと思う。
「よっしゃきたきた!」
「みんなついてこれてる?」
「ちょっちょっと待ってください!」
飛び走っていくゲンと、距離を保ちながら合わせてくれてるカヒロ先輩について行きながら、傘を差して行く。
ヒヒオの劇は、原爆ドームにかなり近い広島市青少年センターで上演される。
劇団ヒヒオというのは、元々ヒヒオ子供センターっていう虐待から子供を守るための施設があり。そこのスタッフ+弁護士+強豪校が協力して、問題の啓発活動としてする劇だそう。
だから劇のテーマはそういう問題に関するものなんだぜ!っていうのをゲンから聞かされた。
今回は児童虐待に関する話らしい、劇自体見る機会があまりないから想像できない。劇といえばロミオとジュリエットとか、歌って踊るミュージカルのようなイメージしかないから。こういう現実的なものってどういう感じなのかな?
なんだかんだで付き添われて来た感じだけど、少しワクワクしてる。
「おっけー着いた着いた」
「ゲン歩くの速いって、公演まであと10分あるよ?」
「ワンチャン準備してるの見れるかもしれねえだろ?」
「開いてなかったら意味ないから!」
「開いてるってほらいくぞ」
ゲンが先に入っていく。
「ちょっと!あいつ!本当に!人を!待てよ!」
「元気がいいね〜」
「リョウ先輩もなんか言ってよ」
「やる気を削ぐのはよくないかなってね」
「やる気は確かにそうなんすけど、先にモラル守ろうよー」
私たちはゲンの後について、会場へ入っていった。
劇が終わった。
感想としてはマジで重かった。
育児の疲れで赤ちゃんを虐待し始めるのも胸が締め付けられたし、話が進むにつれて母親が認知症になっていくのも辛いし、というか役者の演技上手すぎてマジで没入して、余計に辛くなった。
最後に役者全員で歌うエンディングのおかげで、辛い余韻はなんとか引いたけど。
いやー人生で見た初めての劇1発目がこれかーだいぶすごいの喰らった。
あと少し驚いたのは上映中に隣を見たら、ゲンがめっちゃ真剣に見てたこと。口だけではなくて、心から演劇したいってのがわかったのはまあ好印象と思ってやろう。
「じゃこれからどうする?」
ひと通り感想を言い終わったあと、カヒロ先輩がそう切り出す。
「まあこのまま解散でいいんじゃないですか?」
「ちょっとみんなでカラオケ行ってみたくない?」
なんと!それはぜひとも行きたい!私はすぐに乗じた。
「えっ私いきたーい!」
「俺はこの後手伝いしないといけないのでパスっす」
「バカ言うなよ、こっちだって予定があんだから」
「リョウヘイは」
そう歩いていた時だった。
突然女性がぶつかってきた。
「あっごめんなさい!」
「いえ大丈夫で…」
その人の目を見た、地球人の目ではなかった。
「えっちょっと!あの!」
「すいません!またあとで!」
そう言うと走り去っていった、そのあと統率された陣形の男達が追っていった。
「えっ今ぶつかった人の目、見えた?」
そう私は周りに投げかけた。
「うん。あれはそうだね」
「追ってたのもかな」
「どうすんだ?助けるか?」
「えーどうしよう」
「えっ?なに?なんかオレだけ置いてかれてる?」
「ゲンは分からなくていい」
「はあ?なんでだよ」
「演劇とは関係ない話だから」
「部活に関係なくても、仲間だろ?」
「いやーそれとはまた違ってくるんだって」
「さっき当たってきたやつのことなんだろ?ならオレが助けに行ってやるよ」
そう言うとゲンが勝手に追い出した。
「えっ?はあ!?ちょっと待って!」
ゲンを追っていく。さっきの女性と追手は、子供文化科学館の裏へと逃げ込んでいった。
「おい戻るぞ!」
ゲンの肩へ手をほう伸ばす、こっちを振り向いた。
目が地球人ではなくなっていた。




