四冊目
魔法の試し打ちをした所為か所々濡れていたり、所々盛り上がってはいるが気にしないことにしよう。
それにここは自分だけの空間ではあるが自分の家ではない。
まだ入ってすらいないのだ。
黒色の両開きの門であったはずが、真っ白な両開きの門へと変わってしまっている。
これを黒に戻すことは叶わないのか?
……指輪は光らない。
ダメか。
無いものは仕方ない。
俺の家は城だ。
正面玄関の両開きの門を始めとして石煉瓦で組まれた通路、その脇には手入れされた花々、そして俺の家の正面玄関となる。
中世の貴族が住むような屋敷にしては規模がデカいがな。
ちゃんと中庭もあるぞ?
ちゃんと噴水もあるぞ?
ちゃんと玉座だってあるぞ?
まあ、座ったことないけどな。
家の扉までくる。
これで鍵掛かってたら困るが、そんなことはなく、錆びついているわけでもなく少しの力で押し開けることが出来た。
「おお…」
家の配置と全く同じだ。
調度品にしろ階段の配置といい全く同じである。
誰かを招くなどの予定は絶対に入れないはずなのにこの凝り様。
財はあったため奮発してしまった。
見つからないときは自作したりもした。
これでも子供のころは技術家庭科と美術共に満点だったのだ。
そういうのもあって地下に工房を作ったのだが。
若いときは階段でよかったものの、年を重ねるにつれ腰が悪くなりエレベーターを付けてしまったのは一生の不覚だった。
雰囲気を壊すことになろうとも便利には勝てん。
若くなった今エレベーターも改良しようと思う。
そういやエレベーターって科学技術のままここに設置されたのか?
見てみるか。
俺の家は西洋の城並みにデカい。
何度も言うようで悪いがこの城に匹敵する図書館というのも気にはなる。
だが、科学技術がこちらへ来ていないのでは話にならない。
全てを魔法で行う必要があるからだ。
洗濯も食事も家事も管理や記録、製作だってそうだ。
早急に管理室からエレベーター内部に行かなければ。
更に話を派生して悪いが、監視カメラはどうなっている?
庭、家内部、地下等々色々なところに張り巡らしたはずだが、それも管理室で確認しよう。
管理室は五階の奥にある。
五階まで階段でいくのは怠いので早速エレベーターを使用した。
使用できた。
使用はできるが、中からでは全く同じ配置なので科学技術なのか魔法技術なのかがはっきりしない。
管理室に入ると真っ暗だった。
二十四時間管理室には電源を入れるようにしていたんだが、これは電波が無くなったから真っ暗なのか?
なんにせよ、電源押さないことには始まらないか。
ぽち。
お?
画面に読めない言語の羅列。
プログラミング言語ではない。
お?
ついた?
画面の切り替えもできる。
監視カメラからの映像はちゃんと来ているようだ。
判断しづらいが、科学技術の物を持ってくれば魔法技術に変換されて配置されたということか?
肝心のエレベーターはどうなっている?
動いてはいるな。
まあ乗ってきたし。
管理室からエレベーターの裏側まで徒歩で三十秒ぐらいだ。
関係者以外立ち入り禁止の貼り紙があるドアから裏側へと回る。
……。
…………。
……成程。
訳の分からんコードや電線で張り巡らされたエレベーター内部は、綺麗さっぱり無くなっておりエレベーター本体だと思われるものに魔方陣がびっしり書いてある。
訳の分からんコードから訳の分からんコードになったと思えば気が楽なのかもしれない。
このままいくと洗濯機や冷暖房器具、果ては太陽光パネルまでも魔法化しているだろうな。
流石に科学技術は持って来れなかったか。
これは一層魔法の知識を増やさないと不便だぞ。
大変だなこれから。
唐突に腹が鳴る。
飯にするか。
腕時計を確認したら十二時などとっくに進んでいる。
冷蔵庫に何かあったかな?
まあ何も無かったら畑から取ってくればいいしな。
日本にいるときは全部自動化で畑を管理していたが、こっちではどうだろうか。
さっき管理室で農場も見ておけばよかった。
驚きすぎて頭が回っていなかったのだろうか。
俺としたことが……。
嘆いても仕方がない。
キッチンは二階だ。
俺はキッチンと呼んでいるが、他人が見たら厨房になるんだろうな。
業務用冷蔵庫、最新電子レンジ、最新食器洗い機等々。
ここは凝りようがなかった。
ここだけ見たらただのホテルとかある厨房だな。
「冷蔵庫冷蔵庫……なんかあったか?」
あったわ。
これがあるなら……。
ああ、パスタが作れるな。
手間がかからないペペロンチーノでいいだろう。
鷹の爪三等分にざく切り、ニンニク若干潰しつつ形を残すようにざく切り、キャベツは一口サイズにしてざく切り、フライパンにオリーブオイルを二周ぐらいして鷹の爪とニンニクをオリーブオイルで素揚げにする。
その間にパスタをアルデンテで茹で冷ましておく。
素揚げの中に少し味付けをした炒めたキャベツを投入する。
萎びる前に麺も投入し、少しほぐした後火で寝かせる。
三十秒経ったらほぐして更に寝かせる。
そうして完成したのがこちらだ。
我ながら上手くできたのではないだろうか。
リビングに持っていくまでもなくキッチンで食べてしまおう。
「うめえ」
簡単だがうめえ。
腹が膨れた後は農場を見に行くか。
食器を洗っていると着ている服が後ろに引っ張られている気がする。
どっか引っ掛けたか?
後ろを見る。
どこかに引っ掛かりそうなものは無い。
あれ?
どこが突っ張っているんだ?
横?
俺の服を引っ張る西洋出身らしき金髪碧眼の男の子。
ん?
なんでここにいる?
というかどうやってここに入った?
鍵は閉まっていたはずだぞ?
男の子の身なりはぼろ布一枚で所々汚れている。
足は素足。
「よう、こんなところで何してる?」
「僕らにもご飯欲しい」
一人しかいないのに僕らか……。
まだいるのか?
こんなやつが。
どっから入ってきやがった?
「質問に答えろ。お前はナニでどこからやってきた?」
「僕らはこの家の地下に眠っていた。美味しそうな匂いがしたから上がってきた」
地下?
地下だと?
地下には誰もいない筈だが。
蒐集物を除いて。
こんな餓鬼を寝かせたことは無いぞ?
やばい、混乱することだらけだ。
「一先ずお前以外の奴にも会わせろ、飯はそれからだ」
「ご飯……。わかった」
いったい何が起こってる?




