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三冊目


 中々男性とも女性ともとれない声帯だった。


 人間ならば嫌悪感の湧くものだが、全くその気がない。


 管理者とは神か何かなのだろうが、人外であろうことには変わりはない。


 俺としては非常に助かることではあったが。



 それにしてもこの指輪、相当に危ない代物だな。


 あまり多用してはならないとも言われたが、何ができるかの把握位はやっておかなくてはならない。



 ……………。


 この白い空間からはいつ抜け出せるんだ?


 仰向けになり宙に浮いているような感覚であまり体験したことがない。


 似たようなものは家の地下にある呪いのベッドくらいだろうか。



 あ、俺は一通り呪いの品には手を付けている。


 初めは知らずの内に触ってしまったが何ともなかったので、親父が見つけてきては触って体験していた記憶がある。


 それは今でも変わらない。


 人間と関わることを思えば、霊の類の方がよっぽどマシなのだ。




 ああ、ようやく視界が晴れてきたか。


 白い靄のかかった空間が広い広い真っ白な大理石のようで温かみのある地面へと変わっていく。


 素足だから余計熱が伝わるのだろう。


 熱いということは無い、温もりと言った具合だ。



 眼前には両開きの門。


 生前住んでいた家がそのままある。


 変わったことと言えば、我が家の隣城の高さを超える程の大きな建物があるくらいだろうか。


 全てが白を基調として建てられていることも不自然だろう。


 雰囲気から楽しむ自分としては、城のような我が家に長年整理されていないような雑草や蔦を壁面に生やすことに苦労したものだが……。


 それも綺麗さっぱり無くなっているところを見ると、少し寂しく感じるところもある。



 と思ったのも束の間、中指に嵌めた指輪に刻まれた読めない文字が光りだす。


 確かこの指輪は運命の指輪だっただろうか。


 何故このタイミングで光るのか。


 俺の言葉が何かの引き金になったのだろうか。


 考えれるだけのことを引き出しても情報が少なすぎる故、纏まらない。



 は?


 壁面に蔦がある……。



 指輪を見て視線を家に戻しただけだぞ?


 今の一瞬で生えたとでもいうのか?


 このどこまでも白い地面から草木が生えるとは思えないのだが……。



 待て、情報を精査しよう。


 俺は家を見ていた、その後指輪が光り……。



 成程。


 これは指輪のお陰か?



 俺が望んだものを作り出したということか?


 ふむ。


 実験をしよう。


 例えば、この運命の指輪とやらが思い通りに物を生み出せるとしよう。


 では、俺の手の中にはコップがある。


 水が程よく入ったコップだ。



 中指の指輪の文字が光る。


 光が収まると右の手のひらを上に広げていたそこには、程よく水の入ったガラスでできているコップがある。


 俺はそのどこからか分からない水を飲み、一息つく。


 ふむ。


 次だ。


 家から目録五十メートルほど離れた場所に、手のひらサイズ程度で起爆寸前のプラスチック爆弾がある。


 解除しに行くには到底間に合わない距離だ。


 これならどうなる?



 ……。


 やはり指輪は光らず、プラスチック爆弾が現れることもない。



 では最後に、俺の隣に昔飼っていた猫がいる。


 ……。


 成程。


 これも発動しないか。



 大体把握した。


 これはその名の通り運命の指輪だ。



 この指輪は何でも思いのままに生み出すものではなく、過去に俺自身が触れた物のみに限られるようだ。


 そして生き物は呼び出すことが出来ない。


 昔飼っていた猫は今も生きている。


 所謂野良猫だ。



 向こうからこっちへ呼び出すことが出来ないのか、それとも死んでいたら呼び出せていたのかは判断つかないがやるだけ無駄だろう。


 管理者の説明では全能のように聞こえたのだがな。


 まだ他にも機能が残っているのだろうが、それを今試す気にはならん。



 そして、生み出されたものは俺の想像力に付随する。


 コップを生み出した際、俺は頭の中でガラスのコップを想像した。


 しかし、口に発したのは水の入ったコップとだけ。


 口に出さなくても家に蔦が巻き付いたところと共に考えると、思った通りのものが生み出せるのは外れていないのかもしれない。



 このまま他の指輪の実験も終わらせておこう。


 先ずは知識の指輪からだ。



 それぞれの指輪は何で発動するのか、が肝となる。


 運命は回想だった。


 では知識は?



 ……どうやら記憶のようだ。


 知識の指輪はずっと光り続けている。


 成程、このようにして発動するのか。



 ふむ、説明が難しいな。


 例えば現代においてクイズ番組というものがある。


 この空間にもテレビが置いてあるのかはさておき、そのクイズが知っているはずなのに思い出せないという経験はあるだろうか。


 例えばタレントやモデルで顔が出ていても名前が分からない、またはその逆が起きたことは無いだろうか。


 自己の深層に深く入るとでもいえばいいのか……。


 悩みに悩んだ末思い出すとスッキリするといった経験だ。


 誰しも一回はあるのではないだろうか。


 そんな悩みに悩む必要もなく、瞼を閉じると頭の中でパソコンのような文字列が浮かび上がる。


 今出してほしい情報を瞬時に出してくれるスーパーコンピュータそのものである。


 それでも自分が過去に読んだであろう本からの情報だけだが、十分に助かることだ。


 年を取るにつれ物忘れなんかも酷くなりつつあったしな。



 そう考えたら今の俺は腹筋も割れているし、背も高く全体的に引き締まった身体だ。


 体感で約十八歳だろう。


 八十歳まで生きた者としては若いのもいいが爺の体型もよかった。



 指輪が光る。


 ふむ、これも叶えられるのか。


 外見は見るからに爺だが八十代の時のあのしんどさは感じられない。


 外見の特徴だけ変えたということなのだろう。


 面白い。


 まあ爺よりかは青年の方がいい。



 指輪が光る。


 元に戻っているな、よし。




 こんなことをしていては終わらないな。


 薬指に移ろう。


 理外の指輪だ。


 魔法なぞから無縁の世界からやってきたものとしては、気にはなる。


 向こうなら胡散臭い、厨二病で済む話だが、こちらでは命を奪える手段となる。


 これだけはマスターしなければならない。



 家の方向とは反対の方向に手をかざす。


 先ほどの知識の指輪発動中に何故か頭の中に魔法の発動の仕方がインプットされていた。


 母親から貰った魔導書の知識とは異なるため、管理者から貰ったのだろう。



「ウォーターバレット」



 指をさし、銃を模した右手の人差し指から小指の第一関節程度の弾が飛んで行く。


 かなりの距離を飛行し運動力が無くなったのか角度が下がり、最後には白い地面にべしゃりと落ちる。


 魔法として発動してる際は弾丸だが、運動力の低下と共に魔法としての力も低下しているのだろうか、白い地面に落ちた弾丸は元の構成していた水へと戻っている。



「ロックウォール、ウォーターバレット」



 だが、威力は申し分ない。


 見てわかる岩が貫通した。


 向こう側が見える。


 生み出した岩は厚さ一メートルほどの決して薄いとは言えない壁である。


 魔法の規模は追々確かめるとして自己防衛手段はこれで十分だな。




 最後に審判の指輪だ。


 これは言わずもがな分かる気はする。


 自身の眼前にある大きな建物は何だ?


 指輪が光る。



『神が手掛けし不変不滅の図書館です』



 頭に響くのか。


 これはいい。



 知識の指輪と同じくして頭の中に文字列があるとなると、いくら俺でも疲れてきてしまうからな。



 こんな良いものをくれるなんて、管理者には感謝しなければならないな


 その分働けということでもあるだろうが……な。


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