第9話:ドラゴン肉が固すぎる!? 試行錯誤と一本角のモフモフ
『ポムッ!』
「みんなー! こんにちはー! 冒険者ギルド公式案件『ドラゴンストーン渓谷先行調査』、無事に達成してきましたー!」
放課後の『始まりの草原』。
ポムドローンに向かってあおいが元気に手を振ると同時に、スマートグラスに表示された数字が一瞬で跳ね上がった。
同時接続者数:【25,400人】
>名無しの冒険者:きたあああああ!
>初見さん:公式案件達成おめでとう!
>【新参】肉食い:案件達成おめでとうスパチャ!¥2,000
>【海外ニキ】Sam_G($50.00):Congrats on the official quest! Show us the dragon meat!(公式クエスト達成おめでと! ドラゴン肉を見せてくれ!)
>名無しの冒険者:で、例の「ドラゴンの肉」はどこですか!?
ギルド公式SNSでの拡散効果もあり、配信開始直後から過去最高の同接を記録。
カラフルなスパチャが画面を流れていく中、ひときわ目立つ赤色のハイライトとともに『古参』のスパチャが打ち上げられた。
>【古参】スライムニキ(¥10,000):公式案件達成おめ。約束通りそのドラゴン肉を最高に美味く焼いて見せろ。あとポンコツ、焦がすなよ
「みんな、たくさんのスパチャありがとー! スライムニキも1万円ありがとー! 任せて、今日は凛ちゃんが本気出すからね!」
あおいはドヤ顔で後ろを振り返った。
そこには特大の鉄板と、昨日持ち帰ったばかりのツヤツヤと輝く『ワイバーンの特上モモ肉』が鎮座している。
「ふふ〜、任せて〜。まずは分厚くステーキ用にカットするね〜」
凛は愛用のマイ包丁を手に取り、特大の肉塊へとゆっくり押し当て、スッと刃を引こうとした。
――カチッ。
小さな硬質音が響き、包丁の刃先がツルリと滑った。
肉の表面には傷一つついていない。
「……ん?」
凛が首を傾げ、今度は少し力を込めて包丁を押し込む。
しかし、肉はまるで超硬質ゴムか岩石のように刃を押し返し、全く刃が通らなかった。
「えっ……凛ちゃん?」
「ちょっと待ってね〜」
凛は一旦包丁を置き、フライパンを熱して肉の端っこを試しに焼いてみた。
すると――。
ギギギ……ッ!
熱が入った瞬間、肉の表面の繊維が一気に極限まで収縮。
まるで古びた革靴の底のような、黒く硬い謎の物体へと変貌してしまったのだ。
>名無しの冒険者:……え?
>初見さん:これ包丁刃こぼれするやつだろww
>名無しの冒険者:焼いたら完全にタイヤのゴムで草
>【古参】スライムニキ(¥3,000):おい、公式案件で歯が折れましたオチだけはやめろよ
>名無しの民(¥1,000):案件失敗の危機に草。頑張れww
「そんなぁぁぁぁぁ! ドラゴンステーキがぁぁぁ!?」
あおいが頭を抱えて悲鳴をあげる中、まひろが冷静にタブレットを肉にかざし、魔導スキャンを実行した。
「……なるほどね。ワイバーンの筋肉には『龍鱗の魔力』が強く残っているわ。直火で一気に熱を加えると、魔力が活性化して筋肉繊維が超高密度で硬化する構造になっているのよ。普通に焼いたら石と同じよ」
「う〜ん、なるほど〜……魔力で固まってるんだね〜」
凛はあごに手を当ててのほほんと思考する。
「……お肉を柔らかくするには、酸と酵素、それと炭酸漬けにしてじっくり低温加熱だね」
凛が取り出したのは、ギルドの市場で買ってきた異世界のパイナップル『ルビーパイン』と、湧き水の湧出口で汲んできたシュワシュワと泡立つ天然の『天然炭酸水』だった。
「ルビーパインの強い蛋白分解酵素と酸、それと炭酸水の泡でお肉の繊維を解いていくよ〜」
ルビーパインの果肉をすりおろし、天然炭酸水と合わせた特製液にドラゴン肉をどっぷりと漬け込む。
さらに、まひろがタブレットを操作して魔法陣を展開。
「【微火・低温保持】……これでお肉の芯まで55度前後をキープして、じっくり魔力を解いていくわ」
数分後。
漬け込みと低温加熱を終えたドラゴン肉に、凛が再び包丁を当てると――。
すぅっ……。
吸い込まれるように、刃が滑らかに肉に入っていった!
厚さ四センチの極厚ステーキサイズに見事カットされた肉は、先ほどとは打って変わって、指で押すとプルプルと弾むような極上の柔らかさへと変質していた。
>名無しの冒険者:おおおおおおお!!
>初見さん:すげぇ! 料理番組から急に科学実験になった!
>【まひろ親衛隊】(¥2,000):まひろちゃんの頭脳プレイ助かる
>【料理好き冒険者】(¥5,000):タンパク質分解酵素と低温調理の応用か! 凛ちゃん勉強になります!
「よしっ! 仕上げだよ〜!」
表面に香ばしい焼き目をつけた肉に、凛が特製の『香草ガーリックバター醤油ソース』を一気に回しかける!
――ジュワァァァァァァッッッ!!
香ばしいニンニク醤油とバターの香りが、爆発的な白い蒸気とともに広がる。
あおいが「美味しそ〜〜!」と歓声をあげた、まさにその時だった。
ガサガサガサッ!!
「ん……? な、なに!?」
近くの草むらが激しく揺れ、あおいが警戒して刀の柄に手をかける。
次の瞬間、草むらから『ぴょーん!』と飛び出してきたのは――。
おでこにちょこんと一本の小さなツノが生えた、手のひらサイズのモフモフな白い子ウサギだった。
鼻をヒクヒクとさせ、お口からヨダレを垂らしながら、ガーリックバター醤油の香りに誘われてステーキへと一直線にトコトコ猛ダッシュしてくる!
「わわっ! だめだよ熱いから!」
あおいは慌てて抱き上げると、一口サイズに切ってしっかり冷ましたステーキ肉を、子ウサギの前に置いてやった。
子ウサギは「ハフハフ! むちゅーんっ!」と小さな口いっぱいに肉を頬張り、目をキラキラと輝かせて大歓喜!
そのまま満足そうにあおいの膝の上に登り、お腹を見せて丸くなってしまった。
>初見さん:きゃわあああああああああ!!
>【モフモフ愛好会】(¥10,000):かわよすぎるううう! ミルク代にしてくれえええ!
>【海外ニキ】Sam_G($100.00):HOLY SHIT SO CUTE!!!(クソかわええええ!!!)
>名無しの冒険者:うさぎを狂わせるドラゴンステーキの匂いヤバすぎんだろww
「……ちょっとあおい、動かないで」
まひろが呆れ顔でタブレットをかざし、データベースを照合する。
「……これ、一本角のうさぎ型魔物『アルミラージ』の幼体ね。本来は警戒心が強くて草食寄りのはずなんだけど……」
「うさぎなのに肉の匂いに耐えきれなかったの!?」
>【古参】スライムニキ(¥10,000):角付きうさぎを手懐けるポンコツ。よし、そのツノにリボン結べ。あと名前つけろ
「スライムニキもありがとー! ツノがあるから、今日から君の名前は『ツノっち』ね!」
あおいの膝の上で、ツノっちは満足そうに耳を折りたたんで「ふふにゅ……」とスヤスヤ眠り始めてしまった。
「というわけで……案件も無事成功して、なぜか可愛いウサギのマスコットも増えましたー! みんな、たくさんのスパチャとコメント今日もありがとうー!」
最後にあおいが膝のツノっちを抱えてカメラにピースサイン。
画面一面が「神回」「ツノっちかわよ」「スパチャ投げ甲斐があった」の文字とカラフルなギフトアイコンで埋め尽くされる中、大混乱と癒やしに包まれた配信は幕を閉じたのだった。




