第10話:特約パートナー昇格! 異世界屋台飯と次なるステージ!
「さ、30万円……! 本当に30万円振り込まれてるぅぅぅーーーっ!?」
放課後の部室。
ダブレットの口座残高画面を二度見、三度見したあおいは、そのままジュースの缶を握りしめて歓喜のダンスを踊り狂った。
「やったー! これで一気に大富豪だよ!」
「ふふ、あおいちゃん落ち着いて〜。ツノっちがびっくりしちゃうよ〜?」
ソファーの上で、クッションにまるまっていたツノっち――一本角の子ウサギが、あおいの叫び声に「ふにゅ?」と長い耳をパタつかせた。
すっかり部室のポータル付近を自分の定位置だと気に入ったらしい。
「あおい、喜ぶのはまだ早いわ。本番はここからよ」
まひろがメガネのブリッジをカシャリと押し上げ、タブレットの画面をあおいたちに見せた。
「冒険者ギルド運営本部から公式の通達よ。前回の『ドラゴンストーン渓谷』の調査実績と配信の反響を受けて……私たち『異世界ごはん配信部』は、本日をもってギルド公認『特約パートナー配信者』に昇格しました!」
「「えぇぇぇぇっ!?」」
「特約パートナー……!? それって、プロの配信者と同じ扱いってこと!?」
「ええ。専用案件の優先回ってだけじゃないわ。本日より中級エリア『迷宮都市エルドラ』への立ち入りライセンスが発行されたわ!」
まひろの言葉に、あおいと凛は顔を見合わせた。
中級エリア――より広大で、より手強いモンスターと、未知の激ウマ食材が眠る広大なダンジョン都市だ。
「すごーい! 中級エリアにも行けるんだね〜」
あおいは腕を組み、うーんと唸っている。
「あおい、どうしたの?」
「今日の学級会でさ、学園祭の出し物、考えて来てねって言われたけど……、『異世界飯の模擬店』ってどうかな!?」
「ちょっとあおい、学校で異世界飯売る気なの!?」
「大丈夫! ギルドで買える『検疫済み異世界食材』を使えば楽勝だって! というわけで今日の配信は、感謝還元&学園祭のメニュー開発試作配信だよ!」
◆◆◆
『ポムッ!』
ポータルを抜け、『始まりの草原』へと降り立った3人+1匹。
ポムドローンが起動した瞬間、スマートグラスの同時接続者数が凄まじい勢いで跳ね上がる。
同時接続者数:【32,100人】
>名無しの冒険者:きたあああああ!
>初見さん:特約パートナー昇格おめでとう!!
>【新参】肉食い:特約昇格おめスパチャ!¥3,000
>名無しの冒険者:で! 今日のツノっちはどこですか!?
「みんなー! たくさんのコメントとお祝いスパチャありがとー! 見て見て、今日のツノっちだよ〜」
あおいがカメラに向かって、膝の上のツノっちをそっと抱え上げた。
耳に凛が結んでくれた小さなピンクのリボンをつけたツノっちが、ポムドローンに向かって「むきゅ?」と首を傾げる。
>初見さん:きゃわあああああああ!!!
>【モフモフ愛好会】(¥10,000):リボンツノっちかわよすぎるうううう!
>【海外ニキ】Sam_G($100.00):DIED FROM CUTENESS(可愛すぎて死んだ)
>【古参】スライムニキ(¥10,000):おいポンコツ、ツノっちを盾にするな。で、今日の飯は何だ?
「スライムニキもありがとー! 今日のテーマは『学園祭でも出せる! 異世界ストリートフランクフルト』でーす!」
あおいが後ろを振り返ると、凛が特大の鉄板の上に、長さ三十センチ、太さ五センチはあるドデカいフランクフルトをずらりと並べていた。
「ふふ、今日はギルドで買ってきたロックバードの極上挽き肉に、異世界の香草スパイスと、トローリ溶ける燻製チーズをたっぷり練り込んでみたよ〜」
カンカンに熱された鉄板の上で、極太フランクフルトが転がされる。
――『パチパチパチッ! ジュゥゥゥゥゥッ!!』
焼き目がつくにつれて、皮がパツンパツンにはち切れんばかりに膨らんでいく。
練り込まれた燻製チーズが端から溢れ出し、鉄板の上で焦げて香ばしい匂いを撒き散らした。
ポムドローンが超至近距離まで急降下。
皮の表面で脂が弾ける音と視覚の暴力が画面いっぱいに広がる。
>名無しの冒険者:うわあああ皮が破裂しそうwww
>初見さん:チーズ溢れ出てんぞおい!!
>名無しの冒険者:これ学園祭で売ったら大行列だろ……
>【古参】スライムニキ(¥5,000):今すぐそのフランクフルトを画面越しに送ってくださいお願いします
「はーい、焼けたよ〜」
凛があおいに、出来立て熱々の極太フランクフルトを手渡した。
「あちち、では早速、いただきまーす!」
あおいが思い切りガブリと噛みついた!
――『パリッ! ジュワァァァァッ!!』
弾けるような快音とともに、あおいの口の中で熱々の肉汁と濃厚な燻製チーズが爆発した。
「―――――ふはぁぁぁぁんっっ!!」
あおいは目を丸くし、頬を両手で押さえて悶絶する。
「皮がパリッパリ! お肉がすっごくジューシーで、噛んだ瞬間に中からハーブの香りとトロ〜リ溶けたチーズがあふれ出てくるよ〜〜! 美味しすぎるぅぅ!」
一口サイズに切って冷ましたお肉をもらったツノっちも、「ハフハフ! むきゅ〜んっ!」とお耳をパタパタさせて大歓喜。
コメント欄が「美味そうすぎる」「学園祭絶対行く」「胃袋が死んだ」と大絶賛の嵐に包まれていた、その時だった。
画面中央に、鮮やかな黄金色の枠で囲まれた【公式認証バッジ】付きの超高額スパチャがどかんと打ち上げられた。
>【公式認証】カグラ(¥50,000):新人ちゃんたち、特約昇格おめでとう。画面越しでも美味そうなのが伝わってくるよ。今度、中級エリア「迷宮都市エルドラ」でコラボ配信しない?
一瞬、コメント欄の動きがピタリと止まった。
直後――滝のような超高速コメントが画面を埋め尽くした!
>名無しの冒険者:ファッ!?!?!?
>初見さん:えええええカグラ本人だあああああ!?
>名無しの冒険者:同接10万のトップ冒険配信者カグラ様やんけ!!
>初見さん:コラボ打診きたあああああ!?
「え……えええぇぇぇぇっ!?? カグラさんって、あのチャンネル登録者数100万人の、トップ冒険配信者のカグラさん!?!?」
あおいは配信画面を二度見して絶叫した。
まひろも「ちょっと……本物じゃないの……!」と眼鏡を揺らして驚愕している。
あおいはゴクリと息を飲み、ポムドローンに向かって力強く拳を突き出した!
「カグラさん、5万円スパチャありがとうございます! コラボ……喜んで受けさせていただきます! 中級エリアでも美味しいものいっぱい作りますから、よろしくお願いします!」
『ポムッ!』
コメント欄が過去最大の「神回」「コラボ楽しみすぎる」「大物配信者の仲間入りだ!」という大歓声に包まれる中、配信は幕を閉じた。
部費30万円、特約パートナー昇格、学園祭の準備、そしてトップ配信者とのコラボ――。
同接3人から始まった彼女たちの『異世界ごはん配信部』は、いよいよ未体験の大きなステージへと足を踏み出そうとしていたのだった!




