第11話:トップ配信者カグラ登場! 迷宮都市エルドラでコラボ配信!
「うわぁぁぁ……! ここが中級エリア『迷宮都市エルドラ』……!」
転移ポータルを抜けた瞬間、あおいは目の前に広がる光景に息をのんだ。
そびえ立つ壮麗な石造りの城壁、天を突く高層建築の立ち並ぶ街並み。
行き交う冒険者たちの装備も、これまでの草原エリアとは比べものにならないほど重厚で洗練されている。
「きゅう……?」
あおいの抱っこ紐の中で、リボンをつけたツノっちが物珍しそうに鼻をヒクヒクさせて首を傾げた。
「高精度の魔力炉が街全体を循環しているわね。間違いなく中級エリアの規模感だわ」
「ふふ、建物が大きくてカッコいい街だね〜」
まひろと凛が街並みを見渡していると――。
「――君たちが『異世界ごはん配信部』かい?」
凛とした鈴を転がすような声が響いた。
振り向くとそこには、漆黒の革鎧に身を包み、背中に大きな大剣を背負ったスタイリッシュな美少女が立っていた。
つややかな黒髪のショートカットに、鋭い琥珀色の瞳。
チャンネル登録者数100万人を誇るトップ冒険配信者――『カグラ』だ。
「は、初めまして! あおいです! こっちが凛ちゃんで、まひろちゃんです!」
「初めまして。カグラだよ。配信はいつも見させてもらっているよ。特約パートナー昇格、おめでとう」
クールに微笑み、すっと手を差し伸べて握手を交わすカグラ。
流石はトップ配信者、立ち振る舞いからしてカリスマ感が漂っている。
――ぐぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜っ。
次の瞬間、静かな広場に、あまりにも豪快な「お腹の虫の音」が響き渡った。
「「「……え?」」」
「あ……っ!?」
カグラは一瞬で耳まで真っ赤になり、慌ててお腹を両手で隠した。
「ち、違うんだ! これは……ダンジョン攻略に夢中で、朝から何も食べていなくて……!」
「カグラさん、もしかして……お腹ペコペコなんですか〜?」
「……うぅ、実は私……戦闘以外のスキルが壊滅的でね。ダンジョンに入る時は、栄養ブロックしか食べられないんだ……」
項垂れて白状するカグラ。
実は彼女、「ソロ討伐ガチ勢」として圧倒的な強さを誇る反面、料理は目玉焼きすら爆発させる壊滅的なメシマズ。
本当は美味しいものが大好きな大食いなのだが、自分ではまともな料理が作れないため、ダンジョンでは泣く泣く味の薄い栄養ブロックで空腹を凌ぐしかなかったのだ。
「ふふっ、任せてくださいカグラさん! 私たちが最高のお昼ご飯を作ってあげますから!」
「……本当かい!? よ、よろしく頼むよ……!」
目をキラキラと輝かせるカグラ。
こうして、思わぬギャップとともに初の合同コラボ配信がスタートした!
◆◆◆
『ポムッ!』
カグラのチャンネルとあおいたちのチャンネルで同時配信ボタンが押された瞬間、画面のカウンターが狂ったように回転し始めた。
同時接続者数:【85,200人】
>カグラ推し:カグラ様きたあああああ!
>名無しの冒険者:マジでコラボしてる!!
>初見さん:JKとカグラ様とか画面の絵面が強すぎるww
>【古参】スライムニキ(¥10,000):トップ配信者相手に物おじするなよ
「みんなー! 今日はカグラさんとの合同コラボ配信でーす!」
「カグラだよ。今日は彼女たちの素晴らしい『料理』に密着させてもらうことになった。よろしくね」
カメラに向かってクールに手を振るカグラだったが、あおいたちに向ける視線には並々ならぬ「食欲」のプレッシャーが宿っていた。
「さっそく、エルドラ名物の『大露店市場』で美味しい食材を探しましょう!」
活気あふれる市場の水産エリアを進むと、ある露店の前で立ち止まった。
そこには全高50センチを超える、ゴツゴツとした岩のような巨大な貝が並べられていた。
「へいらっしゃい! そいつはダンジョン深層で獲れる『ギガントミミックガイ』だよ! 身は極上なんだが、殻が鉄より硬くて普通の包丁じゃ太刀打ちできないから気をつけな!」
「殻が硬くて開けられないのか……。大剣で叩き割るかい?」
「ううん、大丈夫だよ〜」
凛がマイ包丁と、小さなタガネを取り出した。
貝の表面をトントンと軽く叩き、関節のスキマを見極めると――すっとタガネを刺し込み、包丁の背で軽く叩いた。
――パカッ!
わずか三秒。
一滴の貝汁もこぼすことなく、巨大な殻が見事に二つに割り開かれた!
中から現れたのは、ツヤツヤと輝く巨大な淡桃色のプリプリした貝身だ。
「「「えぇぇぇぇっ!?」」」
店主も、カグラも、コメント欄も一瞬静まり返った。
>名無しの冒険者:ファッ!? 一瞬で開けたぞ!?
>カグラ推し:え、あの硬度Sランクの貝殻を一瞬で……!?
>初見さん:職人技すぎるだろ凛ちゃんwww
「ふふ、蝶番のポイントを突けばすぐ開くんだよ〜」
◆◆◆
エルドラの野外BBQスペースへと移動した一行。
凛は開いた巨大な殻をそのまま鍋代わりにして網の上にセットした。
一口大に削ぎ切りにしたギガントミミックガイの身を乗せ、そこへニンニク、刻んだ香草、たっぷりのバター、そして特製のお醤油を回しかける!
――『ジュワァァァァァァッッッ!! パチパチパチッ!』
カンカンに起こされた炭火の熱で、濃厚な貝出汁と焦がしバター醤油の芳醇な香りが、爆発的な白い蒸気とともに立ち上った。
「くっ……! な、なんて暴力的な香りなんだ……!」
カグラがゴクリと大唾を飲み込み、目をカッと見開く。
「はーい、できたよ〜。熱いから気をつけてね〜」
香草バター醤油がグツグツと泡立つ殻から、あおいが大きな貝身を一つ、口へ運んだ。
「いただきまーす! ……んんんんっっッ!!」
あおいはあまりの旨味に両手を頬に当てて悶絶した。
「コリッコリ! 噛んだ瞬間に、濃厚な貝の出汁と甘い旨味がジュワ〜って口いっぱいに広がるよ! バター醤油のコクとニンニクの香ばしさが合わさって、たまらない〜〜〜っ!」
「カグラさんもどうぞ〜」
「あ、ありがとう……いただくよ……」
カグラは震える手でフォークを取り、大きな身を口へと放り込んだ。
次の瞬間――。
「――――――――――っっ!?!?」
カグラの身がビクッと跳ね上がった。
美しく整ったその瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「おいしい……! なにこれ……!? 身が弾けるほど柔らかくて、味が……旨味が濃くて……! 私、今までダンジョンで何を食べていたんだ……!?」
涙目になりながら、カグラは夢中でフォークを動かし、巨大な貝身をハフハフと頬張り始めた。
あまりの美味しさに、クールなカリスマの面影は完全に消え去り、ただの食いしん坊な少女と化している。
>名無しの冒険者:カグラ様のクールキャラが全崩壊したwww
>カグラ推し:あんなに嬉しそうに食べるカグラ様初めて見た……!
>初見さん:胃袋掴むの早すぎるだろ放課後部ww
>【古参】スライムニキ(¥10,000):100万人配信者を飯で落とすごはん部。お見事
同時接続者数は、二つのチャンネルを合わせてなんと【123,000人】を突破!
「ふぅ……ごちそうさまでした……!」
溢れ出る貝出汁のスープまで綺麗に飲み干し、カグラはとろけたような幸せな笑みを浮かべた。
「あおいちゃん、凛ちゃん、まひろちゃん……決めたよ。私、今日は1日君たちの手足になる」
「えっ!? それって、一緒に食材調達に行ってくれるってことですか!?」
「ああ! こんなに美味しいご飯が食べられるなら、どんな強いモンスターからも君たちを全力で守るよ! だから……また私に美味しいご飯を食べさせてくれ……!」
ガシッとあおいの両手を握り締め、熱い眼差しで懇願するカグラ。
「ふふ、もちろんです! カグラさん、よろしくお願いします!」
「よし! そうと決まれば腹ごしらえは完了だ! 次はダンジョン第5層へ向かおう!」
カグラは背中の大剣をバッと引き抜き、不敵に微笑んだ。
「第5層には、幻の激ウマ肉を持つ巨大モンスター『モルボル』が潜んでいる。……狩りに行くよ!」
「幻のお肉!? どんな味がするんだろう!?」
あおいも目を輝かせ、日本刀の柄に手をかける。
頼もしすぎる仲間を得て、異世界ごはん配信部の『迷宮都市ダンジョン攻略編』が、最高の盛り上がりとともに開幕したのだった!




