第12話:トップ配信者の無双剣撃! 悪臭ボスを倒して極厚レアカツを揚げろ!
迷宮都市エルドラ第5層『腐海の密林』。
鬱蒼と生い茂るジャングルと、底なしの沼地が続く過酷なフィールドを、異世界ごはん配信部の一行は驚くべきハイスピードで進んでいた。
「ふっ……!」
鋭い呼気とともに、カグラの背負う大剣が一閃する。
襲いかかってきた巨大な毒蟲が、一瞬にして真っ二つに両断され、光の粒子となって消滅した。
「すごーい……! 動きに一切の無駄がない……これがトッププロ!」
あおいは目を輝かせながら拍手喝采。
あおいのリュックのポケットにすっぽり収まったツノっちも、「きゅんっ!」と前足を上げてカグラ를応援している。
合同配信の同時接続者数は、常時【110,000人】をキープし続けていた。
>名無しの冒険者:カグラ様のガチ戦闘久々に見たわ
>初見さん:ごはん部の護衛としてこれ以上ない逸材ww
>カグラ推し:推しが美味しいご飯のために本気を出している……!
「この程度、造作もないよ。美味しいご飯のためならね」
カグラはキメ顔で振り返りつつ、こっそり小さく口の端を舐めた。
完全に食欲が原動力になっている。
その時だった。
前方の巨大な沼地がボコボコと泡立ち、泥水の中から巨大な影がヌチャァッと這い出してきた。
無数の気色悪い触手と、中央にポッカリと開いた巨大な口。
第5層のエリアボス、植物型モンスター『巨大モルボル』だ!
「ブシュゥゥゥゥッ……!」
巨大モルボルが不気味な音を立てて、周囲の空気を猛烈な勢いで吸い込み始めた。
「まずいわ、モルボルの十八番『カオス・ブレス』よ! 猛毒と、数日は落ちない超絶悪臭を伴う全体攻撃……!」
まひろの叫びに、あおいの顔が真っ青になった。
「えええっ!? 服とか食材が臭くなっちゃったら、料理配信が台無しになっちゃうじゃん!」
「させないよ……!」
カグラが大剣を構えて前に出るが、モルボルは狡猾にも無数の触手でカグラの足場を狙って沼へ引きずり込もうとする。
「カグラさん、上は任せて!」
まひろが素早くタブレットを操作し、魔導陣を展開。
「【指向性暴風結界】!」
吹き荒れる突風の壁が、モルボルの吐き出した紫色の悪臭ブレスを丸ごと上空へと吹き飛ばす!
「足元は私が!」
あおいが死角から高速で回り込み、日本刀を一閃!
カグラを狙っていた数本の触手を鮮やかに斬り落とす。
「助かった! ……これで、終わりだっ!」
サポートを受けて道が開けた瞬間、カグラが空高く跳躍した。
大剣の刀身に黄金色のオーラを纏わせた必殺の斬撃――【絶華の太刀】が、巨大モルボルを脳天から真っ二つに両断した!
大爆発とともにモルボルが消滅し、あとに残されたのは、美しく霜降りがかかった巨大な肉塊だった。
>名無しの冒険者:ナイス連携!
>初見さん:あおいのカバーめっちゃ良かったぞ!
>【古参】スライムニキ(¥10,000):飯への執念が生んだ完璧な布陣。で、その肉みたいなのがドロップアイテムか?
「お疲れ様〜。それがターゲットの『特上テンダーロイン』だね〜」
安全地帯へ移動し、凛がマイ包丁を取り出しながら肉塊をトントンと叩く。
「見た目はお肉みたいだけど、実はこれ、モルボルの中心にある超高級な『植物繊維』なんだよ〜」
「えっ!?」
あおいは目を丸くして、テンダーロインとモルボルが消えた場所を交互に見比べた。
「モルボルって植物だったんだ!?」
>名無しの冒険者:えええええ今更!?wwww
>初見さん:あおいちゃん、あんなにツルとか葉っぱ生えてたのに嘘だろww
>カグラ推し:ポンコツ発動してて草。可愛すぎる
「てっきり、タコのお化けか何かかと……」と照れ笑いするあおいを横目に、凛は調理の準備を進める。
「ここは湿気っぽくてジメジメしてるから、カラッと『極厚レアカツ』にして揚げちゃおうか〜」
「「「揚げ物!!」」」
あおい、まひろ、そしてカグラの声が見事にハモった。
凛は特上テンダーロインを厚さ四センチに贅沢にカットし、異世界のハーブを混ぜた特製パン粉をたっぷりとまぶす。
まひろが魔導陣で良質なオーク脂を満たした油鍋の温度を「180度」にピタリと固定した。
――スゥッ。
凛がパン粉をまとった分厚いカツを、油の海へと静かに沈める。
――『ジュワァァァァァァァァッッ!! パチパチパチパチッ!』
ダンジョン内に響き渡る、油が弾ける極上のASMRサウンド。
ポムドローンが限界まで近づき、きつね色に染まっていく衣のシズル感をドアップで映し出す。
>名無しの冒険者:うわあああ音だけで白飯食える!!
>初見さん:ダンジョン内で揚げ物はテロすぎんだろwww
>カグラ推し:夕飯前に見るんじゃなかった(胃袋崩壊)
「はーい、揚がったよ〜」
油を切った極厚カツに、凛が包丁を入れる。
――『サクッ! ザクッ!』
小気味良い音とともに断面が露わになると、外はサクサクのきつね色、中は美しい桜色の完璧なグラデーションが広がっていた。
「爽やかな柑橘ソースをかけて、いただきまーす!」
あおいがカツを頬張る。
――『サクッ! ジュワァァッ!』
「んんんん〜〜〜っ! 衣がサックサク! お肉みたいにジューシーなのに、植物だから脂っこくなくて、後味がすっごく爽やか〜!」
「最高だ……! サクサクの衣と、溢れる旨味がたまらない……!」
カグラはもう言葉も発せず、頬を緩ませてモグモグと無限にカツを口に運び続けている。
ツノっちも、千切りキャベツごと小さなカツを前足で抱えて夢中でかじりついていた。
「美味しい〜……あれ?」
ふと、あおいの頭に一つの閃きが舞い降りた。
「お肉みたいだけど、植物だから爽やかで食べやすい……。これ、学園祭の模擬店メニューのヒントになるかも! 現実の食材で、これと似た『なんちゃって異世界ボタニカルカツ』を作れば……!」
「なるほど、大豆ミートとかお麩を使えば、現実でも近いものが作れるかもしれないわね」とまひろも頷く。
ダンジョンの激闘と絶品飯テロを経て、あおいたちの意識は「現実の学園祭」へと繋がり始めた。
大物コラボの成功と次なる目標を胸に、異世界ごはん配信部の勢いはまだまだ止まらない!




