第13話:学園祭の試作品完成!? 大豆ミートで作る「なんちゃって異世界カツ」!
「じ、15万人……! チャンネル登録者数が15万人突破してるぅぅぅーーーっ!?」
放課後の部室。
タブレットの画面を突きつけられたあおいは、歓喜の叫びをあげた。
昨日行われたトップ配信者カグラとの合同コラボ配信の反響は凄まじく、アーカイブの再生数はすでにミリオンを突破。
コメント欄は新規リスナーからの絶賛で埋め尽くされていた。
「ふふ、コラボ効果は絶大ね。これでうちの部活の認知度も一気に全国区よ」
「きゅ……ふにゅ〜」
まひろがメガネを押し上げて満足げに頷く横で、部室のポータル付近に敷かれたクッションの上では、ツノっちがぽかぽかの日差しを浴びながら気持ちよさそうに丸くなっていた。
そんな平和な部室のドアが、バンッ! と勢いよく開く。
「あおい! 実行委員から催促が来てるんだけど、学園祭の『異世界風屋台』で出すメニューの試作品――って、きゃああああああっっ!???」
飛び込んできたのは、あおいたちのクラスメイトで学級委員長の女子生徒だった。
彼女は部室のソファー前で丸くなっているツノっちを見つけるなり、かぶっていた猫をかなぐり捨てて膝から崩れ落ちた。
「本物のツノっちだあああぁぁぁ! 配信で見た通りめちゃくちゃモフモフ!! リボン結んでもらってる! 可愛すぎるぅぅぅ!」
「わわっ、委員長!?」
目にも留まらぬ素早さでツノっちの元へ滑り込み、うっとりした表情でその頭をなで回す委員長。
ツノっちも嫌がる風もなく、気持ちよさそうに目を細めている。
「……ねえまひろ。ツノっちの存在って先生たち知ってるんだよね?」
「もちろん。ちゃんと従魔届けも出したし、知ってるはずよ。」
「えっ、先生たち知ってたの!?」
「当たり前でしょ、同接十万人超えよ! 先生だって見てるんだから! ……また撫でに来ていい?」
「う、うん! いくらでも撫でに来てよ!」
「やった!……で、話は戻るんだけど!」
実行委員長はツノっちを抱っこしたまま、キリッとした顔であおいに向き直った。
「ツノっちみたいな『テイムした従魔』は学校側も申請すれば許可してくれるけど、学園祭で一般のお客さんに売る『食べ物』は保健所のチェックが入るから別物なの! 本物のモンスター肉なんて提出したら一発で保健所NG食らうわよ! 試作品は大丈夫なの!?」
「任せて! こっちの食材だけで、あの『激ウマ異世界カツ』の味を完璧に再現してみせるから!……凛ちゃんが!」
「頑張るよ〜」
凛がキッチンからひょっこり顔を出す。
「ていうか、私、ツノっちテイムしてたの!?」
「そうなんじゃない? 餌付けしたわけだし」
「知らなかった……。」
◆◆◆
放課後の家庭科調理室。
あおいたち3人と、試食係として集まったクラスメイトたちが調理台を囲んでいた。
「学園祭の屋台だから、歩きながら片手で手軽に食べられる『カツサンド』にするね〜」
凛が調理台の上に並べたのは、意外な食材だった。
現実のスーパーで安く手に入る『大豆ミート』と、『高野豆腐』だ。
「えっ……お肉じゃないの?」
クラスメイトの一人が首を傾げる。
「昨日ダンジョンで食べたモルボルの『ボタニカルミート』は、植物性なのに肉以上にジューシーで、後味が爽やかなのが特徴だったのよ」とまひろが解説を付け加える。
「だから、同じ植物性の『大豆ミート』と『高野豆腐』で再現してみるね〜」
さっそく、水戻しした大豆ミートに衣をつけ、油で揚げる試作第一弾がスタートした。
――数分後。
「はーい、まずはそのまま揚げた大豆ミートカツだよ〜」
あおいとクラスメイトたちが、出来立てのカツを一口かじる。
パクッ……。
「う〜ん……ヘルシーで美味しいんだけど……」
「ちょっと大豆独特の匂いが残ってるかな……。あと、お肉みたいなジューシーさがなくて、後味がパサパサしちゃうかも」
クラスメイトたちの正直な感想に、あおいは「うぐぐ……やっぱり本物のお肉とは違うのかなぁ」と肩を落とした。
「ふふ、大丈夫だよ〜。異世界でルビーパインや炭酸水を使ったのと同じ原理だよ」
凛が優しく微笑み、マイ包丁をトンとまな板に置いた。
「まひろちゃん、あれお願いできる〜?」
「任せて。科学的アプローチの出番ね」
ここから、凛とまひろのコンビによる本格的な『再現調理』が始まった。
「まず、大豆ミートはただの水ではなく、シュワシュワと泡立つ『炭酸水』で下ゆでをしま〜す。炭酸の力で大豆特有の匂いを消して、肉質を柔らかくするよ〜。」
続いて凛は高野豆腐に手を出した。
「高野豆腐は、舞茸を煮出したスープに昆布出汁を合わせて、たっぷりと吸わせるよ〜。これで「本物の肉汁以上の旨味と水分」が噛んだ瞬間にジュワッと溢れ出るよ〜。」
下処理を終えた二つの食材を合わせ、香草ハーブとガーリックパウダーを混ぜ込んだ特製パン粉をまぶす。
――『ジュワァァァァァァッ!! パチパチパチッ!』
熱した油の中に投げ込まれたカツが、狐色に揚がっていく。
調理室いっぱいに広がる、ハーブの爽やかな香りと香ばしい揚げ物の匂い!
「仕上げに、特製の柑橘ポン酢ソースにくぐらせて、ふんわり食パンとキャベツで挟んだら……できたよ〜! 『なんちゃって異世界ボタニカルカツサンド』で〜す!」
見た目は分厚い極厚のレアカツサンドそのもの!
クラスメイトたちがゴクリと生唾を飲み込み、いざ実食へ!
――『サクッ! ジュワァァァッ!!』
小気味良い快音が調理室に響き渡った。
「「「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!???」」」
クラスメイトたちが目を丸くして叫んだ。
「衣がサクサクで、噛んだ瞬間、旨味が溢れ出てくる!!」
「ハーブと柑橘ソースの香りが効いてて、全然脂っこくない! これ本当に大豆と高野豆腐なの!?」
「めちゃくちゃ旨い! これなら女子でも何個でも食べられちゃうよ!」
「大成功〜!」
あおいと凛、まひろがハイタッチを交わす。
安価で、手軽で、保健所の衛生基準もクリアできて、何より「飛び上がるほど激ウマ」。
学園祭での看板メニュー完成に、実行委員長も「これなら文句なしで申請通るわ!」と大絶賛となった。
◆◆◆
試食会を終え、夕暮れ時の部室へと戻ってきたあおいたち。
「ふぅ〜、これで学園祭の準備も一安心だね!」
あおいがソファーに腰掛け、ツノっちを膝に乗せながらスマートフォンの通知画面を開いたその時だった。
画面に『カグラ』からのメッセージが届いているのに気づいた。
「ん……? カグラさんからメッセージ……?」
あおいがタップして画面を開くと、そこには思わぬ文章が躍っていた。
『あおいちゃん、先日はどうもありがとう。学園祭で“あのカツ”を再現した料理を出すって配信で言っていたよね? 私も変装して遊びに行っていいかな? あの味が忘れられなくて……』
「え……えええぇぇぇぇっ!???」
あおいの叫び声が部室に響き渡る。
「ど、どうしたの急に……?」
「カ、カグラさんが……! うちの学園祭に、変装して遊びに来たいって言ってるんだけどー!?」
「「えぇぇぇぇっ!?」」
登録者数100万人のトップ冒険配信者が、自分たちの通う高校の文化祭にやってくる!?
驚愕するまひろと凛を横目に、あおいは画面を見つめて身震いした。
現実世界の学園祭、そして食いしん坊な特別なゲスト――。
異世界ごはん配信部の勢いは、現実の学校生活をも巻き込んで、さらなる大騒動へと突入しようとしていた!




