第14話:いざ学園祭本番! 大繁盛の異世界屋台!
秋晴れの心地よい空の下、私立白鳳高校の中庭は熱気に包まれていた。
本日は年に一度のビッグイベント――学園祭当日である!
「いらっしゃいませー! 配信で話題の『ボタニカルカツサンド』、出来立てだよ〜!」
「揚げたてのサクサク衣と、自家製ハーブ柑橘ソースの絶妙なハーモニーをどうぞ。持ち帰りも可能です」
エプロン姿のあおいが大声を張り上げ、まひろがスマートに接客をこなす。
調理スペースでは、凛が職人技のような手つきで次々とカツを揚げ、手際よく食パンに挟んで切り分けていた。
昨日の配信での宣伝と、中庭に漂う芳醇なハーブと揚げ物の香ばしい匂い効果は絶大。
開店からわずか十五分で、あおいたちのクラスの模擬店前には校庭を横断するほどの超大行列が完成していた。
「あおい、列の最後尾がもう隣の展示校舎まで伸びてるよ! 整理券配ったほうがいいかな!?」
汗を拭いながら駆け込んできたのは、学園祭実行委員長だ。
「ありがとう委員長! まひろちゃん、整理券の発行お願いできる!?」
「任せて。タブレットでQRコード決済と連動した発券システムを起動するわ」
クラスメイトたちと一丸となって大忙しの屋台。
◆
怒涛の注文を捌いていたあおいは、ふと行列の最後尾に目を留めた。
黒のロングコートにフードを深々と被り、巨大な黒サングラスと黒マスクという、真夏でもないのに怪しすぎる不審者スタイルの小柄な人物が並んでいる。
見回り中の風紀委員と先生が「君、ちょっと……」と不審がって声をかけそうになっていた。
しかし、その独特すぎるカリスマ的なオーラと、どこか必死なお腹の虫の音に、あおいはピンときた。
「あ、あれってもしかして……!」
あおいは慌てて駆け寄り、先生たちの間に入り込んだ。
「あ、あの! 先生大丈夫です! この人、私の親戚のお姉ちゃんで……ちょっと恥ずかしがり屋なだけなんです!」
「あ、星宮さんの知り合いかね? なら良いのだが……あまり目立つ格好はさせないようにね」
怪しむ先生たちをなんとか宥めて引き下がらせると、あおいはフードの人物に小声で話しかけた。
「……カグラさん、ですよね?」
「……ふぅ、助かったよあおいちゃん。完璧な変装のつもりだったんだが、なぜか浮いてしまっていたみたいだ」
サングラスを少しずらし、ホッとしたように琥珀色の瞳を覗かせるカグラ。
「カグラさん、変装ヘタすぎます!! コートとサングラスとマスクは逆に目立ちすぎですよ!」
ズッコケつつも、あおいはカグラの手を引いて模擬店テント裏の試食・控えスペースへと案内した。
◆
「お待たせしましたカグラさん! これが昨日ダンジョンで食べたモルボルのカツを再現した『なんちゃって異世界ボタニカルカツサンド』だよ!」
凛が揚げたてで作った特製カツサンドを皿に乗せて差し出す。
分厚いレア状のカツに、特製ポン酢ソースが染み込んだキャベツとふんわり食パン。
「……いただきます!」
カグラは待ちきれない様子でカツサンドを掴み、大きな口でガブリと噛みついた。
――『サクッ! ジュワァァァッ!!』
小気味良い快音がテント裏に響き渡る。
次の瞬間、カグラの体がビクッと硬直し、サングラスの奥からボロボロと大きな涙が溢れ出した。
「〜〜〜〜〜っっ!???」
「カグラさん!?」
「おいしい……! サクサクの衣に、噛んだ瞬間溢れ出すこのジューシーな旨味……! ダンジョンで食べたあのモルボルのカツと全く同じだ! なんならパンとソースが合わさって、昨日以上に美味しくなっている……!」
カグラは涙目になりながら、一瞬でカツサンドを丸呑みするように完食した。
「実はこれ、大豆ミートと高野豆腐で作ったんだよ。本当のお肉は一切使ってないんだ」
あおいが種明かしをすると、カグラは目を丸くして驚愕した。
「な、なんだって……!? 大豆と豆腐でこの肉感とジューシーさを……!? 君たちは本当に料理の天才か……!」
そして、カグラはあおいの両手を握り締め、熱い眼差しで訴えかけた。
「あおいちゃん……おかわりはあるかい!? いや、売り物の分を全部買い取らせてくれ!! 十個……いや、二十個は食べられる!」
「えぇぇっ!? 売り物はダメですけど、カグラさんの分としてあと五個くらいなら作れますよ!」
「作ってくれ!頼む……!」
そこからのカグラの食べっぷりは圧巻だった。
凛が急遽揚げた追加のカツサンド五個を、掃除機のような勢いで次々と胃袋へ収めていく。
「んむっ! サクサクっ! うまい……うますぎる……!」
あの「ソロ討伐ガチ勢」としてクールに君臨するトップ配信者が、口の周りにソースをつけながら夢中でカツサンドを頬張る姿に、テント裏のクラスメイトたちも「すごい勢いで食べるなぁ……」「あんなに喜んでもらえるなんて感動だね」と大圧倒&大喜びだ。
「ふぅ……美味しかったよ……」
六個のカツサンドを綺麗に完食し、口元を拭ったカグラ。
しかし、その瞳はまだまだギラギラと輝いていた。
「だが……胃袋に火がついてしまったようだ。まだ全然食べ足りないよ」
「えっ!?」
「せっかくだから他の屋台も巡って、片っ端から味わってくることにするよ!」
「えええっ!? その怪しい変装のまま行くんですか!? 絶対目立ちますよ!?」
あおいの制止も聞かず、カグラは「美味しい食べ物が私を呼んでいる……!」と言い残し、風のようにテント裏から中庭の屋台街へと飛び出していってしまった。
◆
あおいが「大丈夫かなぁ……」とハラハラしながらカツサンドを売り続けていると、購入にやってきた隣のクラスの生徒たちが楽しそうに噂話をしていた。
「ねえ知ってる? なんか校庭の屋台街に『カグラ様が来てるんじゃないか』って噂になってるよ!」
「えっ、あのチャンネル登録者数百万人のカグラ様!?」
「うん! 真っ黒なコートとサングラスで変装したカグラ様が、たこ焼きと焼きそばとフランクフルトを爆食してるらしいのww」
「変装が怪しすぎて逆にめちゃくちゃ目立ってるんだって!」
(((絶対カグラさんだーーーーっ!!)))
あおい、まひろ、凛の3人は心の中で同時にズッコケた。
トップ配信者のオーラは隠せていないものの、当の本人は美味しそうに屋台飯を満喫しているらしく、大きなトラブルにはなっていないようで胸をなでおろすあおい。
そんな噂話も追い風となったのか、あおいたちのクラスのボタニカルカツサンドは途切れることなく売れ続け――
「――最後のお客様、お買い上げです! これにて……完全完売です!!」
あおいの叫び声とともに、準備していた数百人分の食材がすべて完売!
周囲の屋台からも大きな拍手が巻き起こり、クラスメイトたちからも「やったーーーっ!」と歓声とハイタッチが爆発した。
◆
片付けを終え、夕暮れ時の誰もいなくなったテント裏。
あおいがほっと一息ついていると、両手にりんご飴と綿菓子を持ったカグラが満足そうな顔で戻ってきた。
「やあ、完売おめでとうあおいちゃん。久々の屋台飯もなかなか趣深くて美味しかったよ」
「カグラさん……両手いっぱいに買って本当に満喫してますね……」
「ふふ、これでも半分くらいに抑えたつもりさ。……本当にどの屋台も美味しかったよ。」
サングラスを少し下げ、カグラは優しく目を細めた。
「それじゃあ、私はそろそろ帰るよ。風紀委員に三回くらい追われかけたからね」
「やっぱり目立ってたんじゃないですか! ……カグラさん、またダンジョン配信、一緒にやってくれますか!?」
去り際のカグラが足を止め、振り返って不敵に笑う。
「もちろんだ。……ただし、次の冒険でも、とびきり美味しいご飯をご馳走してくれるならね」
そう言い残すと、トップ配信者は今度こそ風のように去っていった。
完売の達成感に包まれるあおい、凛、まひろ、そしてクラスメイトたち。
異世界の冒険で得た経験と仲間、そして現実の学校生活。
二つの世界が美味しさで繋がった最高の学園祭は、異世界ごはん配信部にとって、忘れられない宝物となったのだった。




