第6話:特大オムライスと、バズりの予感!
『ポムッ!』
ポータルを抜け、放課後の『始まりの草原』へと降り立った瞬間、コメントの勢いに、あおいは思わず目を丸くした。
>名無しの冒険者:きたあああああ!
>名無しの冒険者:昨日言ってた巨大卵オムライス見に来たぞ!
>名無しの冒険者:頼むから早く作ってくれ! 腹減って死にそうなんだ!
>初見さん:これが噂の巨大卵ですか?
配信開始の通知が飛んだ直後にもかかわらず、同時接続者数はすでに【54人】に達していた。
昨日の予告効果は絶大だったようだ。
「みんなー! お待たせしました!」
あおいはポムドローンに向かって元気いっぱいに手を振り、満面の笑みを浮かべた。
「本日の『異世界ごはん配信部』は宣言通り! 昨日『浅い森』でゲットしたロックバードの巨大卵を使って、特大異世界オムライスを作っちゃいまーす! あ、ちなみに『ロックバードの卵にはロックバードのお肉でしょ!』ということで、ギルドの市場でロックバードのお肉、買ってきました! 一気に部費がピンチです!」
「ほんとよ、これで今日の配信がコケたらウチの部費はゼロよ!」
あおいの告白に横からまひろが小刻みに肩を揺らす。
あおいの後ろでは、制服の上からピンクの小花柄エプロンを身につけた凛が、どこからか取り出したマイ包丁をシャキーンと構えていた。
その隣には、部室から持ち込んだ特大フライパンと、火力を調整するための魔導加熱陣がセットされている。
「ふふ、今日は私の本気を見せるね〜。まずはチキンライスから作るよ!」
普段はのんびり屋の凛の瞳が、職人のような鋭い輝きを帯びる。
火力を一気に引き上げた凛は、持参したたっぷりのバターをフライパンに投入。
バチバチという弾ける音とともに、濃厚で香ばしい甘い香りが草原の風に乗って広がった。
奮発して買ってきたロックバードのモモ肉をサイコロ状に切り、みじん切りの玉ねぎ、そしてご飯を投下しておたまを豪快に振るう。
ケチャップとコンソメが炒まる甘酸っぱい香りが周囲に満ちた。
「チキンライス、盛り付け〜」
凛がそれを盛り付けたのは、なんと裏返した自身の超硬質合金の大盾の上だった。
綺麗に洗われた大盾の上に、小山のようなチキンライスが丸く綺麗に整形される。
「よしっ、チキンライスができたから、次はいよいよ卵を割るよ!」
凛は巨大な卵を片手でガシッと固定すると、包丁の背でコツン、と軽やかな音を立てて亀裂を入れた。
ゆっくりと両手で殻を押し開くと――。
――トロリ。
とろけるような濃密な黄金色の黄身と、ツヤツヤと輝く白身が、特大のボウルへと一気に流れ込んだ。
凛が長めの泡立て器で素早くかき混ぜると、滑らかな黄金の液体が出来上がる。
>名無しの冒険者:うおっ、黄身の濃さやば!!
>名無しの冒険者:濃密すぎるwww
>名無しの冒険者:チキンライスだけでも美味そうなのに卵割りでトドメ刺されたww
「見て見て、この黄身! お日様みたいに真っ黄色だよ!」
凛はフライパンをさっと拭くと、再びたっぷりのバターを溶かし、一気に卵液を流し込んだ。
――シュワァァァァッ!
激しい蒸気とともに、卵が一瞬でふわふわの半熟状に膨らんでいく。
まひろがタブレットで指を滑らせ、魔導陣の火力を繊細にコントロール。
凛は絶妙な手首の返しで、巨大な半熟卵シートを作り上げた。
そして――大盾の上のチキンライスへと、一気にドサッと被せる!
ポムドローンが神アングルで急降下。
立ち上る白い湯気、チキンライスをすっぽりと包み込む黄金色のふわとろ卵、そして仕上げにあおいがケチャップで描いた「冒険部♡」の文字を、画面いっぱいに超高画質で捉えた。
>名無しの冒険者:あああああああああ!!!(発狂)
>名無しの冒険者:夕飯前に見るんじゃなかった……腹減りすぎて死ぬ
>名無しの冒険者:電車の中で見るもんじゃなかったwww お腹鳴って周りに見られたわwww
>名無しの冒険者:耐えられん、今からファミレス行ってオムライス食ってくるわ!!
「出来たー! 『特大異世界オムライス』完成です! それじゃあ……いただきまーす!」
あおいは大きなスプーンを思い切り入れ、半熟卵とチキンライス、そしてゴロッとしたお肉をまとめてすくい上げ、口の中へと放り込んだ。
「―――――ッッッ!?」
あおいの身体がビクッと跳ね上がった。
言葉を失い、両手を頬に当てて悶絶する。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!?? なにこれぇぇぇ!? 卵が濃厚すぎて、お口の中でとろける!! お肉はプリプリでジュワって肉汁が出て、バターの風味が凄すぎて……美味しすぎるよ〜〜〜!!」
「……うん、大成功。高級なお肉を使った甲斐があったね。卵の味が濃いから、ケチャップの酸味と喧嘩してないよ」
凛も一口食べて、ほわぁと幸せそうな笑みを浮かべた。
実食する二人のあまりにも美味しそうな表情と、大盾の上に盛られた夢のような特大オムライス。
コメント欄はもはや文字通り「飯テロ被害者」の悲鳴で溢れ返っていた。
その時、ずっとタブレットを操作していたまひろが、震える声で叫んだ。
「あ、あおい……凛……! 見て……!」
「え? あ……」
タブレットに表示された数字。
同時接続者数:【115人】
「ひ、百……100人超えてるぅぅぅーーーっ!?」
「すごいね〜、あおいちゃん」
「同接三桁……! 本当に100人以上の人が、私たちの配信を観てくれてるのね……!」
まひろは感極まったように眼鏡をキュッと押し上げた。
大盛り上がりのコメント欄と、100人を超えるリスナーに見守られながら、特大オムライスを三人で見事に完食し、最高の形で第6回の配信は幕を閉じたのだった。
◆◆◆
「ふぅー! お腹いっぱい! 最高の配信だったね!」
部室に戻り、ジュースの缶で乾杯するあおいたち。
同接100人突破という快挙に酔いしれ、その日は満ち足りた気分のまま解散した。
――だが、物語はここでは終わらなかった。
その夜。
一人の有志リスナーが、今日の配信の『チキンライス作り』から『巨大卵を割る瞬間』、そして『あおいの悶絶リアクション』までを15秒に凝縮したショート動画を作成。
『【飯テロ】JKが異世界の巨大卵で特大オムライス作ってみた結果www』というタイトルで、ショート動画プラットフォーム『GateStream Shorts』へと投稿したのだ。
そして翌朝。
――ピピピピピ! ピピピピピ!
枕元で鳴り響くスマホの激しい着信音で、あおいは跳び起きた。
ディスプレイには『まひろ』の表示。
「ふぁ……あ、もしもし、まひろ? 朝からどうしたの……?」
『あおい!! 今すぐごはん部のチャンネル開きなさい!!』
いつも冷静なまひろの、裏返った叫び声。
目をこすりながら、あおいは言われた通りスマホのアプリをタップした。
画面に表示された数字を見て、あおいの眠気は一瞬で吹き飛んだ。
チャンネル登録者数:【48,200人】
切り抜き動画再生数:【2,100,000回再生】
「ひぇっ……!? よ、四万八千……に、二百万再生ぇぇぇぇええええっ!?」
あおいの叫び声が、早朝の星宮家に響き渡った。
同接3人から始まった彼女たちの小さな部活は、たった一夜にして、ネット界を揺るがす「大バズり配信者」へと変貌を遂げていたのだった。




