第5話:浅い森の探索と、謎の巨大卵!
『ポムッ!』
放課後、いつものように部室のGatePadから異世界『ファンタジア』へ足を踏み入れる。
配信開始の合図とともに、スマートグラスの視界に色とりどりのコメントが勢いよく流れ込んだ。
>名無しの冒険者:おつー!
>名無しの冒険者:待ってました!
>名無しの冒険者:今日も異世界ごはん部のはじまりだー!
同時接続者数は、配信スタート直後からすでに三十人を超えている。
「みんなー! 今日も見に来てくれてありがとう!」
あおいはポムドローンに向かって元気いっぱいに手を振り、バッと自分の胸を張った。
「チャンネル登録者数100人突破の勢いに乗って、本日はなんと! 『始まりの草原』を飛び出して、新エリア『浅い森』の探索に行っちゃいまーす!」
>名無しの冒険者:おお、新エリア!
>名無しの冒険者:ついに草原卒業か!
>名無しの冒険者:草原と比べて強い魔物がいるから気をつけてねー
「リスナーの言う通りよ。」
横に並んだまひろが、タブレットを操作しながら真剣な表情で言った。
「危険度DからCのモンスターも徘徊しているらしいから、今までみたいに浮かれてちゃダメ。……索敵プログラム、起動」
「はーい、まひろちゃん。私が前に立つね〜」
凛が身の丈ほどもある超硬質合金の大盾をドスンと地面に構える。
制服姿の頼もしいタンクを先頭に、三人は木々が立ち並ぶ『浅い森』へと足を踏み入れた。
◆◆◆
頭上から爽やかな木漏れ日が差し込む森の中。
鳥のさえずりのような綺麗な鳴き声が響く中を進んでいると、まひろのタブレットがピピッと警告音を鳴らした。
「前方十五メートル、反応あり! 来るわ!」
「シャッ!」
茂みをかき分けて飛び出してきたのは、全長1メートルはありそうな巨大なうさぎ――『デカウサギ』だ。
あおいたちを見つけるやいなや、素早い動きでこちらへ突進してくる。
「凛、足止めするわ! 【バインド・ウェブ】!」
凛が大盾で突進を受け止めると間髪入れずに、まひろが地面に青い魔導陣を展開し、デカウサギの足元に光の粘着糸を絡ませる。
「きゅぅ!?」
「今だよ、あおいちゃん!」
「任せて!」
凛の背後からあおいが疾風のごとく飛び出した。
日本刀をすっと低い一文字の構えにセットする。
昨日のコケ芸が嘘のように、その足取りは迷いなく鋭い。
「たぁッ!」
横一文字に閃く銀光。
超軽量合金の刃が、足止めされたデカウサギを正確に一閃した。
――シュワァァァ……。
デカウサギは一瞬で光の粒子へと変わり、消滅。
地面には小さな魔石と綺麗な毛皮だけがポロリと残された。
>名無しの冒険者:おおおおお!?
>名無しの冒険者:めちゃくちゃ綺麗な連携!
>名無しの冒険者:ただのピクニック部じゃなくなってきたww
>名無しの冒険者:剣士ちゃん今日コケてない! 偉い!
「えっへん! 見た!? 私だってやるときはやるんだから!」
あおいは刀をサッと鞘に収めると、鼻を高くしてドヤ顔を決めた。
「まあ、私の足止め魔法と凛のガードがあってこそだけどね」
「ふふ、あおいちゃん、すごくカッコよかったよ〜」
まひろのクールなツッコミと凛の温かい褒め言葉に、あおいはえへへと照れくさそうに笑った。
◆◆◆
さらに森の奥へと進んでいくと、急に空間が開け、見上げるほどの巨木――『大霊木』の根元に出た。
その太い根元には、太い枝やツタで編み込まれた、直径3メートルを超える巨大な網のような構造物があった。
「ねえ、見て! あそこに何かある!」
「……鳥の巣、かしら?」
まひろがタブレットの検索データベースを高速で叩く。
「大型鳥類『ロックバード』の巣ね。危険度Cの強力なモンスターだけど……熱反応解析。親鳥は留守みたいね」
「ねえねえ、巣の中に何か入ってるよ〜」
凛に促され、あおいが巣の中を恐る恐る覗き込んだ。
そこにあったのは――。
「デッッッッカ!?」
あおいは目を見開いた。
巣の中央に鎮座していたのは、ダチョウの卵なんてレベルではない、約30センチほどもあるツヤツヤとした巨大な卵だった。
表面はほのかに桜色に輝いている。
>名無しの冒険者:でっかwwwwww
>名無しの冒険者:鶏の卵何個分だよそれwwww
>名無しの冒険者:ロックバードの卵か! 高級食材だぞそれ!
「す、すごい……いつも見る卵よりずっと大きいよ……!」
「長居は無用よ。親鳥が帰ってきたら大変だし、写真だけ撮ったらセーフティゾーンまで戻りましょう」
まひろが撤退を促そうとした、その時だった。
すーっ。
凛が吸い寄せられるように巨大卵へと歩み寄り、両手で優しく抱きかかえた。
「凛……? 何やってるの……?」
「……あおいちゃん。まひろちゃん」
のんびり屋の凛が、ゆっくりと振り返る。
その瞳は、いつになく怪しく、そして熱くキランと輝いていた。
「この卵……絶対に美味しいよ」
「え?」
「殻のハリといい、ズッシリとした重みといい……絶対に黄身が濃くてトロットロ……。これでオムライスを作ったら、間違いなく最高だと思う」
プロの料理人さながらの熱量で語る凛。
あおいはその言葉を聞いた瞬間、ゴクリと唾を飲み込んだ。
想像しただけで口の中に涎が溢れてくる。
「それ……絶対食べたい!!」
「ええー!? 持ち帰る気なの!? 親鳥に見つかったらどうするのよ!」
「大丈夫だよまひろちゃん。私が盾で守りながら走るから〜」
「そういう問題じゃなくて!!」
悲鳴をあげるまひろを余所に、凛は巨大卵を我が子のように大事そうに抱きかかえた。
>名無しの冒険者:【朗報】巨大卵、食材として認識される
>名無しの冒険者:タンクちゃんの目が本気だwww
>名無しの冒険者:異世界巨大オムライスとか絶対美味いやつじゃん!
「よーし! セーフティゾーンまでダッシュで持ち帰るよー!」
あおいはポムドローンに向かって力強く指をさした。
「みんな! 明日の配信は、このドデカい卵を使って『特大異世界オムライス』を作っちゃいます! 絶対に、絶対に見に来てねー!」
巨大卵を抱えて全力で森を駆け抜ける三人の姿を映しながら、第5回の配信は締めくくられた。
これがのちに数百万再生を突破し、彼女たちの運命を大きく変える『伝説の飯テロ回』になるとは、まだ誰も知らなかった。




