第4話:初見さんいらっしゃい! 初めてのクエストと薬草スープ
『ポムッ!』
放課後、いつものように『始まりの草原』へと通じるポータルが開く。
ドローンが起動し、スマートグラスのARディスプレイに鮮やかな文字が躍った。
>名無しの冒険者:おつー
>名無しの冒険者:ケーキの動画見て来ました!
>初見さん:初見です。女子高生が異世界でピクニックしてるってマジ?
「初見さんいらっしゃいー! 『異世界ごはん配信部』へようこそ!」
あおいは画面に向かってぶんぶんと大きく手を振った。
「スイーツ配信のアーカイブから来てくれた人もありがとう! 今日も楽しんでいってね!」
「ちょっとあおい、挨拶もいいけど今日の企画を発表しなさい」
横からまひろがタブレットをトントンと叩きながら促す。
「あ、そうだった! 本日の配信は――じゃじゃん! 『冒険者ギルドの初クエスト! グリーンハーブ採取でお小遣いを稼ごう!』です!」
>名無しの冒険者:おお、急に冒険者っぽいことし始めたww
>名無しの冒険者:お小遣い稼ぎ草
>初見さん:初クエストファイティン!
「そうなんです。部活の予算を増やすために、ギルドで初心者向け依頼を受けてきました!」
ポーションの原料にもなる『グリーンハーブ』。
セーフティゾーン内の群生地にたくさん生えているらしく、束にして納品すれば一束あたり五百円程度になる。
「さっそく採取スタート! ……って、あれ?」
群生地と呼ばれるエリアに到着したあおいだったが、足元を見つめたまま首をかしげた。
そこには、どこからどう見ても『ただの雑草』が一面に広がっていた。
「どれがグリーンハーブ……? 全部同じ緑色の草に見えるんだけど……」
「ちょっとあおい、ギルドで渡された資料ちゃんと読んだの?」
「読んだよ! 『緑色の葉っぱで草の匂いがする』って書いてあった!」
「大ざっぱすぎるでしょ!?」
あおいが困り果てていると、ARディスプレイのコメント欄がすっと流れた。
>名無しの冒険者:葉っぱの裏側を見てみ。うっすら紫色になってるのが本物だぞ
>名無しの冒険者:あと茎を少し折ると、ミントみたいなスーッとする匂いがするのが上物な
>名無しの冒険者:雑草は葉っぱの縁がギザギザしてるからすぐ分かる
「えっ! リスナーさんすごーい! どれどれ……あ、これ裏が紫色だ! うわぁ、茎折ったらすっごい爽やかな匂い!」
「本当だ……! コメントの言う通りね」
>名無しの冒険者:任せろ、一応Cランク冒険者だからな
>名無しの冒険者:リスナー知識豊富で草
>名無しの冒険者:リスナー師匠助かる
「師匠! リスナー師匠って呼ぶね! 師匠のおかげで本物がどんどん見つかるよー!」
あおいはすっかり懐いた様子で、リスナーのアドバイスに従ってどんどんグリーンハーブを摘んでいく。
配信画面のコメント欄は、アドバイスを教えるリスナーと、それに素直に感動するあおいのやり取りで、どこか温かい一体感に包まれていた。
◆◆◆
「ふぅー! 納品分のハーブ、あっという間に集まっちゃった!」
30分ほどで指定の数をクリアしたあおいたち。
レジャーシートを広げて一息ついていると、凛が余ったグリーンハーブの束を愛おしそうに眺めていた。
「ねえねえ、このハーブ……すごくいい香りがするよ〜」
「そうだね、すっごくスーッとして美味しそうな匂い!」
「うん。……ちょっと、お茶にしてみようか」
凛は持参していたポータブルコンロと小鍋を取り出すと、お湯を沸かし始めた。
丁寧に洗ったフレッシュハーブをそのままポロリとお湯に浮かべると、立ち上る湯気とともに爽やかな香りが周囲に広がっていく。
「さらに……余ったハーブと、持ってきたコンソメと塩をちょっと足して……」
凛がコトコトと煮込んだのは、澄んだスープに鮮やかなグリーンのハーブが揺れる『特製ハーブコンソメスープ』だ。
ポムドローンが、小鍋からふわりと立ち上る温かな湯気と、澄んだスープの表面を美しくクローズアップする。
>名無しの冒険者:うわ出た、このチャンネルの飯テロタイム
>名無しの冒険者:ハーブティーだけじゃなくてスープまで作ってるww
>初見さん:えっ、めちゃくちゃ美味そうなんだが???
>名無しの冒険者:放課後キャンプかよ、最高か
「はい、あおいちゃん、まひろちゃん。出来たよ〜」
「わぁぁ、ありがとう! いただきまーす!」
木製のカップを受け取り、あおいはふーふーと息を吹きかけてからスープを一口すすった。
「ふはぁぁぁ……! おいしいぃぃぃ……!」
あおいの顔が一瞬でほろりととろけた。
「ハーブのスーッとした爽やかさと、コンソメの優しい旨味がすっごい合ってる! 身体の奥までポカポカ染みわたるよ〜!」
「……本当ね。ハーブの青臭さが全然なくて、コンソメのコクが引き立ってるわ」
まひろもカップを両手で包み込みながら、ホッと息をつく。
「ハーブは採りたてが一番香りがいいからね〜。外で飲むスープは美味しいね」
凛が嬉しそうに微笑みながらハーブティーを一口。
木漏れ日が差し込む草原で、制服姿の女子高生3人が温かいスープを飲んで和んでいる。
その光景は、まるで放課後の一コマを切り取ったような、不思議な癒やしに満ちていた。
>名無しの冒険者:なんか見ててすごく落ち着くわ……
>名無しの冒険者:仕事終わりの疲れた身体に効く……
>初見さん:なにこの癒やしチャンネル。即フォローしたわ
「ふふ、みんな楽しんでくれてるみたいね」
まひろがタブレットでアナリティクスを確認し、眼鏡をキュッと押し上げた。
「あおい、凛、見て」
「え? あ……!」
タブレットに表示された数字。
同時接続者数:【23人】
チャンネル登録者数:【112人】
「同接20人越え……! それに、チャンネル登録者数が100人を突破してるよー!」
「やったね〜、あおいちゃん」
「うんっ! みんな、本当にありがとうございます!」
あおいはカメラに向かって、今日一番の笑顔で深々と頭を下げた。
「リスナー師匠たちのアドバイスと、凛ちゃんの美味しいスープのおかげです! 『異世界ごはん配信部』、これからも放課後にどんどん冒険していくからね!」
勢いに乗ったあおいは、腰の刀をポンと叩いて胸を張った。
「明日はもっと遠くの森まで足を伸ばして、もっともっとすごい食材を探しに行っちゃいます! 次回も絶対観てねー!」
大盛り上がりのコメント欄に見送られながら、第4回の配信は幕を閉じた。
同接20人、登録者数100人。
小さな一歩を踏み出した彼女たちの前に、さらなる大バズりのきっかけが待ち受けていることを、この時の3人はまだ知る由もなかった。




