第3話:異世界の木の実でおやつタイム!
「じゃじゃーん! 見てよあおい、これ!」
放課後の部室。
まひろが自慢げに自身のタブレット画面を掲げてみせた。
画面には『異世界ごはん配信部【公式】』の配信テスト画面が映し出されている。
昨日までの殺風景な画面とは一変し、角にはファンシーな手描き風フレーム、下部には流れるようにコメントが表示されるコメントポッドが綺麗に配置されていた。
「すごーい! なんか一気に『本物の配信』っぽくなった!」
「ふふん、伊達に昨日の夜、完徹したわけじゃないわ。ポムドローンの自動画角切り替えアルゴリズムも改修したから、あおい達の一番映える表情を勝手に追従してくれるはずよ」
「徹夜は体に悪いよ〜。まひろちゃん、これ食べる?」
凛がどこからか取り出したコンビニの袋から、100円の『プレミアム風ロールケーキ』を差し出す。
「食べない! ……じゃなくて、今日の配信企画はこれを使うのよ」
あおいは胸を張り、カメラ代わりのポムドローンへ向かってビシッと指をさした。
「というわけで本日の配信は! モンスター討伐……ではなく! 異世界ごはん配信部らしく、異世界の果実でおやつタイムをやっちゃいまーす!」
◆◆◆
『ポムッ!』
青空が広がる『始まりの草原』。
光のポータルを抜けた三人は、セーフティゾーンの端にある小さな木立へとやってきていた。
>名無しの冒険者:うお、画面なんか可愛くなってる
>名無しの冒険者:今日もお疲れー。今日は何するの?
>名無しの冒険者:また制服JKだ
「あ、コメント来てる! 画面褒めてくれてるよまひろ!」
「べ、別に見せるために作ったわけじゃないから。見やすさ重視の合理的な改修よ」
まひろがツンと澄ましながらタブレットを操作し、木立の枝に鈴なりになっている果実へフォーカスを合わせた。
「今日のターゲットはあれよ。【ルミナス・ベリー】。セーフティゾーン周辺でよく群生している安全な果実ね。糖度が高くて、マンゴーとイチゴを足したような味がするらしいわ」
木々に実っているのは、直径五センチほどの七色に光る可憐な木の実だった。
「わあ、キレイ! よーし、私が登って取ってくる!」
「あ、あおいちゃん気をつけてね〜」
あおいは制服の袖をまくりあげ、勢いよく木へと登り始めた。
しかし、三メートルほど登ったところで足をかける枝を間違える。
「あ、あれ? 足が届か……わわっ、ちょっと待って落ち――きゃあぁぁっ!?」
「はい、キャッチ〜」
すぽん、と綺麗な擬音がつきそうな手際で、木から落ちてきたあおいを凛が両手で抱きとめた。
>名無しの冒険者:お約束のドジ助かる
>名無しの冒険者:盾の子、物理的にも頼りになりすぎるww
>名無しの冒険者:ポンコツ剣士ちゃん今日もしっかりコけてくな
「うぅ……凛ちゃんナイス抱っこ……」
「怪我はない? あおいちゃん、ベリーいっぱい落ちてきたよ〜」
あおいが揺らしたおかげで、地面の草むらには熟したルミナス・ベリーがいくつも転がっていた。
◆◆◆
「はいっ! それでは『異世界おやつタイム』の始まりでーす!」
木陰に広げたレジャーシートの上。
凛が手際よく水筒の水でルミナス・ベリーを洗い、腰に差していたナイフで手際よくカットしていく。
カットされた断面からは、キラキラと光を反射する宝石のような果汁が溢れ出していた。
凛はその果実を、持参したコンビニの『プレミアム風ロールケーキ』の上にたっぷりとトッピング。
仕上げに、カットした皮から絞った甘酸っぱい果汁を生クリームへとトロリと垂らし込んだ。
『ポムッ!』
自律AIを搭載したポムドローンが、まひろのプログラミング通りにスーッと接写で旋回する。
配信画面いっぱいに映し出されたのは――真っ白な生クリームの上で、七色に輝く果汁と色鮮やかな果肉がドレスのように彩られた、極上の『特製異世界ロールケーキ』だった。
>名無しの冒険者:おい急に美味そうなもの食い出すなww
>名無しの冒険者:画質が無駄に良すぎて腹減ってきたんだが?
>名無しの冒険者:え、待ってこれ100円のロールケーキだよね? めちゃくちゃ美味そうなんだが??
「見て見て! 超美味しそうじゃない!? それじゃあ……いただきまーす!」
あおいはフォークで生クリームとルミナス・ベリーを大きめにすくい、口へと放り込んだ。
「―――――ッ!?」
一口噛んだ瞬間、あおいの目が見開かれた。
濃厚でミルキーな生クリームの甘さと同時に、フレッシュで極上の甘酸っぱさが口いっぱいに弾け飛ぶ。
果汁が生地にじわっと染み込み、100円のロールケーキが一口で高級ホテルの特製パフェへと化けていた。
「ん〜〜〜〜っ!! 美味しいぃぃぃ!! なにこれ、甘いのに全然くどくない!果汁がジュワってなって、生クリームと混ざって最高!!」
「私ももらうね……ん。……ふふ、甘くて美味しい」
凛も一口食べると、ほわっと幸せそうな笑みを浮かべた。
だが次の瞬間、彼女の料理人としての鋭い瞳がキラリと輝いた。
「……あおいちゃん。この果実、火を通して少し詰めてペーストにしたら、もっと甘みが引き立つかも。バターと一緒に肉料理のソースにしても化けそう……」
「肉料理!? 異世界のお肉!?」
「ちょっと凛、まだ私たちはスライムしか倒してないんだから飛躍しすぎ!」
まひろがツッコミを入れながらも、ARディスプレイの数値を見て目を見開いた。
>名無しの冒険者:盾の子は料理出来る子か
>名無しの冒険者:飯テロやめろwww
>名無しの冒険者:夕飯前に見るんじゃなかった
>名無しの冒険者:コンビニケーキに異世界フルーツあわせるの頭いいな
>名無しの冒険者:なんかお腹空いてきたからチャンネル登録したわ
コメント欄がこれまでにない速度でスクロールしていく。
「あおい、凛……見て」
「え? あ、同接……!?」
スマートグラスに表示された同時接続者数の数。
そこには――【12人】と刻まれていた。
「じゅ、12人だぁぁぁーーーっ! 二桁行ったよまひろ!!」
「ええ……! 野次馬じゃなくて、ちゃんと観続けてくれてる人が12人もいるわ……!」
「すごーい。みんな、ケーキ美味しいよ〜」
画面に向かって笑顔で手を振る凛と、飛び跳ねて喜ぶあおい。
まひろは眼鏡をそっと押し上げ、画面の向こうで増えていく『いいね』の数を噛みしめるように見つめていた。
自分たちの「放課後の日常」と「美味しい食べ物」。
そ
それが画面の向こうの誰かに届いた、小さな、けれど確実な一歩だった。




