第31話:中層最深部へ向けて! アキバでの最終装備補強と作戦会議
ネオンの光が街を照らし、巨大なビジョンには異世界攻略の最新ニュースが流れている。
週末の秋葉原。異世界探索者御用達の大手ショップ『アキバ・異世界ギア&マテリアル』の店内は、多くの探索者や配信者たちで熱気に満ちあふれていた。
「うわあああ! 見てまひろ、凛ちゃん! こっちの軽量プロテクター、最新の特殊断熱素材で耐熱と耐寒性が段違いだよ! すごーい!」
あおいが目を輝かせて展示ケースに張り付いている。
肩の上に乗ったツノっちも、あおいの真似をしてガラスにペタリと前足を押し当てていた。
「はしゃぎすぎよ、あおい。今回は今までと訳が違うんだから。目指すのは『氷雪・火山複合エリア』の中層最深部。部活の遠征枠とはいえ、一瞬の油断が命取りになるわ」
呆れ顔で小言を言いながらも、まひろの手に握られたタブレットには、事前にリサーチした装備リストと購入予算がびっしりとメモされていた。
「でも、あおいちゃんが目をつけてるその防具は正解だよ〜。最深部は極寒の氷雪エリアと灼熱の火山エリアが隣り合ってるから、過酷な温度変化から身体を守る高機能な防具は必須なんだよ」
凛が優しく解説しながら、自身の目的である『重防具&調理ギアコーナー』へと足を向ける。
あおいのプロテクターを選んだあと、凛が熱心に吟味していたのは、ボスの強烈な熱気や冷気のブレスも防ぎきるプロ仕様『高剛性・特殊断熱超合金大盾』と、過酷な環境下でも料理やスープを熱々のまま維持できる『高性能魔導保温ボトル』だ。
「これならボスの猛攻もしっかりガードできるし、極寒の氷雪エリアに入る前にも、温かいスープでしっかり身体を温められるよ……ふふっ」
凛の瞳に、パーティーの要であるタンクとして、そしてシェフとしての情熱が宿る。
「よしっ! あおいの新型防具、凛の超合金大盾と保温ボトル、それに私の広域環境センサー端末……全部購入完了ね!」
ショップの会計を済ませ、両手いっぱいの買い物袋を抱えた三人は、ホクホク顔で秋葉原の街を後にした。
◆
夕暮れ時、学校の部室。
カチャン、とドアが閉まると、先日の買い物気分の和やかな空気から一転、引き締まった緊張感が部室を包み込んだ。
まひろが部室の大型モニターに電子マップを映し出し、同時に一枚の書類を机に叩いた。そこには『異世界探索部活動・中層最深部遠征許可証』の公印が押されている。
「……よし。学校の顧問の先生と異世界ギルドの両方から、無事に『部活動としての討伐申請』の許可が降りたわ! 条件は全員の緊急脱出用転移スクロール所持と、指定の安全装備の装着よ」
「やったぁぁぁ! さすがまひろ! 書類審査完璧!」
「ふふ、これで心置きなく挑めるね〜」
まひろがペン型端末でモニターの最奥にある巨大な部屋を指し示した。
「それじゃあ、これより『中層最深部ボス攻略作戦会議』を始めるわよ! 私たちが挑む最深部ボスは――『双極竜ヴォル・フロスト』。左半身が灼熱、右半身が氷で構成された、中層のエリアボスよ」
画面に映し出されたボスのCGグラフィックは、なかなかの迫力を放っている。
「攻撃パターンは大きく分けて三段階。第一フェーズは氷雪攻撃、第二フェーズは火炎攻撃、そして最終フェーズは両方の攻撃を交えてくる状態よ。周囲の激しい寒暖差で身体が冷えたりバテたりして、動きが鈍くなるのが一番怖いわ」
「うぐぐ……寒さで手足がかじかんだら、回避も攻撃も遅れちゃうもんね……」
あおいが思わずゴクリと唾を呑み込む。
「だからこそ、全員の役割分担を徹底するわよ! まず凛はタンクとして、ボスの攻撃を正面から大盾でガッチリ受け止めて、視線をこちらに引きつけてほしいの。それと突入前には、凛特製のスープで身体を内側からしっかり温めて、手足のかじかみや冷えを防いでおくわ」
「任せて! 温かいスープでしっかり身体を温めておくし、最新の大盾でボスの猛攻は私が全部受け止めるよ〜。あおいちゃんには指一本触れさせないからね!」
「頼もしいわ! そしてあおいはアタッカーとして、凛ちゃんが引きつけている隙に、ボスの頑丈な鱗を避けて関節や装甲の隙間、肉質の柔らかい部分を的確に短剣で突くこと!」
「了解! 硬い甲殻を避けて、隙を見逃さずに急所に叩き込むよ!」
「私は後方から広域センサーでボスの挙動の予兆をコンマ一秒単位で察知して、二人に回避指示と状況分析を送る。……この『アタッカー・タンク・サポーター』の役割をしっかりこなして、確実に勝利を掴むわよ!」
まひろの完璧なデータと明確な役割分担に、あおいと凛は強く頷いた。
◆
作戦会議が一通り終わり、あおいが部室のポムドローンを起動した。
「よしっ! それじゃあ最後に、応援してくれてるリスナーのみんなに作戦会議完了の報告配信をしよう!」
カメラのライトが点灯し、配信がスタートする。
「みんな、こんばんはー! 『異世界ごはん配信部』です!」
画面が開いた瞬間、待ち切れないリスナーたちのコメントが怒涛の勢いで流れていく。
>スライムニキ:待ってたぞおおお! アキバで目撃情報出てたからワクワクしてた!
>名無しの冒険者:おつかれ! 遠征の許可無事に降りたのか!?
>ペンギン太郎:部室のモニターにガチのボスデータ映ってて草。本気度が伝わってくる!
>ソロキャンパー:ヴォル・フロストか! 部活の規定枠ギリギリの難関ボスだな。準備は万全か?
「うん! 学校とギルドからちゃんと許可をもらって、アキバで最新の防具と凛ちゃんの大盾、まひろの作戦用端末も揃えて、準備は100%完了したよ!」
あおいが新調した防具の胸当てをポンと叩いて見せる。
「まだ見てくれる人が少なかった初期の頃から、みんなと一緒に少しずつ成長してきて……ついに明日、私たちはこの1年間の集大成として『中層最深部』に挑みます!」
カメラを見つめるあおいの瞳には、一切の迷いがない。
「ボスを絶対に倒して……みんなに最高の飯テロ配信を届けるって約束するよ!」
>スライムニキ:泣きそう……絶対勝ってくれええええ!!
>名無しの冒険者:本当に大きくなったなぁ……。
>ペンギン太郎:頼れるタンクの凛ちゃんがいるから大丈夫だ!!
>ソロキャンパー:気合バッチリだな! 安全第一で、最高の勝利と飯を持って帰ってこいよ!
リスナーたちからの熱いエールが画面を埋め尽くし、まひろと凛もあおいの隣に並んでカメラに向かって微笑む。
「みんなの応援が、私たちの1番の力になるわ。明日の決戦配信、楽しみにしていてね」
「私のガードは絶対に破らせないよ〜! 最高の勝利と、最高のごはんを用意して待ってるからね!」
「きゅ〜〜〜っ♪」
ツノっちも気合十分といった様子で、小さな拳を突き出した。
部室の窓の外では、夕闇が静かに街を包み込んでいく。
明日訪れる最大の試練に向けて、三人の胸の中には、高鳴る鼓動と確固たる絆が熱く燃え上がっていたのだった。




