第24話:夏休み最終日!? 宿題追い込み緊急配信と超贅沢かき氷
「解けない! 解けないよぉぉぉ!! なんで五教科全部の宿題が丸々残ってるのーーーっ!? 数学の証明問題の意味が分からなさすぎるよ〜〜〜っ!!」
夏休み最終日、夕暮れ時の部室。
頭を抱えて机に突っ伏し、野生の猛獣のような悲鳴をあげているのはあおいだった。
机の上には、手付かずの夏休みの宿題――国・数・理・社・英のプリントとワークの山。
その横で、竹尺を片手に冷ややかな視線を送っているのは、もちろんまひろだ。
「当たり前でしょう。計画的に進めないからこんなことになるのよ。……というかあおい、今日までワークをページすら開いていなかったってどういうことかしら?」
「だ、だってぇ……合宿とか配信とかが楽しすぎて、すっかり忘れてたんだもん……!」
「はい、言い訳無用。ポムドローン起動。今日はあおいの監禁……じゃなくて、学習成果発表緊急配信よ」
まひろが容赦なくドローンスイッチを入れると、部室の惨状がそのままカメラに映し出された。
>スライムニキ:タイトル見て飛んできたwww あおいちゃん詰んでて草
>名無しの冒険者:夏休み最終日の風物詩きたあああああ! 五教科全残しはヤバいww
>ペンギン太郎:机の上のワークの量やばいだろwww 徹夜確定か?
>学習塾の先生:まひろ教官の竹定規がガチすぎて笑う。がんばれあおいちゃん!
「み、みんなたすけて……まひろ教官が鬼に見えるよぉ……」
「無駄な口を叩く暇があったらペンを動かす! ほら、問三の因数分解が間違っているわよ!」
「ひえぇぇん!! 脳みそが溶ける〜〜〜っ!!」
リスナーの生温かい応援コメントとまひろの容赦ない赤ペン指導が交差する中、あおいは半泣きでペンを走らせる。
そんな地獄絵図の部室に、凛が「ふふっ」と優しく微笑みながら足を踏み入れた。
その両手には、布を被せられた巨大な金属製の保冷クーラーボックスが抱えられている。
「あおいちゃん、まひろちゃん、お疲れ様〜。……あおいちゃん、この五教科のワークが終わったら、とっておきのご褒美があるよ〜?」
「ご、ごほうび……!?」
あおいがビクッと耳を跳ね上げ、涙目で凛を振り返った。
凛がクーラーボックスの蓋をそっと開けると、中から『ヒュオォ……』と真っ白な冷気が溢れ出し、部室の温度が一瞬でひんやりと下がる。
「じゃーん! この間採取した、氷河ダンジョンの『純度100%極上氷結晶』だよ〜! これで、特製の超贅沢かき氷を作ってあげるね!」
「か、かき氷ーーーーーっ!?」
あおいの目が一瞬で輝きを取り戻した。
「極寒の永久凍土で育った氷結晶は、雑味が一切なくて溶けにくいの。そこに……自家製の特製シロップをたっぷりかけるんだ〜」
凛が提示した『ご褒美』という名のニンジンの効果は絶大だった。
「やる……! 私、やるよ!! 氷結晶かき氷のために、私の脳細胞を限界突破させるーーーーーっ!!」
「あら、いい意気込みね。じゃあ次は理科の元素記号と歴史の年号暗記に取りかかりなさい」
「よっしゃあああ! 水素はH! ヘリウムはHe! 本能寺の変は一五八二年! どんどん来いーーーっ!!」
>スライムニキ:あおいちゃん覚醒したwwww
>名無しの冒険者:食べ物がかかった時のあおいの集中力、世界レベルだろ
>ペンギン太郎:ご褒美が魅惑的すぎる。氷河ダンジョンの氷でかき氷とか贅沢の極み!
◆
「ふ……ふはぁぁぁぁ……! 終わった……! 終わったよーーーっ!!」
3時間後。最後のワークにまひろの「合格」の丸印がつけられ、あおいは歓喜の声を上げて机に突っ伏した。
「よく頑張ったわね。やればできるじゃない」
「うぅ……頭がウニになりそう……でも! 凛ちゃん、かき氷!」
「ふふ、お待たせ〜! 今削るね」
凛が取り出したのは、手動式のかき氷器。
透き通るような青い氷結晶をセットし、ハンドルをゆっくりと回し始める。
――『シャリ……シャリシャリ……フワッ……』
極限まで薄く削られた氷は、重力に逆らうようにハラハラと舞い降り、ガラスの器の中にまるで新雪のようにフワフワと積み重なっていく。
「うわぁ……! 氷なのに、綿飴みたいにフワフワしてる……!」
そこに凛が回しかけたのは、ふたつの自家製ソースだった。
ひとつは、異世界プレミアムマンゴーの果肉を贅沢に潰して作った、トロリと濃厚な『完熟黄金シロップ』。
もうひとつは、異世界ミルクをじっくり煮詰めて作った特製の『濃厚キャラメル練乳』。
さらに仕上げとして、甘酸っぱい『極彩色異世界ベリー』の果肉が宝石のように散りばめられた。
「特製『極上氷結晶のダブルマンゴー&練乳ベリーかき氷』、完成だよ〜!」
「いただきまーす!!」
あおいはスプーンを差し込んだ。
抵抗感ゼロでサクッとすくえた氷を、待ちきれない様子で口の中に放り込む。
――『……シュン』
口に含んだ瞬間、あおいは目を見開いたまま静止した。
「……消えた……?」
いつものように「頭がキーンとする!」と叫ぶかと思いきや、あおいはうっとりと目を閉じ、口の中の余韻を味わっている。
「冷たいのに、全然頭が痛くならない……! 舌の上に乗せた瞬間に、雪みたいにスーッて溶けてなくなっちゃった……!」
氷が解けたあとに残るのは、果肉感たっぷりの完熟マンゴーの濃密な甘みと、練乳のコク。
さらに間髪入れずに、トッピングされたベリーの爽やかな酸味が重なり、くどさを瞬時に洗い流していく。
「スプーンを止めるスキがないよ〜! 氷自体がすごくピュアだから、フルーツの味がそのままダイレクトに伝わってくるの!」
まひろも慎重に小さじ一杯分を口へ運んだ。
――『……ふう』
冷たさに頬をゆるませ、まひろの口から満足げな吐息が漏れる。
「……素晴らしいわね。普通の氷だと途中で溶けて水っぽくなってしまうけれど、この氷結晶は最後までシャリッとした食感を残しつつ、口溶けだけが滑らかだわ。指導で熱くなった頭が一気に冷やされていく感覚ね……」
二人(と、凛からスプーン一杯分を貰って「きゅ〜♪」と幸せそうに目を細めるツノっち)の至福の表情に、コメント欄は羨望の嵐となった。
>スライムニキ:うわあああ! 口の中で消えるかき氷とか絶対ウマい!
>名無しの冒険者:あおいちゃんが叫ばずにうっとりしてるのがリアルな美味さを物語ってるな
>かき氷マニア:純度100%のダンジョン氷結晶とか一杯いくらするんだよwww
>腹ペコ通りすがり:完熟マンゴーと練乳の組み合わせは反則! 画面越しに冷気が伝わってきそう!
「凛ちゃん、おかわりある!?」
「ふふ、氷はまだたくさんあるから、次は宇治金時風にしてあげようか?」
「やるーーーっ!」
◆
美味しいかき氷を二杯も平らげ、あおいはすっかり上機嫌で伸びをした。
「ふ〜! 宿題も終わったし、美味しいかき氷も食べられたし、最高の夏休み最終日になったよ〜!」
「本当に……あおいの宿題が終わって胸を撫でおろしたわ」
まひろがホッとした様子で溜息をつき、ポムドローンのカメラに向き直る。
「というわけでリスナーのみなさん、本日の緊急宿題耐久配信はこれにて――」
「あ、待ってまひろちゃん」
凛がプリントの山の中から一枚取り出した。
「この英語のプリント、『※裏面も解答すること』って書いてあるんだけど、これって……」
静寂が部室を包んだ。
まひろが凛の手からプリントを受け取り、裏返すと――そこにはびっしりと敷き詰められた長文読解問題の山。
「……あおい?」
「は、はいっ……!」
「配信、延長よ。全部解く覚悟をしなさい」
「ヒギャァァァァァーーーッ!!? たすけて凛ちゃーーーんっ!!」
>スライムニキ:知ってたwwwwww
>名無しの冒険者:裏面トラップきたあああ!
>ペンギン太郎:あおいちゃん、徹夜確定おめでとう! 乙カレーならぬ乙宿題!
>ソロキャンパー:配信延長助かるwww 朝まで付き合うぞ!
――『ピッ(配信延長モード切り替え)』
あおいの絶叫とリスナーたちの爆笑コメントが渦巻く中、異世界ごはん配信部の「夏休み最終日」は、まだまだ終わらないのだった。




