第23話:夏休み合宿! 湖で巨大怪魚の姿焼き&ナイトキャンプ
「うわあぁぁ……見てまひろちゃん、凛ちゃん! 湖に夕日が映ってすっごく綺麗……!」
部室のポータルを抜けると、そこに広がっていたのは果てしなく澄み渡る広大な湖畔だった。
空に輝く巨大な夕日がオレンジ色のグラデーションを描いて傾き、静かな湖面を黄金色に染め上げている。
今日は『異世界ごはん配信部』の夏休み一大イベント――一泊二日の「異世界ナイトキャンプ合宿」だ。
「部室のポータルのおかげで、荷物の搬入も楽々ね。テントの設営も完了したわ」
「ふふ、夜のキャンプってワクワクするね〜」
まひろが手際よく組み立てた本格的な大型テントの横で、凛が慣れた手つきで薪を組み、小さな火を注ぐ。
凛の肩の上では、キャスケット帽を被ったアルミラージのツノっちが「きゅ〜♪」と鼻を鳴らし、薪の香ばしい匂いに耳をピコピコと動かしていた。
まひろがポムドローンを起動すると、夕暮れの幻想的な景色とともに配信がスタートした。
>スライムニキ:うおおおお! 今夜はキャンプ配信か! ロケーション最高すぎる!
>名無しの冒険者:エモい……夕暮れの湖畔ダンジョンきれい……
>ペンギン太郎:ツノっちのキャンプ帽子かわよ! てかテント本格的だなww
>ソロキャンパー:焚き火のパチパチ音助かる。最高の癒やし配信の予感
「みんなこんばんは〜! 今日は夏休み特別企画! 異世界の湖畔からナイトキャンプをお届けしま〜す!」
あおいがランタンを手にカメラに向かって元気に手を振ると、まひろが湖面を指さした。
「今夜のメインディッシュは、この湖のに潜む伝説の魚――『レインボー・レイクレヴィア』よ。
虹色に輝くウロコを持つ、体長一メートルを超える巨大な怪魚ね」
「よしっ、今夜のごはんは私が責任を持って釣り上げてみせるよ!」
あおいは腕まくりをすると、異世界素材で補強された特製の頑丈な釣竿を構えた。
◆
――バシャァァァンッ!!
「きたきたきたーーーーっ!! 手応えすっごい重いよーーーっ!!」
あおいの持つ釣竿が、折れんばかりに大きくしなった。
湖面が激しく波立ち、七色に輝く巨大な影が水中を縦横無尽に暴れ回る。
>スライムニキ:うおっ!? いきなり大物きたああああ!!
>名無しの冒険者:竿の曲がり方やばいだろwww あおいちゃん引きずられるなよ!
「負けるかぁぁぁーーーっ! アタッカーの筋力を舐めるなーーーっ!!」
あおいは足をグッと砂地に踏み込むと、腰の力を使って一気に竿を跳ね上げた!
夕暮れの空へ向かって、七色のウロコを夕日にキラキラと反射させながら、体長一・五メートルはあろうかという巨大な怪魚が豪快に舞い上がる。
――ザザーッ!!
「とったどーーーーーっ!!」
「ナイスあおい! 素晴らしい大物ね!」
「すごいよあおいちゃん! これならお腹いっぱい食べられるね〜!」
浜辺へ打ち上げられたレインボー・レイクレヴィアは、水から上がると上質な脂の甘い香りをほのかに漂わせていた。
◆
すっかりあたりは暗くなり、頭上には満天の星空と、静かに揺らめく焚き火の炎。
凛の手による本格的なキャンプ調理が始まった。
「今日のレイクレヴィアは、味付けと調理法を変えてふたつの食べ方で楽しむよ〜。まずは……『粗塩姿焼き』!」
凛が太い竹串を大きな切り身に通し、粗塩をたっぷりと振りかけて焚き火の周囲に突き立てる。
――『パチパチパチ……ジューッ……』
パチパチと燃える薪の爆ぜる音とともに、直火の遠赤外線でじっくりと炙られていく魚身。
黄金色の脂がじわじわと皮を押し上げ、香ばしい煙が夜の湖畔に広がっていく。
「そしてもう一品は、厚切りの切り身を使った『極上ポワレ〜特製ハーブバター醤油ソース〜』だよ〜」
スキレットで皮目からじっくり焼き上げられた切り身に、凛特製の異世界ハーブと焦がしバター醤油がジュワッと回しかけられる。
――『ジュワァァァァ……ッ!!』
食欲を激しく刺激するバター醤油の香ばしい匂いに、コメント欄のリスナーたちからも歓声が上がった。
◆
「さあ、温かいうちに召し上がれ〜」
卓上に並んだのは、焚き火の直火で香ばしく焼き上げた『姿塩焼き』と、スキレットから甘い湯気を立てる『ポワレ』。
「うわぁぁ……! それじゃあ、まずは塩焼きから……いただきまーす!」
あおいが豪快にかぶりついた。
――『パリッ……ホクホクッ……』
直火でパリッと焦げ目のついた皮を破ると、中から真っ白で厚みのある身がほろりと崩れ落ちる。
粗塩だけのシンプルな味付けが、レイクレヴィア本来の皮目の香ばしさと、白身の力強い旨味をダイレクトに際立たせていた。噛みしめるたびに、薪の燻煙の香りが鼻を心地よく抜けていく。
「んん〜っ! 塩焼きはすごく香ばしくてジューシー!
噛むとお肉みたいにプリプリしてて、薪の煙の香りがついてて最高にキャンプ飯って感じだよ!」
次に、凛が「ポワレの方は、このすだち風の異世界柑橘を少し搾ってみて」と添え物を差し出した。
あおいが果汁をふりかけ、スキレットの切り身をスプーンですくって口へ運ぶ。すると、今度はまったく違う世界が広がった。
「うわっ……!? え、すごっ……!」
あおいは思わず目を丸くし、手で頬を押さえた。
「こっちは一転してすごくリッチ! 焦がしバターの濃
厚なコクにキュッとした柑橘の酸味が効いてて……白身がふわっふわに解けていくよ〜!」
まひろも両方の味を交互に確かめるように口へ運ぶ。
「……本当ね。塩焼きは身がキュッと引き締まっていて魚本来の旨味がダイレクトに来るけれど、ポワレはバターの脂を纏って驚くほど上品で滑らかだわ。同じ魚なのに、加熱の仕方とソースでここまで表情が変わるなんて……」
異なる食感と香りの対比に、コメント欄も大盛り上がりとなった。
>スライムニキ:直火の豪快な塩焼きと、ハーブバターの極上ポワレの食べ比べとか最高かよ!
>名無しの冒険者:あおいちゃんが目を丸くして悶絶してるの草www 絶対うまいやつ!
>焚き火好き:薪の煙が香る塩焼きは男の夢だな……!
>腹ペコ通りすがり:すだち絞った焦がしバター醤油が反則すぎる……飯テロだ……!
熱々の料理を交互に味わいながら、三人は贅沢な湖畔の晩餐を心ゆくまで堪能した。
◆
食事が終わり、ランタンのほのかな灯りと焚き火の揺らめきの中で、ゆったりとした雑談タイムが始まった。
コップに注がれた温かいハーブティーを手に、あおいは膝を抱えて焚き火を見つめる。
「ふぅ……なんだか落ち着くなぁ。静かで、風が気持ち良くて……」
「ええ。たまにはこういう、のんびりした配信も悪くないわね」
ポムドローンのカメラは、三人を取り囲む温かい空気と、遠くで静かに波打つ湖面を映し出している。
>スライムニキ:いつものドタバタも好きだけど、このしっぽり感めっちゃ癒やされるわ
>名無しの冒険者:実家のような安心感。ずっと観ていられる
>ペンギン太郎:あおいちゃんたち、本当に仲良しで楽しそうだなぁ
「ねえ、まひろちゃん、凛ちゃん」
「ん? なにかしら」
「私ね……『異世界ごはん配信部』を作って、ふたりと一緒に活動できて、本当によかったなって思ってるんだ」
照れくさそうにあおいが笑うと、まひろは少し驚いたあと、優しく目を細めた。
「急にどうしたのよ。……でも、私もよ。あおいが誘ってくれなかったら、こんな素敵な景色も美味しい料理も知らなかったわ」
「ふふ、あおいちゃんが美味しく食べてくれるから、私も料理を作るのがすごーく楽しいよ〜」
凛の腕の中で、ツノっちが満足そうに「きゅ〜……」と小さな寝息を立て始めた。
「……そろそろ、リスナーのみんなもお休みの時間かな」
あおいはカメラに向かって、静かに、けれどとびきり温かい笑顔を向けた。
「みんな、今夜は一緒にキャンプしてくれてありがとう! それじゃあ……おやすみなさい」
>スライムニキ:最高の配信だった……おやすみ!
>名無しの冒険者:癒やされた〜! みんな良い夢を! おやすみ!
>ペンギン太郎:おやすみなさい! キャンプ合宿最高だったよ!
――『ピッ』
「まったく……『夏休みだからダンジョンでお泊まりキャンプがしたい!』なんて突然言い出すんだもの、申請間に合わないかと思ったわ」
配信機材を片付けながら、まひろが呆れたように溜息をついた。
ダンジョン内での宿泊や特殊な調理器具の持ち込みは、生徒会とダンジョン管理公社への事前申請が義務付けられている。
今回、無事に湖畔ダンジョンでナイトキャンプが実施できた裏には、まひろの超人的な事務処理能力があったのだ。
「あはは……ごめんね。でも、まひろなら絶対なんとかしてくれるって信じてたよ!」
「調子いいこと言っちゃって。今回はたまたま公社の受付に知り合いがいたから特例で通せたのよ? 次からこういう企画を思いついたら、最低でも三日前には言いなさいね」
そう言って不機嫌そうにタブレットの画面を指で弾くまひろだったが、その口元はどこか誇らしそうだ。
「ふふ、でもまひろちゃん、あおいちゃんから『キャンプしたい!』って言われた直後、すごい集中力で申請書打ち込んでたよね〜。ノリノリに見えたよ?」
「り、凛!? 余計なこと言わなくていいの!」
横から凛に突っこまれ、まひろは顔をほんのり赤くして背けてしまう。
凛の膝の上で、ツノっちも「きゅ〜♪」と同意するように耳をピコピコと揺らした。
「まひろ、ありがとね! まひろが申請を出してくれたおかげで、最高の夏休みの思い出ができたよ!」
「……べつに。部長として当然の仕事をこなしただけよ。さ、撤収作業を終わらせて部室に戻るわよ」
そっぽを向きながらも、どこか嬉しそうなまひろ。
三人は残った薪の火をきれいに消すと、楽しかった湖畔の余韻を胸にポータルへと歩き出したのだった。




