第22話:夏の暑さを吹き飛ばせ! 氷河ダンジョンで灼熱マハラジャカレー
「涼しい場所に連れてってあげるって言ったけど……涼しすぎるっていうか、寒ーーーーーいっ!!??」
ポータルを抜けた瞬間、全身の毛穴が一気に縮み上がるような激しい冷気があおいを襲った。
視界いっぱいに広がるのは、青く澄み渡る巨大な氷柱と、果てしなく続く銀世界。中層エリアでも屈指の極寒地帯『氷河ダンジョン』だ。
半袖の体操服にジャージという夏仕様のあおいは、口から真っ白な息を吐き出しながらガクガクと身体を震わせた。
「ちょっと二人とも!? 外は猛暑日だけど、ここは氷点下じゃない!?」
「ふふ、涼しいどころか『激寒』でしょ? 夏バテ気味のあおいちゃんのために、思い切ってここまで来ちゃった〜」
「猛暑日のエアコン代わりにちょうどいいじゃない。ほら、コートを着なさい」
まひろからモコモコの上着を着せられ、あおいは「うぅ……極端すぎるよぉ……」と暖を取りながら呟いた。
凛の抱っこするツノっちも、小さな防寒帽とマフラーを首に巻いて「きゅ〜♪」と嬉しそうに耳をピコピコ動かしている。
まひろがポムドローンを上空へ舞い上げ、配信をスタートさせた。
>スライムニキ:うわっ眩しっ! 画面一面の氷世界かよ!
>名無しの冒険者:猛暑日に氷河ダンジョン配信助かるwww 見てるだけで涼しいわ
>ペンギン太郎:あおいちゃん震えてて草。夏バテ吹っ飛んでるやん
>氷結クラスタ:寒そうだけどロケーション最高! ツノっちのマフラー姿かわよ!
「み、みんなこんにちは〜! 猛暑を避けて氷の世界にやって来ました〜!」
あおいが寒さに耐えながらカメラに手を振ると、まひろがタブレットを指でタップしながら解説を始める。
「今日のターゲットは、この氷河エリアに生息する『氷結ダンジョンポーク』よ。永久凍土でじっくり熟成された、極上の豚肉をドロップするモンスターね」
◆
「ブシューーーッ!!」
氷の洞窟を進むと、体長二メートルを超える巨大な牙を持った猪型のモンスター――『氷結ダンジョンポーク』が地面を蹴り上げて突進してきた。
「来たわ! あおい、正面から行くと凍結ブレスを受けるわよ!」
「了解! 寒いから身体を思いっきり動かして温めるよーーーっ!」
あおいは刀を抜くと、突進してくる!
突進を紙一重でかわし、アクロバティックに側面に回り込む。
「ブフォ!?」
「凛ちゃん、お願い!」
「任せて〜!」
凛が大盾を構えて横から「ガァン!」と強い衝撃を叩き込み、ポークの体勢を崩す。
すかさずあおいが跳躍し、氷の結晶を纏った背甲の隙間へ鋭い一閃を叩き込んだ!
――ズバァンッ!
鮮やかな手際で撃破されたポークは、綺麗な霜降り肉のブロックとなってポロリとドロップした。
「やったー! 霜降りのお肉ゲット〜!」
「ふふ、いいお肉だね〜。それじゃあ、風が当たらないセーフゾーンの洞窟で料理にしようか!」
◆
氷の洞窟内。氷のテーブルを囲み、凛が取り出したのは特製の巨大な深型鍋と、色鮮やかな瓶に入った数々のスパイスだった。
「こんなに寒い場所で何を作るの、凛ちゃん?」
「ふふ、寒さを吹き飛ばして食欲を爆発させる、特製『灼熱マハラジャスパイスカレー』だよ〜!」
「カ、カレーーーッ!?」
あおいとリスナーの目が輝いた。
氷の世界でカセットコンロに火が灯される。
凛は鍋にたっぷりの異世界バターを溶かし、クミン、カルダモン、クローブなどのホールスパイスを投入した。
――『スパッ……ジューッ……パチパチパチッ!』
極寒の澄み切った空気の中に、香ばしく弾けるスパイスの刺激的な香りが一気に広がっていく。
「うわぁぁぁ……! スパイスのいい香りが洞窟中に広がる〜〜〜!」
そこに、みじん切りにしたタマネギとニンニク、ショウガを投入して飴色になるまでじっくり炒め、さらに自家製のガラムマサラとトマトペーストを加える。
最後に、大ぶりにカットした『氷結ダンジョンポーク』の肉塊を投入!
氷層で熟成されたポークは、熱が入るにつれて『ジュワァァァ……』と上質な脂の湯気を立ち上らせ、ル
ーの中にトロトロと溶け込んでいく。
「さあ、完成だよ〜!」
差し出されたのは、真っ白な氷の洞窟の中で赤々と黄金色に輝く、湯気立つ深紅のカレー。
ターメリックライスの上に、ゴロゴロとした大きな肉塊が贅沢乗せられている。
「いただきまーす!」
あおいは大きなスプーンで、肉とルーとご飯をたっぷりとすくい、口へ運んだ。
――『ハフッ……モグモグ……ゴクン』
「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!! か、辛ぁぁぁいっ! でも、すっっっごく美味しいーーーっ!!!」
口に入れた瞬間、弾けるようなスパイスの爽快な辛味が舌を突き抜ける。
しかしすぐに、じっくり熟成されたポークの旨味と濃厚な脂の甘みが追いかけてきて、辛さをまろやかに包み込んでいく。
――『ホロホロ……ジュワァァ……』
「お肉がスプーンで切れちゃうくらい柔らかいよ〜っ! 噛むたびにジュワッて肉汁が出てきて、辛いルーと混ざり合って最高っ!」
まひろも額に汗を浮かべながらスプーンを動かす。
――『ハフ……ゴクッ』
「ふぅー……っ! すごい、身体の芯からカッと熱くなってくるわ……! 氷点下なのに、身体の中から元気が湧いてくる感じ!」
寒冷地の冷気の中で、汗をダラダラとかきながらハフハフとカレーを頬張る三人。
極寒×カレーの怒涛の飯テロに、コメント欄は大爆発を起こした。
>スライムニキ:氷の洞窟でカレー食うとか悪魔的すぎるだろwww
>名無しの冒険者:あおいちゃんの顔が汗でほんのり赤くなってて可愛すぎ!
>激辛マニア:絶対ウマい奴だこれ! 飯テロすぎる!
>腹ペコ通りすがり:寒さで引き締まった熟成肉がカレーに溶けてるの反則!!
>名無しの探索者:夏バテ解消に極寒ダンジョンでカレーは天才の発想
「ハヒ……辛い……でも手が止まらないよ〜〜〜っ!」
あおいは汗を拭いながら、夢中で皿を綺麗に平らげたのだった。
◆
「ふはぁーーーーっ!! ごちそうさまでしたっ! 舌が痺れるけど、頭がスッキリしたよ〜!」
綺麗に空になった皿を置き、あおいは大きく息を吐き出した。
額にはびっしょりと汗をかいているが、その表情は実に爽やかだ。
「凛ちゃん、冷たいお茶おかわり! まだ口の中が熱い〜!」
「はいはい、氷入りの麦茶どうぞ〜」
「ちょっとあおい、配信切る前に勝手にがぶ飲み始めないの。ちゃんと締めの挨拶をしなさい」
まひろに小突かれ、あおいは慌てて麦茶のコップを両手で持ったままカメラに向き直った。
「あ、みんな! 今日も観てくれてありがと〜! 寒さとカレーの組み合わせ、みんなも試してみてね〜! ……じゃなくて、はふぅ、お茶おかわりーっ!」
「もう、最後が雑なんだから……。ポムドローン、配信終了」
画面には、最後にお茶をゴクゴクと飲み干すあおいの姿と、リスナーたちの爆笑のコメントが一気に流れ込んできた。
>スライムニキ:お茶がぶ飲み終了草www
>名無しの冒険者:乙カレー! こっちも今夜はカレーにするわ!
>ペンギン太郎:ポカポカあおいちゃん可愛かった! 乙カレー様!
>名無しの探索者:次回も楽しみにしてるぞー! 乙カレー!
――『ピッ(配信終了)』
ドローンの赤ランプが消え、配信が無事に終了する。
「ふぅ……身体がすっごく温まった! これなら現実世界の猛暑にも負けない気がするよ!」
「ふふ、頼もしいねあおいちゃん。でも、部室に戻ったら冷房のつけすぎには注意だよ?」
真っ白な湯気と熱気を纏ったまま、三人は仲良くポータルへと足を進めたのだった。




