第21話:密林樹海で宝探し! 巨大熟成トロピカルマンゴー
「暑い……暑すぎるよぉ……」
どこまでも青い空と砂浜が広がっていた海岸エリアから一転。
ポータルを抜けた先に広がる密林ジャングルエリアは、ねっとりとした濃密な熱気と湿気で満ちていた。
頭上を覆い尽くす巨大な木々、鬱蒼と茂る見たこともないシダ植物。
あおいはジャージの袖で額の汗を拭いながら、うなだれるように歩いていた。
「あおい、水分補給はしっかりしなさい。ここは特に湿度の高い『密林樹海』なんだから」
「ふふ、冷たい麦茶飲む〜?」
まひろから注意を受け、凛から差し出された保冷ボトルを受け取ると、あおいは勢いよく麦茶を流し込んだ。
凛の肩口からは、小さな探検家風の帽子を被ったツノっちがひょっこりと顔を出し、耳をピコピコと動かして熱帯の空気を確かめている。
「ふはぁ〜! 生き返る〜! でも凛ちゃん、こんなに蒸し暑い場所に本当に美味しい食べ物があるの?」
「ええ。今回のターゲットは、このジャングルにしか実らない幻の果実よ」
まひろがタブレットの画面を操作し、宙に浮かぶポムドローンを起動した。
夏休み配信の続きを待っていたリスナーたちが、次々とチャット欄に集まってくる。
>スライムニキ:今日はジャングルか。一気にサバイバル感増したな
>名無しの冒険者:あおいちゃんバテ気味で草。熱中症気をつけてね!
>フルーツ好き:ジャングルってことは果物系か!?
>ペリカン隊長:ツノっちの探検家帽子かわよすぎ
「みんな、こんにちは〜! 今日は密林ダンジョンに美味しい食材を探しに来ました〜!」
あおいがカメラに向かって元気よく手を振ると、まひろが上空の巨木を指さした。
「目指すターゲットはあれよ。巨木の樹上に実る高級食材――『サンシャイン・熟成マンゴー』」
三人が見上げた先、遥か頭上の枝には、太陽の光を浴びて黄金色に眩しく輝く、大玉スイカほどもある巨大なマンゴーが鈴なりになっていた。
「うわぁぁぁ! すごい! お日様みたいに光ってる!」
「でもね、あおいちゃん……あそこには先客がいるみたいなんだ〜」
凛が困ったように笑いながら指さした枝の周囲には、鮮やかな緑色の毛並みをした猿型モンスター『エメラルド・モンキー』の群れが群がっていた。
手頃な果実を抱え込み、縄張りに侵入してきた三人を警戒してギャーギャーと甲高い威嚇声を上げている。
「木の上にあの数か……下手に近づくと一斉に木の実や枝を投げつけられて蜂の巣ね」
「ふふっ、木登りと追いかけっこなら、私の得意分野だよ!」
あおいは不敵に笑うと、軽やかな脚取りで樹幹へと向かって走り出した。
>スライムニキ:前回と同じことやってて草
>名無しの冒険者:二回連続木登り配信は草ww
>名無しの冒険者:この間見たぞww
◆
「おーい! こっちだよ〜〜〜っ!」
あおいが叫びながら幹を力強く踏み付け、最寄りの太い枝へと跳躍する。
「ギャッ!? ギャギャッ!?」
あおいの侵入に驚いたエメラルド・モンキーたちが、一斉に木の実に手を伸ばして投げつけてくる。
だが、あおいはしなやかな身ごなしで、枝から枝へ空中を舞うように跳び移り、降り注ぐ投擲物をすべて紙一重でかわしていった。
「そっちじゃないよ〜! ほらほら!」
木々の間を立体的に駆け巡り、猿たちの視線を一手に引きつけるあおい。群れの全意識があおいに集中したその瞬間――
「今よ、凛!」
「任せて〜!」
地上で機を窺っていた凛が、背中の大盾を身構えながら巨木の根元へ急接近。
まひろが最も完熟して重みで垂れ下がっている『サンシャイン・熟成マンゴー』に向かって魔法を発動させる。
「【ウインドスラッシュ】!」
風の刃は正確に枝元を捉える。
枝から離れた巨大なマンゴーが落下の軌道を描く。凛は抱えていた大盾をすばやく水平に差し出し、クッションのように優しくマンゴーを受け止めた。
「ゲットだよ〜、あおいちゃん!」
「ナイス凛ちゃん! それじゃあ撤退〜〜〜っ!」
あおいは枝を力強く蹴り、樹上から砂地へ向かって豪快にバック転しながら着地。
猿たちが追撃してくる前に、三人は息の合った連携で素早くセーフエリアへ離脱した。
>スライムニキ:あおいの枝渡りアクション、相変わらず無駄にキレがあって笑う
>名無しの冒険者:空中パルクールすごすぎwww
>名無しの探索者:あの猿の群れから無傷で果実だけ掠め取るとか完璧なチームプレイだな
◆
セーフエリアの木陰に移動した三人は、手に入れた巨大な『サンシャイン・熟成マンゴー』をテーブルの上に置いた。
濃密で甘く熟したトロピカルな香りが、一瞬で周囲に漂う。
「ふぅ〜! ひと汗かいた後の果物は絶対美味しいよね!」
「ただ食べるだけじゃないよ〜。この暑いジャングルにぴったりの食べ方を用意してきたんだ」
凛が取り出したのは、保温用の魔法容器。中には氷結洞窟で採取した純度の高い氷結晶がギッシリ詰まっている。
凛は手際よくマンゴーの種に沿って三等分にカットすると、とろけるような黄色い果肉に綺麗な格子状の切れ目を入れ、皮の裏から押し上げて花が咲いたような「花咲きカット」に仕立て上げた。
そして、それを氷結晶の敷き詰められたバットへ並べ、一気に急速冷却する。
「うわぁ……氷の湯気で冷やされて、果肉がキュッと締まっていくのが見えるよ……!」
しっかりと冷えたところで、凛が冷涼なグラスに盛り付けて完成。
『極冷・サンシャイン熟成マンゴーのカットパフェ』だ。
「さあ、召し上がれ〜」
「いただきまーす!」
あおいは冷えたスプーンで、格子状にカットされた大ぶりの果肉をひとつすくい上げ、口の中に滑り込ませた。
――『サクッ……ジュワァァァ……』
氷で表面が心地よく引き締められた果肉が、歯を立てた瞬間に心地よい音を立てる。
そして次の瞬間、口の中で一気に体温に温められた濃厚な果汁が、爆発するように溢れ出した。
「んんん〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!! スプーンを入れたときはキュッと締まってるのに、口に入れた瞬間にジュワ〜ッてとろけていくよ〜〜〜っ! めちゃくちゃ甘いのに、後味がすごく爽やか!」
あおいの至福の表情とともに、マイクが拾った『サクッ、ジュワッ』というみずみずしい ASMR 音が配信に乗って響き渡る。
続いて、まひろも一口。
――『サクッ……トロン……』
「……んっ! すごいわね、これ。果肉の密度がすごく高くて、まるで高級なジェラートを食べているみたい……! 汗が一気にひいていくわ」
冷たい果実の絶品 ASMR 実食に、画面の向こうのコメント欄は大盛況となった。
>名無しの冒険者:音ォォォ!! 果汁の溢れる音がダイレクトに響いてくる!!
>スライムニキ:冷やし果実のASMRは効くわ……画面越しなのに口の中が甘くなってきた
>甘党代表:花咲きカット綺麗すぎる! 今すぐマンゴー買いに行くわ!
>フルーツ好き:サクッからのジュワッの音で完全に撃ち抜かれた
>腹ペコ通りすがり:猛暑のジャングルで食べる冷えた熟成フルーツとか至高かよ
「ふふ、喜んでもらえてよかった〜。ツノっちの分もあるよ」
凛が小さくカットしたマンゴーを差し出すと、ツノっちも鼻をピコピコさせながら「きゅ〜♪」と美味しそうに果汁を舐めている。
◆
極上の冷やしマンゴーを最後まで堪能し、暑さもすっかり吹き飛んだ三人。
「あぁ〜、美味しかった! 密林の宝探し、大成功だね!」
「ええ、あおいのダイナミックなデコイのおかげね」
あおいが満足そうにお腹を叩くと、まひろも手帳を閉じながら微笑んだ。
「みんな、今日の配信はどうだったかな〜? 美味しいトロピカルマンゴーに免じて、高評価とチャンネル登録、よろしくね〜!」
カメラに向かって手を振る三人と、麦わら帽子をピコピコ揺らすツノっち。
熱気あふれるジャングルの中で、涼やかな歓声とともに配信は無事に終了したのだった。




