第20話:夏休み突入! 即興サバイバル海鮮蒸しと熱砂塩釜焼き!
「うわあぁぁぁ……! 海だーーーっ!! 異世界の海だーーーっ!」
一学期が終わり、夏休み初日の朝。
部室のポータルを潜り抜けた途端、視界いっぱいに広がったのはどこまでも続くエメラルドグリーンの青い海と、どこまでも白い砂浜だった。
見上げれば、青空には黄金の太陽のような魔導結晶が輝き、涼やかな潮風が椰子の葉を揺らしている。
体操服のジャージを着たあおいは、素足で砂浜へ駆け出すと大はしゃぎで跳びはねた。
「あおい!気をつけなさいよ!」
「ふふ、あおいちゃん元気だね〜」
背後から呆れ顔のまひろと、温かい眼差しを向ける凛が続く。凛の足元では、麦わら帽子をちょこんと頭に乗せたツノっちが、砂の感触に「きゅ〜♪」と耳をピコピコ動かして喜んでいた。
「ポムドローン起動! 夏休み第1弾配信、スタートよ!
まひろの合図でドローンが上空へ舞い上がると、配信を心待ちにしていたリスナーたちが一斉となだれ込んできた。
>スライムニキ:夏休み初日配信助かる。いきなりロケーション最高かよ
>名無しの冒険者:うわあああ海だ! 水着……ではなく制服ラッシュガードたすかる
>ペンギン太郎:南国ロケーション良すぎる! 麦わらツノっちかわよ!!
>名無しの探索者:常夏砂浜か! 珍しい食材いっぱいありそう
「みんなお待たせ〜! 今日は前回の配信でリクエストが一番多かった、異世界の海に来てま〜す!」
あおいがカメラに向かって元気に手を振ると、まひろがタブレットを操作しながら、砂浜の奥にあるセーフキャンプへ案内した。
「まずはここに拠点を設営して、調理の準備を……」
凛が愛用のポータブルコンロと、各種調味料が詰まった調理ポーチを木製テーブルの上に置いた――まさに、次の瞬間だった。
――パシィンッ!!
「きゃっ!?」
頭上のヤシの木から影が勢いよく飛び出し、長いハサミがテーブルの上の調理ポーチを一瞬でひったくっていった!
「えっ……!? ああーっ! 凛ちゃんの料理道具が持ってかれたーーーっ!?」
あおいが叫びながら見上げると、高さ十数メートルはある巨大なヤシの木のてっぺんで、体長一・五メートルを超える巨大な蟹が金属パーツのついたポーチを大事そうにハサミで抱え込んでいた。
「あれは……『サンシャイン・ヤシガニ』ね! 光る金属を巣に持ち帰る習性があるのよ! でもなんで!? セーフキャンプの中なのに!?」
「た、確かに! なんで?!」
「うう……あの中には予備の調味料もコンロのパーツも全部入ってるのに〜……」
困り顔の凛を見て、あおいの目つきが一変した。
「凛ちゃんの大切な道具を奪うなんて許さない! 私が取り返してくる!!」
◆
「ちょっとあおい!? その木を登るなんて無理よ!」
「大丈夫、任せて!」
あおいは砂浜を強く蹴りつけた。
そのままアタッカーならではのずば抜けた身体能力と軽やかな足さばきで、垂直にそびえるヤシの木の幹をポン、ポン、とリズムよく駆け上がっていく。
>スライムニキ:うおっ!? あおいの身軽さ凄まじいな!?
>名無しの冒険者:パルクールみたいに木を登っていったぞwww
>名無しの探索者:あいつあんな動けたのかよ! さすがアタッカーだな!
「フシューーーッ!!」
樹上で待ち構えるサンシャイン・ヤシガニが、邪魔立てするあおいへ向けて巨大なハサミを振り下ろす。
だが、あおいはしなる椰子の枝を踏み台にして跳躍! 空中でくるりと一回転しながら、抜刀一閃――!
――シャキィンッ!
寸分狂わぬ太刀筋が、ヤシガニがハサミで掴んでいたポーチの紐だけを鮮やかに切り落とした!
「ナイスあおい! 凛、落ちてくるヤシガニを迎撃するわよ!」
「うん、任せて〜!」
ポーチを奪還されたヤシガニが、怒り狂って樹上から地上へドサリと飛び降りてくる。
すかさずまひろがタブレットを操作し魔法を発動させる。
「【フラッシュ】!」
――ピカァァァッ!!
「フシュ!?」
強烈な光に視界を奪われ、目が眩んだヤシガニが砂浜でよろめく。
その隙を見逃さず、凛が一気に距離を詰めた。
「え〜いっ!」
凛は大盾を力強く構え、砂浜を強く蹴って一気に踏み込んだ。
巨大なヤシガニへ向けて放たれた、渾身の盾タックル――!
――ガァンッッ!!
「フシュ〜〜っ!?」
凄まじい打撃衝撃に耐えきれず、バランスを大きく崩したヤシガニは「ゴロン!」と豪快に砂浜の上で仰向けにひっくり返った。
足をバタバタとさせて大慌てするヤシガニの胸元に、無防備な柔らかいお腹が露出する。
「上からの急降下斬りーーーっ!」
樹上から急降下してきたあおいの一撃が、無防備に晒されたヤシガニの急所へクリーンヒット!
南国の巨大モンスターは、一溜まりもなく沈黙した。
>スライムニキ:あおいの樹上パルクールからの、まひろの目くらまし、凛ちゃんの強烈盾タックル、あおいのトドメ……何だこの完璧すぎる連携www
>名無しの冒険者:今日の戦闘めちゃくちゃ躍動感あって凄かった!!
>エビハンター:ひっくり返ってジタバタしてるヤシガニちょっと可愛かったのに一瞬で倒されたww
◆
無事に調理ポーチを取り戻した三人。
しかし、落ちてきた衝撃でポータブルコンロの安全装置が作動し、一時的に火がつかなくなってしまうアクシデントが発生していた。
「うう……せっかくカニを捕まえたのに、これじゃ炙り焼きもオーブン料理もできないよ〜……」
あおいが落ち込むと、コメント欄にも「せっかくの海鮮が……」「調理器具全滅か?」と心配の声が流れる。
だが、凛は落ち着いた様子で周囲の砂浜を観察していた。
ふと、波打ち際から少し離れた砂浜の一角から、モワモワと温かい湯気が立ち上っているのを発見する。
「う〜ん。この環境ならなんとかなるかも!」
「えっ? ほんとに……?」
凛が指さしたのは、温泉の地熱が湧き出ている熱々の「熱砂エリア」だった。
「今日は即興サバイバル料理! 『サンシャイン・ヤシガニの熱砂塩釜焼き』を作るよ〜!」
凛の手際鮮やかなサバイバル調理が始まった。
まず、あおいが倒したヤシガニの太い脚肉と、溢れんばかりの濃厚な甲羅味噌を切り分ける。
それを自生する巨大な香草の葉(大葉)で幾重にも丁寧に包み込み、旨味と水分を閉じ込める。
次に、汲みたてのきれいな海水と、砂浜で採取した天然の塩結晶をたっぷりと混ぜ合わせた湿った塩砂で、葉っぱの包みを隙間なく分厚く覆い固めた。
「あとは、この熱々の熱砂の中に埋めて……じっくり待つだけ!」
地熱の砂の中に塩釜の包みを深々と埋め、待つこと数十分。
熱砂から掘り出された塩釜は、カチカチに固まっていた。
凛がナイフの背でコンコンと叩くと、パカッと綺麗なヒビが入る。
固まった塩の殻を割り、中の葉っぱの包みを開いた瞬間――
――『フワァァァァ……ジュワァァァ……』
閉じ込められていた鮮烈な海の香りと、香草の爽やかなアロマ、そして熟成された海鮮の濃厚な湯気が一気に溢れ出した!
「うわあぁぁぁ……! すごい湯気……! 道具を使ってないのに、めちゃくちゃ美味しそう!!」
炭火焼きとは異なり、水分が一切逃げていないプリプリの白い脚肉。
そして甲羅の中では、海水塩と自身の水分でしっとりと蒸し上がった極上の蟹味噌が濃厚な黄金色に輝いている。
さらに凛は、採取しておいた巨大ココナッツの頭をナイフでスパッと切り落とし、氷結晶で冷やした『冷やしココナッツジュース』を添えた。
「はい出来上がり! 『ヤシガニの熱砂塩釜蒸し』と『冷やしココナッツジュース』だよ〜!」
「いただきまーす!」
あおいは熱々の脚肉を手に取り、頬張った。
――『ムギュッ……ジュワァァ〜』
「んんん〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!! なにこれ、お肉がふっくらフワフワで、噛むたびにジュワッと濃厚な甘い汁が溢れてくるよ〜〜〜っ! 天然の塩味がきいてて最高に美味しいっ!」
続いて、スプーンで甲羅の中の蒸し味噌をすくい取って口へ。
――『ハフ……トロ〜リ』
「ん〜〜〜っ! 味噌が濃厚すぎてトロけちゃう……! 葉っぱの香りがほんのり移ってて、全然しつこくないよ〜〜〜っ!」
仕上げに、冷えたココナッツジュースをストローでゴクリ。
――『スーッ……ゴクッ』
「あぁ〜〜〜! すっきり甘くて爽やか! 熱々の塩蒸しに最高の組み合わせだよ〜〜〜っ!」
アクシデントからの即興サバイバル極上飯に、コメント欄は驚きと大絶賛の嵐となった。
>スライムニキ:道具が使えないトラブルからの熱砂塩釜焼きか! 凛ちゃんのシェフとしての対応力が凄すぎる
>名無しの冒険者:葉っぱ開けた瞬間の湯気と照りで飯テロ殺傷力高すぎるwww
>エビハンター:塩蒸しにすることで身の水分が全く逃げてないの天才かよ
>腹ペコ通りすがり:熱々カニ肉からの冷やしココナッツジュースは反則!!
>名無しの探索者:サバイバルなのにいつものごはんより豪華に見えるの草
「ふふ、道具がなくても美味しくできて良かった〜」
「ほんと、凛の機転には助けられたわね」
まひろも感心しながら塩蒸し肉を味わい、三人はお腹いっぱいに南国の味覚を堪能した。
◆
配信は大盛況のうちに終了。
美しい夕日を眺めながら、三人は波打ち際に腰を下ろしていた。
ツノっちも熱砂で一緒に蒸した柔らかい異世界芋をモグモグと食べ、満足そうに「きゅ〜」と長耳を寝かせている。
「ふぅ〜! 一時はどうなるかと思ったけど、すっっっごく楽しかったね!」
「ええ。あおいの木登りパルクールにはヒヤヒヤさせられたけどね」
「あはは、でも大切な道具を取り戻せて良かったよ〜」
夕暮れの心地よい潮風があおいたちの頬を撫でる。
「さあ、夏休みはまだまだ始まったばかりよ。次はどんな食材を狙いに行こうかしらね」
「うん! 次の冒険もすっごく楽しみ!」
波の音とひぐらしのような虫の音を聞きながら、三人は冷たい麦茶で静かに乾杯を交わした。
最高のトラブルと、最高の絶品サバイバル飯で幕を開けた夏休み。三人の賑やかな冒険は、まだまだ続いていくのだった。




