第19話:質問コーナーとかしないの? リスナーのひとことで急遽開催!
「つ〜い〜に〜〜〜っ! 夏休みだーーーーーっ!!!」
一学期の終業式が終わった放課後。
ジリジリと強烈な日差しが照りつける夏の夕方、部室の冷房の風を全身で受け止めながら、あおいはソファーの上で大はしゃぎしていた。
「あおい、暴れると暑くなるわよ。はい、冷たいお茶」
「ありがとまひろ! はぁ〜、明日から毎回ダンジョンに行けると思うとワクワクが止まらないよ〜!」
まひろから受け取った麦茶をゴクゴクと飲み干し、あおいは満足そうに息を吐く。
パイプ椅子に腰掛けた凛も、冷感シートの上で長い耳をパタパタさせながら「きゅ〜……」と気持ちよさそうに寛いでいるツノっちの頭を優しく撫でながら、ふわりと微笑んだ。
「ふふ、あおいちゃん、夏休みの予定を立てる前にまず配信を繋ごうか〜。みんなも待ってるだろうし」
「あ、そうだった! ポムドローン、起動!」
あおいの合図でポムドローンが宙へ飛び立ち、夏休み直前の雑談配信がスタートした。
「みんな〜! ついに一学期終了! 明日から待ちに待った夏休みだよ〜〜〜っ!」
あおいが元気よくカメラに手を振ると、待機していたリスナーたちが一斉になだれ込んできた。
画面横のコメント欄は目にも留まらぬ速さでスクロールし、同時接続数は数万の単位をあっさりと叩き出している。
初期の同接3人時代からは到底考えられない、文字通り桁外れの熱気だ。
>スライムニキ:一学期お疲れ。まずは赤点回避で無事に夏休みを迎えられて何よりだわ
>名無しの冒険者:夏休みキターーー!! 配信頻度増える!?
>アイス食べたい:同接えぐwwwwコメント早すぎて読めねぇwww
>ペンギン太郎:夏休みどこに行く予定なん?
「ふふ、夏休みにどこに行くかは今みんなで相談中なんだ〜!」
「中層の新しいエリアも解放されたから、狙いたい珍しい食材が山ほどあるのよね」
三人が楽しそうに夏休みの冒険プランを語り合っていると、激しく流れるコメント欄の中にふと流れた書き込みをまひろが拾い上げた。
>名無しの冒険者:そういえばこのチャンネル、質問コーナーとかやらないの?
「ん? 質問コーナー?」
あおいが首をかしげると、リスナーたちが一気にその話題に飛びついた。
>スライムニキ:確かに。ここ最近で増えた新規の数もかなりなんてレベルじゃないし、一度やっておいてもいいかもな
>腹ペコ通りすがり:最近見始めたばかりだから三人のこともっと知りたい!
>エビハンター:質問コーナー見たい!!
「なるほどね……」
まひろはあごに手を当て、手元のタブレットを確認しながら頷いた。
「確かに、登録者数が一気に増えて、ちゃんとお話しする機会もなかったわね。よし、急だけど今日は『第1回・異世界ごはん配信部 質問コーナー』に切り替えましょう!」
「おおーっ! 質問コーナー! なんでも聞いて聞いて〜!」
◆
というわけで、急遽スタートしたリアルタイム質問コーナー。
まひろが弾丸のように流れるコメント欄から質問をピックアップし、三人が答えていくスタイルで進行していく。
「じゃあ、まずは一番多かったこの質問からね」
【Q1.「そもそもなんでこの部活を始めたの?」】
「それはね!」
あおいは胸を張って、ドヤ顔でカメラを指さした。
「異世界で集めた珍しい食材で、美味しいご飯を作って食べたくて! でね、『その様子をリアルタイムで配信したら絶対ウケるし楽しいはず!』って私が二人に熱弁したのが始まりなんだよ!」
「そうね。私は最初『そんなに甘くない』って反対したんだけど……あおいの勢いに押し切られて、気づいたらストッパー役に収まってたわ」
まひろが深いため息をつくと、コメント欄に笑いが巻き起こる。
>スライムニキ:あおいの謎の自信と食い意地から始まったチャンネルだったな
>名無しの冒険者:まひろちゃんのストッパー苦労が忍ばれるwww
>初期勢:最初は同接3人だったのに遠くまで来たもんだ……
「ふふ、でもあおいちゃんのおかげで、毎回すごく美味しいご飯が食べられて楽しいよ〜」
凛が優しくフォローすると、あおいは「でしょ〜! 凛ちゃん大好き!」と抱きついた。
続いての質問へ。
【Q2.「部室にいる謎の生き物は何?」】
「きゅ〜?」
名前を呼ばれたと感じたのか、額から立派な一本角を生やしたモフモフのウサギ――アルミラージのツノっちがトコトコと歩み寄り、カメラのレンズにぽてっと鼻先を押し当てた。
「この子はツノっち! ダンジョンで出会ったアルミラージだよ〜!」
あおいはツノっちを優しく抱き上げると、その首元につけられた小さな金属製のタグをカメラに見せた。
「見て見て! 首に『無害認定タグ』がついてるでしょ? 特別飼育許可を貰ってるから、こうやって部室にも出てこれるんだよ〜!」
「手続きと申請書類はものすごく面倒だったけどね……」
>スライムニキ:ちゃんと無害タグついてるな。行政の手続きをきっちり通すまひろの有能さよ
>もふもふ好き:ツノっち今日もかわよ!! 耳がピコピコ動いてる!
>名無しの探索者:アルミラージのペット登録って認可降りるの厳しいのにすごいな
そして、探索者リスナーからもよく来る質問へ。
【Q3.「高校生がダンジョンで配信して大丈夫なの?」】
「あ、それは全然大丈夫だよ!」
あおいが元気に答える。
「うちの高校は『ダンジョン部活特区』に指定されてて、部室に専用ポータルがあるんだ! 門限の18時までに帰ってくればOKっていうルールなんだよ」
「補足すると、政府の安全管理基準でダンジョン内の活動はカメラ記録が義務付けられているの。それをどうせ記録するなら、あおいの提案通り『リアルタイム配信』として公開しちゃおうってことになったのよ」
>名無しの冒険者:義務録画を飯テロ配信に昇華させたあおいの慧眼
>スライムニキ:おかげで俺たちが毎回飯テロで腹を空かせることになったわけだ
◆
リスナーからの質問にテンポよく答えていき、配信は大いに盛り上がる。
そんな中、部室のキッチンへ向かっていた凛が「みんな〜、質問コーナーのお供に冷たいおやつ持ってきたよ〜」と声をかけた。
「わぁーっ! おやつ! 凛ちゃん何作ったの!?」
凛がトレイに乗せて運んできたのは、見た目にも涼やかなガラスの器。
「『氷結晶ミカンと異世界ハニーの冷やしパフェ』だよ〜。」
中層『氷結洞窟』の天然氷結晶で急速冷凍された、鮮やかなオレンジ色の異世界ミカン。
その下にはシャリシャリの氷果と特製ホワイトヨーグルトが層をなし、仕上げにトロ〜りとした黄金色の異世界ハニーが惜しげもなく回しかけられている。
「うわぁぁぁ……! キラキラしててめっちゃ綺麗……!」
「冷たすぎるとお腹を壊しちゃうから、はちみつとヨーグルトでまろやかにしてみたの」
あおいは早速スプーンを取り、シャリッと凍ったミカンとヨーグルト、はちみつを贅沢にすくい取って口に運んだ。
――『サクッ……シャリッ……トロ〜リ』
マイクが拾った極上の咀嚼音が、配信画面の向こうへ響き渡る。
「んんん〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!! シャリシャリで冷たくて甘酸っぱい……! 噛むたびにミカンのジューシーな果汁がじゅわっと溢れて、ハチミツのコクと最高に合うよ〜〜〜っ!」
続いて、まひろも一口。
――『シャリッ……トロン』
「ん……っ! すごい、身体の中から一気にひんやり涼しくなっていくわ……! ホワイトヨーグルトの酸味が爽やかで、後味がすごくさっぱりしてる!」
突然始まった至高のひんやりスイーツASMRに、コメント欄は瞬く間に熱を帯びた。
>名無しの冒険者:質問コーナー見てたら突然のひんやり飯テロきたたたたた!!
>スライムニキ:氷結晶ミカンのシャリシャリ音ヤバすぎるだろ。耳が幸せだわ
>甘党代表:真夏の夕方にこれは反則!! 今すぐコンビニ走ってくる!!
>氷結クラスタ:前回のグラタンといい、飯テロがすぎる
>腹ペコ通りすがり:質問回答も面白かったのに結局飯テロで締められるの最高www
「ふふ、喜んでもらえてよかった〜」
満足そうに微笑む凛の横で、あおいは最後のひとすくいまで残さず綺麗に平らげた。
◆
「ふぅ〜! 美味しかったー!」
美味しい冷やしパフェで身体も心も満たされたところで、配信もいよいよ終わりの時間。
「というわけで! 急遽開催した第1回質問コーナー、みんな楽しんでくれたかな〜!?」
「みんなのおかげで、私たちのことをもっと知ってもらえたみたいで良かったわ」
あおいがカメラに向かってニッコリと微笑み、告知を挟む。
「最後に! 明日からの夏休み配信に向けて、みんなから『異世界で食べてほしい食材』のリクエストを大募集しまーす! チャット欄やコメントにどんどん書いてね!」
告知を出した瞬間、ただでさえ速いコメント欄がさらに加速し、文字の濁流となった。
>名無しの冒険者:巨大な異世界フルーツ食べまくってほしい!
>エビハンター:海のダンジョンで巨大魚介類イカせてくれ!
>スライムニキ:夏といえばBBQだろ。極上のお肉期待してるぞ
>ペンギン太郎:南国風のトロピカルエリアとか行ってほしい!
「わあぁ! たくさんのリクエストありがとー! 全部メモして夏休みの狩りの参考にさせてもらうね!」
あおいはポンと手を叩き、最高の笑顔で締めくくった。
「それじゃあみんな、チャンネル登録と高評価よろしくね! 明日からの夏休み大冒険配信もお楽しみに〜! バイバーイ!」
配信を終了し、ポムドローンがスリープモードに入る。
「ふぅ……急な質問コーナーだったけど、すごく盛り上がったわね」
「うん! リスナーのみんなとたくさん話せて楽しかった〜!」
あおいと凛が顔を見合わせて笑い合い、まひろも安心したように笑みをこぼす。
窓の外では、夕暮れの赤紫色の空にひぐらしの鳴き声が静かに響いていた。
いよいよ明日から始まる、高校生活初めての特別な夏休み。
まだ見ぬ異世界の絶品食材と、最高のごはんを求めて――三人の最高の夏休みが、今幕を開けようとしていた。




