第18話:現実とダンジョンの寒暖差!? 極寒の氷結洞窟で味わう、アツアツ濃厚フロストロブスターグラタン!
「やったーーーーーっ! 赤点回避ーーーっ!」
蒸し暑いセミの鳴き声が窓越しに響く夏の部室。
エアコンの風が直撃するソファーの上で、あおいは返却されたばかりの期末テストの答案用紙を両手で高く掲げた。
英語:38点。数学Ⅱ:35点。
赤点ラインの30点をギリギリでクリアした見事な(?)勝利である。
「はぁ……本当ヒヤヒヤさせないでよ。でもまあ、二人とも補習は回避できたから良しとするわ」
「ふふ、あおいちゃん頑張ったもんね〜。お疲れ様!」
パイプ椅子に腰掛けたまひろがホッとため息をつき、キッチンから冷たい麦茶を持ってきた凛が柔らかく微笑む。
フローリングのひんやりした場所を探して「ふにゅ〜……」と腹ばいになって伸びていたツノっちも、嬉しそうにしっぽをパタパタと振った。
「というわけで! 約束通り、期末テストが終わったご褒美に『とっておきの旬の食材』を狩りに行くわよ」
まひろがタブレットを操作し、部室の大型モニターに一つの映像を映し出す。
画面に広がるのは、神秘的な青い氷結晶に包まれた洞窟。そして、そこに生息する透き通った青白い巨大なエビの姿だった。
「中層『氷結洞窟』にしか現れない幻の高級食材……『フロストロブスター(氷霜魔エビ)』よ。市場に出回れば一匹数万円は下らないわ」
「えっ、エビ……!? しかも数万円の高級エビ!? 食べる! 絶対食べる!!」
あおいは勢いよくソファーから立ち上がると、目を輝かせて拳を握りしめた。
◆
――ズウゥン……。
部室の奥に設置されたポータルを潜り抜け、光の渦を抜けた瞬間。
「ッ~~~~~~~!?? 寒っっっ!!???」
全身を襲った凄まじい極寒の冷気に、あおいは思わず悲鳴を上げた。
目の前に広がるのは、天井から巨大なつららが垂れ下がり、足元まで青い氷で覆われた完全なる氷の世界。
ついさっきまで30度超えの蒸し暑い真夏の環境にいたのに、ここは一転して氷点下の極寒の地だった。
「あおい、ボサっとしてないで早くコートを着なさい! カゼ引くわよ!」
「ううう、寒寒寒っ! 外は真夏なのにダンジョンの中は真冬じゃん!」
半袖の夏服制服の上に、準備していた厚手のコートを羽織り、マフラーを首に巻きつける。
凛もモコモコのコートを羽織りながら、白い息を吐いて「すごい寒暖差だね〜」と息を弾ませた。
まひろがポムドローンを起動し、いつもの挨拶とともに配信を開始する。
「みんなー! 外は猛暑日だけど、私たちは極寒の氷結洞窟に来てま〜す!」
あおいが震えながらカメラに手を振ると、テスト明けの配信を待っていたリスナーたちから一気にコメントが流れ込んできた。
>スライムニキ:赤点回避おめ。安心したわ
>氷結クラスタ:うわ画面越しでも寒そうなの伝わってくるww
>名無しの探索者:猛暑日にこの涼しい画面助かる〜!!
「今日のターゲットは、この氷の中にいる『フロストロブスター』だよ! みんな、応援よろしくね!」
「あおい、マナセンサーに強い氷属魔力の反応があるわ」
まひろが正面の壁を指さす。
そこには周囲の氷と同化し、光学迷彩のように息をひそめる体長一メートルほどの巨大なエビの姿があった。
「うわ、本当だ! 完全にかくれんぼしてる……! 逃がさないよ、覚悟ーっ!」
あおいは愛用の日本刀を勢いよく抜き放つと、氷床を蹴って肉薄。
光学迷彩で潜むフロストロブスターの背甲へ向けて、上段から一閃――!
――キンッッ!!
甲高い金属音が洞窟内に響き渡り、手元に強烈な痺れが走る。
「痛たたたたっ!? 硬っ!! 刃が全然通らない!?」
あおいの先制攻撃を分厚い氷の甲殻で弾き返したフロストロブスターは、激怒したように触角をピンと跳ね上げた。
「フシューーーッ!!」
怒り狂った威嚇音とともに透明なクリスタルのような巨大ハサミを振り上げ、口から極寒の冷気ブレスを吹き出して襲いかかってくる!
「させないよ〜!」
――ガンンッッ!!
鋭い衝撃音が洞窟内に響き渡る。
すかさず前に滑り込んだ凛が、身の丈ほどもある重厚な大盾を構えて冷気ブレスとハサミの突進を完璧に受け止めていた。
「慌てないで、あおい! 攻撃を引きつけて! 胸の関節部分が唯一の弱点よ!」
「了解! こっちだよー!!」
あおいは痺れる手を振り払い、両手を大きくぶんぶんと振り回しながら、ツルツル滑る氷の上でダイナミックに左右へジャンプやステップを踏み替えた。
派手な全身運動で、自分を斬りつけてきたあおいを眼敵にするフロストロブスターの複眼へ強烈な視覚アピールを叩き込む!
「ほらほらこっち!」
完全に頭に血が上ったフロストロブスターが、目障りなあおいへ向けて巨体を向け、巨大なハサミをガチリと大きく振りかぶった――まさにその瞬間。
「……そこっ!」
凛は大盾でハサミの攻撃をガツンと弾き返すと、腰のホルダーから愛用の解体用ナイフを一瞬で抜き放った。
トン! と吸い込まれるように刃先が走る。
凛の一撃必殺の解体ナイフ裁き。
胸の関節の隙間を寸分狂わず正確に突かれたフロストロブスターは、ハサミを上げたまま一瞬で力を失い、氷の上にゴロンと転がった。
>スライムニキ:あおいの斬撃すら弾く甲殻を一発で刺し貫く凛ちゃんの解体術よ
>名無しの冒険者:凛ちゃんのナイフ捌きがプロすぎるwww
>エビハンター:一瞬で締めやがった!? 身に傷をつけない完璧な狩りだ……
>名無しの探索者:弾かれてからのあおいの全力シャカシャカダンスデコイ効きまくってて草
「ふふ、締め完了だよ〜。身に傷もついてないし、最高の状態で食べられそうだね」
「さすが凛ちゃん! 完璧なタンク&解体スキルだ……!」
見事な手際で超高級食材ゲットを果たした三人は、凍える身体を寄せ合いながら、洞窟内のセーフキャンプ(安全地帯)へと移動した。
◆
「うう……じっとしてると指先が凍りそう……!」
「ふふ、じゃあ身体の芯から温まるアツアツのごはんを作っちゃうね〜」
凛がポータブルコンロと小型オーブンを取り出し、手際よく調理を開始する。
まずはゲットしたばかりのフロストロブスターの太い尾から、殻をパキッと剥ぎ取る。
現れたのは、まるで宝石のように透き通ったプリップリの白い生肉だ。
凛特製の濃厚ホワイトソースを小鍋で温め、そこに大ぶりにぶつ切りしたエビの身をたっぷり投入。
さらに耐熱皿へ移し、上からたっぷりのチーズを惜しげもなく盛り付ける。
それをオーブンで焼き上げ、仕上げにガスバーナーで表面を炙り上げると――
――『ジュワァァァァ……パチパチ……』
こんがり狐色の香ばしい焦げ目がつき、濃厚なチーズとホワイトソースがグツグツと泡を立てる。
同時に、エビの甘いアロマと香ばしい乳製品の香りが極寒の空気に広がった。
「はい、出来上がり! 『フロストロブスターの濃厚とろ〜りグラタン』と、余った甲羅とエビ味噌で出汁を取った『甲羅スープ』だよ〜」
運ばれてきたのは、湯気がもうもうと立ち上る至高のグラタン。
横には、香ばしく炙られた甲羅から濃厚な海老味噌の出汁がグツグツと音を立てるスープが添えられている。
「美味しそう〜〜〜っ! いただきまーす!」
あおいはスプーンを入れ、とろ〜り伸びるチーズとプリプリのエビをすくい上げた。
ふーふーと息を吹きかけ、一口で頬張る。
――『ジュワッ……トロッ』
「ハフハフ、んんん〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!! あたたかい……っ! そして美味しすぎるよ〜〜〜っ!」
弾力のあるエビの身に歯を立てた瞬間、口の中で『プリッ』とはじけ、噛むたびに濃密なエビの甘い肉汁が溢れ出す。
そこに濃厚でコクのあるホワイトソースと、カリッと香ばしいチーズの塩気が絡み合い、極上のハーモニーを奏でた。
続いて、熱々の甲羅スープをゴクリと飲む。
――『ズズッ……スーッ……』
「うあぁぁ……味噌が濃厚……! 体の隅々まで熱が巡っていく感じがする……!」
コメント欄も画面越しの飯テロに大炎上状態だ。
>スライムニキ:極寒環境で食べるアツアツグラタンという企画の勝利。同接伸びるのも納得だわ
>名無しの冒険者:うわあああ真夏の極寒グラタン反則すぎる!!!
>エビハンター:エビの身がプリップリでデカい!!
>腹ペコ通りすがり:チーズの焦げ目の音で白飯食えるwww
>名無しのリスナー:寒そうなところで食う熱々グラタンとか最高の贅沢だな
>エアコン全開丸:今すぐエアコンガンガンにしてグラタン食べたい
「ふふ、二人とも、火傷しないように気をつけて食べてね〜」
「凛のおかげで完全に復活したわ……! 氷の洞窟で食べる熱々グラタン、癖になりそう!」
あおいとまひろは夢中でスプーンを動かし、極寒のダンジョンの中で身体も心もポカポカに満たされていった。
◆
配信は大盛況のうちに終了し、同接数も過去最高レベルを記録。
大満足のまま部室のポータルをくぐり抜け、現実世界へと帰還した三人だったが――
「ふはぁ〜〜〜! 暑っっっ!!」
ポータルを抜けた途端、夏の夕方の湿気とムワッとした熱気が全身を包み込んだ。
「あはは、さっきまでマフラー巻いてたのに、戻ってきたら汗が出てきちゃうね〜」
「ほんと寒暖差で頭がおかしくなりそう……! でも、すっごく楽しかった!」
コートを脱ぎ捨ててソファーに倒れ込んだあおいは、冷房の風を全身で浴びながら清々しい笑顔を浮かべた。
テストという大きな試練を乗り越え、いよいよ目前に迫る夏休みと、まだ見ぬ絶品ダンジョン飯への期待に胸を躍らせながら、三人は冷たい麦茶で静かに乾杯するのだった。




