第17話:「本日の配信はここまで〜!」……からの、赤点回避!? 恐怖の期末テスト勉強会!
「というわけで、本日の配信はここまで〜! バイバーイ!」
あおいがポムドローンのカメラに向かって元気に手を振ると、宙に浮くカメラのランプがパチッと消え、配信がオフラインになった。
シトラスドードーの配信から数週間。
『異世界ごはん配信部』のチャンネルは着実にファンを増やし続け、今日もセーフキャンプからの野外飯配信は大盛況のうちに幕を閉じたところだった。
「ふぁ〜〜! 今日も楽しかったねー! 同接も安定して5万人を超えてたし、コメントもいっぱいだったよ!」
「ふふ、特製のハーブスープも好評で良かったね〜」
部室へと戻ったあおいと凛は、ポータブル機材を片付けながらソファーへとドサリと倒れ込み、達成感いっぱいの笑顔を浮かべる。
しかし、そんな二人の平和な空気を切り裂くように、カタッと冷たい音が響いた。
視線を向けると、部室の大型テーブルでタブレットを操作していたまひろが、メガネのブリッジをクイッと指で押し上げ、冷徹な視線をこちらに向けていた。
「二人とも、配信の成功を噛み締めているところ水を差すようで悪いけれど……来週から何が始まるか、まさか忘れていないわね?」
「え? 来週……? えーっと、何か美味しい異世界食材の旬とか……?」
「違うわよ。『期末テスト』よ」
ビシッ、とまひろの指が指し示したカレンダーの赤丸。
その瞬間、あおいと凛の表情が凍りついた。
「き、期末……テスト……!?」
「我が私立白鳳高校の規律は厳しいの。一科目でも赤点を取れば、『2週間みっちり補習を受けることになって、その間は部活動に出られなくなる』……つまり、部室のポータル使用も、ダンジョンでの食材調達も、異世界ごはん配信も、全て二週間禁止よ」
「「えぇーーーーッ!???」」
部室に悲鳴が響き渡った。
「そ、そんなの嫌だーーっ! 2週間も部活に出られなくて配信お休みしたら、リスナーのみんなに忘れられちゃうし、何より美味しいダンジョン飯が食べられないなんて生殺しだよ〜〜っ!」
「あおい、落ち着きなさい。……と言いたいところだけど、あなたの前回の小テストの点数を考慮すると、特に『英語』と『数Ⅱ』は赤点危険域よ」
まひろがタブレットに表示させたあおいの過去の点数グラフは、見事なまでに右肩下がりを描いていた。
「まひろ先生ぇぇぇっ! 助けてくださいっ! 何でもしますからっ!!」
「……はぁ。最初からそのつもりよ。幸い、明日は土曜日。学校に使用申請を出しておいたから、部室で『赤点回避・集中勉強会』を開催するわ!」
◆
明けて土曜日。部室の大型テーブルは、勉強部屋へと早変わりしていた。
私服姿で集まった三人の前には、積み上げられた教科書、問題集、そしてノート。
学年トップクラスの頭脳を持つまひろの容赦ない指導のもと、あおいと凛の猛勉強が始まった。
「いい、あおい。この公式はただ暗記するんじゃなくて、展開のプロセスを理解するの。もう一回問3を解き直しなさい。凛、問4間違えてる。」
「あれぇ〜?」
「ううう……数字とアルファベットが頭の中でダンスしてるよぉ……」
カチカチと時計の針が刻まれ、あっという間にお昼の時間。
ペンを置いたあおいは、そのままテーブルの上に突っ伏した。
頭のてっぺんからプシューと煙が吹き出しそうな顔をしている。
「む、無理……脳みそがパンクする……! 限界だよまひろ……糖分と……食べ物を……」
「ふふ、じゃあここらで一回お昼休憩にしようか〜」
あおいの苦しみようを見かねた凛が、パッと立ち上がって部室の簡易キッチンへと向かった。
「凛ちゃん……? 何か作ってくれるの……?」
「うん。勉強で疲れた頭をすっきりさせる、特製の『ブレインフードごはん』を作るね〜」
凛が取り出したのは、前回の配信の仕込みで使った『シトラスドードー』のガラからじっくり取っておいた特製黄金出汁。
そしてダンジョンで採集した爽やかな香りのハーブ類だ。
小鍋が出汁の優しい香りを漂わせ始め、コンロからはお米の香ばしい匂いが立ち上る。
「はい、お待たせ〜! 『シトラス出汁の極上ハーブスープ』と『焼きカリカリハーブおにぎり』だよ〜」
テーブルに運ばれてきたのは、湯気がふわりと舞い上がるスープと香ばしいおにぎりだった。
透き通った黄金色のスープからは柑橘の爽やかな香気と出汁の深みが混ざり合った至高の湯気が立ち上り、丸く握られたおにぎりは表面がこんがり醤油色に焼けて、刻まれたハーブが黄金色に散りばめられている。
「うわぁぁぁ……! すごく良い匂い……!」
あおいはスプーンを取り、熱々のスープをすくって口へと運んだ。
――『ゴクッ……スーッ……』
「んんん〜〜〜〜っっっ!! 出汁が……出汁が五臓六腑に染み渡るよ〜〜〜っ!」
一口飲んだ瞬間、あおいの顔にじんわりと血色が戻っていく。
ベースとなっている鳥ガラの濃厚な旨味が口いっぱいに広がるのに、後味にはシトラスとハーブの清涼感が抜け、重たさを一切感じさせない。
温かいスープが疲れた体にじんわりと染み込んでいく。
「おにぎりも食べてみてね〜」
言われるがまま、カリカリに焼き上げられたおにぎりにかぶりつく。
――『パキッ……ジュワッ』
「香ばしい! 表面の醤油とハーブがカリカリしてて、中のお米はモチモチ! 噛むたびに脳がシャキッと目覚めていく感じがするよ!」
「シトラスの香気成分には交感神経を刺激して集中力を高める効果があるわ。スープで胃を温めつつ、おにぎりの炭水化物で速やかに脳へブドウ糖を補給する……。まさに完璧な『ブレインフード』ね」
まひろもスープを上品に味わいながら、感心したように頷いた。
◆
「うおおおーーーーっ! 閃いた! この問題、解ける! 解けるぞーーーっ!」
ご飯パワーで脳が完全に復活したあおいの数字を書くペン先が、猛烈な速度でノートの上を走る。
「よし、全問正解。素晴らしいわあおい、この調子で明日も集中できれば赤点補習どころか平均点以上も狙えるわね」
「やったーーーーっ! 凛ちゃんのごはんのおかげだーっ!」
「ふふ、お役に立てて良かったよ〜」
勉強資料を鞄に仕舞いながら、あおいは大きく背伸びをした。
「よーし! 期末テストをサクッと乗り越えて、テストが終わったらまたパーッと美味しいものを狩りに行こうね!」
「ええ。テストが終わる頃には、中層の『氷結洞窟』エリアにしか生息しない超高級食材のシーズンが入るわ。すでに下調べは済んでいるわよ」
「氷結洞窟の高級食材……!? 絶対に食べたい!!」
やる気に満ち溢れたあおいの宣言に、凛とまひろも笑みをこぼす。
テストという高校生最大の試練を前に、『異世界ごはん配信部』の絆と、美味しさへの情熱はますます高まっていくのだった。




