wellcome episodo 003 記録の選択
手帳を手にしながら春乃の世界は、変わった。正確には"変わってしまっていた"としか表現できないのかもしれない。
周囲の風景は一見いつも通りに見えて、微妙に違っている。
地下鉄の案内アナウンスが、【オメホ線スシタス方面行】に変わっていた。
テレビのニュースキャスターがどこかぎこちない言葉で報道を読み上げている。春乃の周囲だけが、『一歩だけ未来』に進んでしまったのか、別の地域に移動したのかと考えさせられてしまう感覚。
春乃は手帳のページに綴られた事件を見た。事故、天災、未然に防ぐことができたものも、ある。その一つ一つに、メモ主の感想みたいなものが、添えられていた。
「これを書いた、だから大丈夫だった」「書いたけど誰にも信じてもらえなかった、だから起きた」「伝えた、変化があった、けど、それが正解だったのだろうか・・・」
ページの余白には、筆跡の乱れたメモ跡も残されていた。
『未来は定まっていない、見えるものは"起こりうる線"』
『告げた時点で、分岐する、だから書いて残すしかない』
誰かに宛てたものでもない、その言葉に、春乃の胸に鋭く突き刺さった。
その時SNSの通知音が鳴った。鮫代 和が生前に使っていたアカウントが、何者かによって再起動されていた。
新しい投稿されたその一文には日付と場所か記されていた。
"6月22日午後4時 S市第三ダム 設備誤作動による決壊危機"
春乃は、手帳を握りしめた。次は水関係の予告・・・。信じるか信じないか、いや、いや、もう、"行動するか・否か"だった。




