↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承者は忘れていく ~才無しと蔑まれた狩人は、敵を狩るたび最強に近づき、大切な記憶をひとつずつ失っていく~  作者: あおあお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/154

第45話「規制線」


遺構へ行く、と決めた矢先に、ギルドから通達が出た。


『遺構区画は、本日より、ギルド管理下に置く。無許可の探索を、禁ずる。探索権は、入札によりこれを付与する』


規制線が引かれた。


表向きの理由は、「安全管理」だった。素人が殺到して死者が続出している以上、無制限の開放は危険だ、という理屈。それ自体は正しい。誰も、反論できない。


だが、その運用は――巧妙な締め出しだった。


「入札制だと」


ヴァンネスが、通達を睨んだ。


「探索権を金で競らせる。高い札を入れた隊から、優先で遺構に入れる。……一見、公平だ。だがな、この方式で、一番得をするのは誰だ?」


「……金を、一番持ってる奴」と、コッツが答えた。


「そうだ。商会だよ」


ヴァンネスは、吐き捨てた。


「バルドー商会は、傘下に、いくつも探索隊を抱えてる。専属契約の隊だ。その隊に、いくらでも札を積ませられる。……つまり、この入札制は、遺構を、商会の独占にするための仕掛けだ」


そして、〈鉄樹〉には金がなかった。


兵糧攻めで、隊の蓄えは、底を尽きかけていた。小口の依頼で、食い繋いではいるが、入札に積める金などない。


「うまく、できてやがる」とガロが唸った。「地震で遺構が開いた。ラッシュで街が浮かれた。すかさず、ギルドが規制をかけて入札制にした。……この流れ、速すぎねえか? まるで、遺構が開くのを待ち構えてたみたいだ」


待ち構えていた。


その言葉に、俺は、じいさんの予言を思い出した。


大穴の下で、近く、大きな星が動く。地が揺れ、道が変わり、閉じていた場所が開く。


じいさんは、知っていた。遺構が開くことを。


では――商会は?


グレム・バルドーの、去り際の言葉。「この街の大穴は、これから、大きく変わる。近いうちにね」


あの老人も、知っていたのだ。遺構が開くことを。開く前から。


じいさんと、商会。二人ともこの日を知っていた。


偶然が、また一つ、重なった。


◇


入札の日、俺たちは、ギルドの入札所に顔を出した。


参加するためではない。参加できないことを、確かめるためだった。


入札所は、金の匂いで、むせ返っていた。


壇上で、係の男が、区画の番号を読み上げる。


「――遺構第三区画、東翼! 初値、金貨十枚から!」


「十五!」「二十!」「二十五枚!」


声が、飛び交う。金貨十枚といえば、鉄級の隊の年の稼ぎだ。それが、挨拶代わりの初値で飛ぶ。二十五で決まりかけた、その時、会場の隅から、退屈そうな声がした。


「四十」


会場が、静まった。値を付けたのは、商会の紋を着けた男。競っていた独立系の隊のリーダーが、拳を握り、俯き、そして札を下ろした。勝負ではなかった。財布の底の深さが、違いすぎた。


「第三区画東翼、金貨四十枚! 〈黒曜〉隊!」


拍手も、ため息もなかった。ただ、次の区画の読み上げが、始まった。同じことの繰り返しだった。独立系が値を吊り上げ、最後に商会系が、退屈そうに、上から札を置く。競りの形をした、独占だった。


名だたる隊が、札を入れていく。その大半が、商会傘下の専属隊だった。彼らは桁違いの札を、ためらいなく積んだ。自分の金ではないからだ。商会の金で、商会のために、遺構の権利を、買い占めていく。


その中に、見覚えのある顔が、あった。


かつて、俺たちと同じ、中堅の隊だった〈灰鷹〉。半年前までは、ギルドの酒場で、対等に杯を交わした連中だ。その〈灰鷹〉が今、商会の紋の入った、真新しい装備を着て、専属隊の列に並んでいた。


目が、合った。


〈灰鷹〉のリーダーは、一瞬、気まずそうに目を逸らした。それから、開き直ったように、俺に近づいてきた。


「……〈鉄樹〉さんよ。悪く思うな。うちも、食っていかなきゃならねえんだ。専属は、確かに手綱付きだ。だが、飢えて自由でいるより、縛られて、腹一杯のほうが……ましなときも、あるのさ」


弁解のような言葉だった。俺は、責めなかった。責められる立場ではなかった。妹の療養費を抱えるミレアも、子供たちを抱えるコッツも、あと一歩、違えば、〈灰鷹〉と、同じ選択を、していたかもしれない。


上座に、番頭のドレンがいた。綿の声の男は、札の集計を涼しい顔でながめていた。俺たちに気づくと、あくまで丁寧に頭を下げた。


「これは、〈鉄樹〉の皆さま。……入札に、参加なさいますか?」


その声には、答えを分かった上での、余裕があった。


「見物に来ただけだ」とガロが言った。


「左様でございますか」ドレンは、微笑んだ。「残念です。皆さまほどの腕をお持ちの隊が、遺構の恩恵に、あずかれないとは。……ああ、そういえば」


番頭は、思い出したように、付け足した。


「当会の専属になられていれば、今頃、遺構の最前列でしたのに。……人生の岐路というものは、後になって、初めて、その大きさが分かるものですなあ」


綿にくるまれた、明確な当てこすりだった。


コッツが、拳を握るのが、えた。俺は、その肩、手を置いた。


「ドレン、だったか」と俺は言った。「一つ、訊いていいか」


「なんなりと」


「あんたたちは、いつから、遺構が開くのを、知ってた?」


ドレンの、綿の笑みが――一瞬、ほんの一瞬だけ止まった。


「……はて。何のことでしょう。地震は、天災でございます。予知などできるはずも」


「そうか」と俺は言った。「なら、いい。ただ、あんたたちの動きが、あまりに速いんでな。地震の翌日には、もう入札制の準備ができてた。……天災の後始末にしては、手回しが良すぎる。まるで、台本があったみたいに」


ドレンは、笑みを、貼り直した。だが、その目の奥に、初めて、値踏み以外の色が差した。


警戒だ。


この番頭は、俺を、ただの「筋の通った、扱いにくい冒険者」だと思っていた。だが今、そこに、別の疑いが、加わった。こいつは、何か気づいているのではないか、という疑い。


「……〈鉄樹〉の狩人殿は、面白い想像をなさる」


ドレンは、静かに言った。声から、綿が、少し、剥がれていた。


「ですが、想像は、想像。証拠のない想像を、口になさるのは……危のうございますよ。この街では、特に」


それは初めての、あからさまな脅しだった。


◇


入札所を出て、俺たちは、しばらく無言で歩いた。


「……リゲル」と、ガロが、低く言った。「おまえ、何を掴んでる」


俺は、迷った。


じいさんのこと。器の喩え。予言。星座。全部が、繋がりかけている。だが、その中心に、じいさんが――俺に生き方をくれた、あの人がいる。それを、口にすることが、俺にはまだできなかった。


「……まだ、何も」と、俺は言った。「ただの、嫌な予感だ」


嘘ではなかった。だが、全部でも、なかった。


俺はまた、大事なことを、隊に「言わない」ことを、選んでいた。


守るためか。それとも、認めたくないためか。


自分でも、分からなかった。


第45話更新です!


のちに次話も更新します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。