第4話 再会
人は毎日会っていると、その存在を当たり前だと思う。
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だが少し離れると気づく。
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その人がいたこと。
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その人がいた時間。
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その人がいた空間。
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それらは決して当たり前ではなかったのだと。
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十月初旬。
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秋の風が街を歩いている。
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夏の名残はもうほとんどない。
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朝晩は上着が必要になる日も増えていた。
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あすかは仕事を終え、
駅前を歩いていた。
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空は少し早く暗くなる。
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季節が進んでいる。
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そのことを以前より自然に受け入れている自分がいた。
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信号待ち。
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ふと視線を上げる。
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向こう側の歩道に人影が見えた。
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見覚えがある。
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だが、すぐには分からない。
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街の中で見ると印象が違う。
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店の照明もない。
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カウンターもない。
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静かな音楽もない。
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ただ街の風景の中にいる。
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そして気づく。
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朝比奈だった。
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あすかは少し驚く。
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朝比奈も気づいたらしい。
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目が合う。
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ほんの一瞬。
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そして軽く会釈する。
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店で見るのと同じ動作。
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だが場所が違うだけで、
まるで別人のように見えた。
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信号が青になる。
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人の流れが動き出す。
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朝比奈はこちら側へ渡ってきた。
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近づいてくる。
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しかし急がない。
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焦らない。
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いつも通りの歩き方だった。
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「こんばんは」
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先に声をかけたのは朝比奈だった。
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「こんばんは」
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あすかも返す。
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数秒の沈黙。
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不思議な沈黙だった。
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店の中では自然なのに、
街の中では少しだけぎこちない。
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朝比奈が言う。
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「仕事帰りですか」
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「はい」
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「お疲れさまです」
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「ありがとうございます」
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短い会話。
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それだけ。
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それなのに、
どこか新鮮だった。
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朝比奈は店の中だけの人ではなかった。
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当然のことなのに、
今さら気づいた。
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この人にも生活がある。
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仕事がある。
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休日がある。
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店へ来ない時間がある。
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そういう当たり前のことが、
急に現実味を持った。
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朝比奈は少し空を見上げる。
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「秋になりましたね」
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あすかも空を見る。
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街灯の向こう。
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夜空は高かった。
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「そうですね」
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それだけ答える。
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だが今回は会話が終わらない。
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朝比奈が続ける。
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「夏が長かった気がします」
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あすかは少し考える。
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そして小さく笑った。
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「私もそう思います」
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その笑顔は、
自分でも驚くほど自然だった。
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朝比奈は少しだけ目を細める。
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笑ったようにも見えた。
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けれど大きくは変わらない。
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その静けさが、この人らしいと思った。
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再び短い沈黙。
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しかし今度は気まずくなかった。
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朝比奈が言う。
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「店に行くんですか」
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「はい」
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「私もです」
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それだけだった。
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二人は並んで歩き始める。
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距離は少し空いている。
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肩が触れることもない。
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無理に会話を続けることもない。
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それでも。
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同じ方向へ歩いている。
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それだけで十分だった。
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あすかは気づく。
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この人を見ても、
悠真を思い出さなくなっている。
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比較もしない。
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代わりとも思わない。
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朝比奈は朝比奈だった。
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それ以上でも、
それ以下でもない。
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その事実が少しだけ嬉しかった。
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「人生の交差点」の灯りが見えてくる。
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マスターはきっと驚くだろう。
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そう思った瞬間、
あすかは少し笑っていた。
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いつ以来だろう。
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誰かと同じ方向へ歩くことを、
心地よいと思ったのは。
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夜風が静かに吹く。
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秋は確実に深まっている。
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そしてあすかの中でも、
何かが少しずつ変わり始めていた。
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それは恋ではない。
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まだ。
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けれど確かに、
再生の続きだった。
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(第8章 第5話「名前」へ続く)




