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あすかの幸せについて  作者: こうた
第8章 静かな再生

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第4話 再会

人は毎日会っていると、その存在を当たり前だと思う。



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だが少し離れると気づく。



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その人がいたこと。



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その人がいた時間。



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その人がいた空間。



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それらは決して当たり前ではなかったのだと。



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十月初旬。



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秋の風が街を歩いている。



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夏の名残はもうほとんどない。



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朝晩は上着が必要になる日も増えていた。



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あすかは仕事を終え、


駅前を歩いていた。



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空は少し早く暗くなる。



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季節が進んでいる。



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そのことを以前より自然に受け入れている自分がいた。



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信号待ち。



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ふと視線を上げる。



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向こう側の歩道に人影が見えた。



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見覚えがある。



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だが、すぐには分からない。



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街の中で見ると印象が違う。



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店の照明もない。



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カウンターもない。



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静かな音楽もない。



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ただ街の風景の中にいる。



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そして気づく。



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朝比奈だった。



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あすかは少し驚く。



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朝比奈も気づいたらしい。



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目が合う。



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ほんの一瞬。



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そして軽く会釈する。



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店で見るのと同じ動作。



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だが場所が違うだけで、


まるで別人のように見えた。



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信号が青になる。



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人の流れが動き出す。



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朝比奈はこちら側へ渡ってきた。



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近づいてくる。



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しかし急がない。



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焦らない。



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いつも通りの歩き方だった。



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「こんばんは」



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先に声をかけたのは朝比奈だった。



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「こんばんは」



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あすかも返す。



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数秒の沈黙。



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不思議な沈黙だった。



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店の中では自然なのに、


街の中では少しだけぎこちない。



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朝比奈が言う。



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「仕事帰りですか」



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「はい」



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「お疲れさまです」



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「ありがとうございます」



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短い会話。



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それだけ。



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それなのに、


どこか新鮮だった。



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朝比奈は店の中だけの人ではなかった。



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当然のことなのに、


今さら気づいた。



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この人にも生活がある。



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仕事がある。



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休日がある。



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店へ来ない時間がある。



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そういう当たり前のことが、


急に現実味を持った。



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朝比奈は少し空を見上げる。



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「秋になりましたね」



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あすかも空を見る。



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街灯の向こう。



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夜空は高かった。



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「そうですね」



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それだけ答える。



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だが今回は会話が終わらない。



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朝比奈が続ける。



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「夏が長かった気がします」



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あすかは少し考える。



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そして小さく笑った。



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「私もそう思います」



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その笑顔は、


自分でも驚くほど自然だった。



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朝比奈は少しだけ目を細める。



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笑ったようにも見えた。



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けれど大きくは変わらない。



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その静けさが、この人らしいと思った。



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再び短い沈黙。



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しかし今度は気まずくなかった。



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朝比奈が言う。



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「店に行くんですか」



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「はい」



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「私もです」



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それだけだった。



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二人は並んで歩き始める。



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距離は少し空いている。



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肩が触れることもない。



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無理に会話を続けることもない。



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それでも。



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同じ方向へ歩いている。



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それだけで十分だった。



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あすかは気づく。



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この人を見ても、


悠真を思い出さなくなっている。



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比較もしない。



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代わりとも思わない。



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朝比奈は朝比奈だった。



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それ以上でも、


それ以下でもない。



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その事実が少しだけ嬉しかった。



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「人生の交差点」の灯りが見えてくる。



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マスターはきっと驚くだろう。



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そう思った瞬間、


あすかは少し笑っていた。



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いつ以来だろう。



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誰かと同じ方向へ歩くことを、


心地よいと思ったのは。



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夜風が静かに吹く。



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秋は確実に深まっている。



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そしてあすかの中でも、


何かが少しずつ変わり始めていた。



---


それは恋ではない。



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まだ。



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けれど確かに、


再生の続きだった。



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(第8章 第5話「名前」へ続く)

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