表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第8章 静かな再生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/118

第2話 習慣

人は習慣によってできている。



---


毎朝同じ時間に起きること。



---


同じ道を歩くこと。



---


同じ店に立ち寄ること。



---


そうした小さな繰り返しが、気づかないうちに人生の輪郭を作っている。



---


あすかは、そのことをあまり意識したことがなかった。



---


九月下旬。



---


朝。



---


目覚ましが鳴る少し前に目が覚める。



---


カーテンの隙間から入る光。



---


以前と変わらない部屋。



---


以前と変わらない朝。



---


けれど、何かだけが違う気がした。



---


あすかは起き上がり、


窓を開ける。



---


少し冷たい風が入ってきた。



---


夏の終わり。



---


それを肌で感じる。



---


支度をして仕事へ向かう。



---


駅までの道。



---


見慣れた景色。



---


見慣れた人々。



---


いつも通り。



---


仕事も大きな変化はない。



---


忙しくもなく、


暇でもない。



---


ただ時間が流れていく。



---


以前なら。



---


仕事が終わる頃になると、


無意識にスマートフォンを見ていた。



---


悠真から連絡が来ていないか。



---


そんな確認を何度もしていた。



---


今は違う。



---


スマートフォンを見る回数が減った。



---


それは寂しさが消えたからではない。



---


必要がなくなったからだった。



---


昼休み。



---


同僚たちの会話を聞きながら昼食をとる。



---


以前より少しだけ耳に入る。



---


誰が何を話しているのか。



---


どんなことで笑っているのか。



---


そんなことを自然に認識している。



---


自分でも気づかないほど小さな変化だった。



---


仕事が終わる。



---


夕方。



---


駅前を歩く。



---


ふと本屋が目に入った。



---


立ち止まる。



---


しばらく考える。



---


そして店内へ入った。



---


特に理由はない。



---


ただ入ってみようと思っただけだった。



---


本棚の間を歩く。



---


小説。



---


エッセイ。



---


旅行雑誌。



---


さまざまな本が並んでいる。



---


あすかは一冊の文庫本を手に取る。



---


以前好きだった作家だった。



---


いつから読まなくなったのだろう。



---


思い出せない。



---


気づけば、その本を購入していた。



---


店を出る。



---


夕暮れの空。



---


秋の気配。



---


そして少しだけ軽い気持ち。



---


帰宅してもよかった。



---


だが足は自然と別の方向へ向く。



---


「人生の交差点」



---


いつもの灯り。



---


いつもの扉。



---


カラン。



---


「こんばんは」



---


マスターが言う。



---


「こんばんは」



---


あすかも返す。



---


席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


静かな時間。



---


昨夜と同じように入口を見る。



---


しかし今日は意識してやめた。



---


来るかもしれない。



---


来ないかもしれない。



---


それだけのことだ。



---


マスターが何気なく言う。



---


「今日は何かいいことあった?」



---


あすかは少し考える。



---


いいこと。



---


特別なことはない。



---


けれど。



---


「本を買いました」



---


そう答えていた。



---


マスターが少し笑う。



---


「それはいいね」



---


あすかも少しだけ笑う。



---


本当に少しだけ。



---


自分でも驚くほど自然に。



---


その時だった。



---


カラン。



---


扉が開く。



---


あすかは反射的に視線を向ける。



---


そして一瞬だけ動きを止めた。



---


朝比奈だった。



---


「こんばんは」



---


いつもと同じ声。



---


いつもと同じ会釈。



---


いつもと同じ静かな表情。



---


それなのに。



---


あすかはなぜか少しだけ安心している自分に気づく。



---


理由は分からない。



---


心配していたわけではない。



---


待っていたわけでもない。



---


けれど。



---


昨日空いていた席に、


今日は人がいる。



---


それだけのことだった。



---


朝比奈はいつもの席へ向かう。



---


マスターと短い会話を交わす。



---


そして静かにグラスを受け取る。



---


何も特別なことは起きない。



---


誰も大きな話をしない。



---


それでも。



---


あすかは思う。



---


習慣というものは、


案外悪くないのかもしれない。



---


同じ場所。



---


同じ時間。



---


同じ人たち。



---


その繰り返しの中で、


少しずつ人は生き返っていくのかもしれない。



---


窓の外では秋の風が吹いている。



---


そしてあすかの中でも、


静かな再生が始まっていた。



---


(第8章 第3話「夏の終わり」へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ