表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第7章 新たなる夏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/141

第4話 過去が終わる音

過去は、消えるのではなく「置き場所」を失う。



---


あすかはそのことを、少し遅れて理解することになった。



---


七月下旬。



---


夏は完全に街を支配している。



---


夜になっても空気は重く、熱が抜けない。



---


「人生の交差点」



---


夜。



---


扉を開ける。



---


カラン。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「今日は少し疲れてる顔だね」



---


あすかは少しだけ間を置く。



---


「暑さのせいかもしれません」



---


それだけだった。



---


席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


今日は冷たさが強い。



---


しかしそれは心地よさではなく、


“意識を保つための温度”だった。



---


悠真は来ない。



---


それはもう当たり前の事実として、空間に溶けている。



---


連絡もない。



---


その沈黙に、反応はない。



---


マスターは何も言わない。



---


ただグラスを拭いている。



---


その動作は、いつも通りで、変わらない。



---


しばらくして扉が開く。



---


カラン。



---


朝比奈 恒一だった。



---


彼は軽く会釈する。



---


「こんばんは」



---


あすかも返す。



---


「こんばんは」



---


今日はそれだけでは終わらなかった。



---


朝比奈は一瞬だけ立ち止まり、


マスターに視線を向ける。



---


「少しだけ聞いてもいいですか」



---


マスターは軽くうなずく。



---


「どうぞ」



---


朝比奈は言う。



---


「この店、昔からこういう感じなんですか」



---


マスターは少しだけ考える。



---


「昔は、もう少し人が多かったかな」



---


それだけだった。



---


あすかはその会話を静かに聞いている。



---


しかし、その中に違和感はない。



---


ただ、時間が少しだけ過去へ向いた気がした。



---


朝比奈は小さくうなずく。



---


「変わるものですね」



---


その言葉に、あすかは一瞬だけ視線を上げる。



---


変わるもの。



---


その言葉が、少しだけ引っかかる。



---


マスターは何も言わない。



---


ただグラスを拭いている。



---


時間が流れる。



---


朝比奈はいつも通り多くを話さない。



---


あすかも同じだ。



---


しかし今日は、ほんの少しだけ空気が違う。



---


“誰かが過去に触れた後の空気”。



---


やがて朝比奈は席を立つ。



---


「失礼します」



---


軽く会釈する。



---


扉へ向かう。



---


カラン。



---


その音が、いつもより少しだけ長く響いた気がした。



---


静けさが戻る。



---


マスターがぽつりと言う。



---


「さっきの話、どう思った?」



---


あすかは少し考える。



---


そして答える。



---


「変わるのは、当たり前なんだと思います」



---


マスターはうなずく。



---


「そうだね」



---


それだけだった。



---


あすかはグラスを見る。



---


過去は終わったわけではない。



---


ただ、もう現在にはいない。



---


その事実が、ゆっくりと形を持ち始めていた。



---


悠真は、もうどこにもいない。



---


そしてその空白に、


別の時間が入り始めている。



---


あすかはまだそれを「始まり」とは呼ばない。



---


ただ、“変化”として見ているだけだった。



---


(第7章 第5話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ