表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第6章 寂しさを思い出す春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/141

第12話 夏の入口に立つ

季節の入口は、いつも気づかれない。



---


ある日ふと、空気が変わっていることに気づく。



---


その時にはもう、前の季節は戻らない。



---


あすかはそれを、六月の終わりに感じていた。



---


六月末。



---


春は完全に終わり、街は夏の準備を終えつつあった。



---


夜でも湿度が高く、空気が重い。



---


「人生の交差点」



---


夜。



---


扉を開ける。



---


カラン。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「もう夏だね」



---


あすかは少しだけうなずく。



---


「はい」



---


それだけだった。



---


席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


今日は少しだけ冷たい味だった。



---


その冷たさは心地よさではなく、


“距離を保つための温度”に近かった。



---


悠真は来ない。



---


連絡もない。



---


それはもはや説明の必要がない状態になっている。



---


マスターは何も言わない。



---


ただグラスを拭いている。



---


その音が、店の中の静けさを保っている。



---


あすかは視線を落とす。



---


夏の入口に立つということは、


何かが始まるというより、


何かが終わっていたことに気づくことだった。



---


関係はまだ“存在している”ように見える。



---


しかし、その実態はもう曖昧だった。



---


グラスを飲む。



---


味は薄い。



---


それでも体はそれを受け入れる。



---


やがて店を出る時間になる。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「夏は、少しだけ人を変えるよ」



---


あすかは足を止める。



---


「変わるんでしょうか」



---


マスターは少しだけ考える。



---


そして答える。



---


「変わるというより、見え方が変わるだけかもしれないね」



---


あすかは小さくうなずく。



---


外に出る。



---


夜の空気は重い。



---


でもその重さは、どこか現実的だった。



---


駅までの道を歩く。



---


人は多い。



---


世界は動いている。



---


その中で、自分だけが少し遅れているように感じる。



---


スマートフォンは鳴らない。



---


その沈黙は、もはや違和感ではない。



---


電車が来る。



---


あすかは乗る。



---


扉が閉まる。



---


その瞬間、静かに理解する。



---


この春は、もう終わっている。



---


ただ、それに名前がついていなかっただけだった。



---


窓の外に夜が流れる。



---


あすかは思う。



---


終わりはいつも、


少し遅れて気づかれる。



---


そしてその遅れこそが、


人の寂しさなのかもしれない。



---


(第7章「新たなる夏」へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ