表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第6章 寂しさを思い出す春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/141

第4話 選ばれない時間

選ばれない時間は、拒絶よりも静かに心を削る。



---


何かを失ったと確定しないまま、


少しずつ輪郭だけが薄れていく。



---


あすかはそれを、日常の中で感じ始めていた。



---


四月中旬。



---


春の気温は安定し始めている。



---


それでも夜は、まだ少しだけ冷たい。



---


「人生の交差点」



---


夜。



---


扉を開ける。



---


カラン。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「最近、来る時間ばらばらだね」



---


あすかは少しだけ間を置く。



---


「そうですね」



---


それ以上の説明はしない。



---


必要もない気がしていた。



---


席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


今日は少しだけ濃い味だった。



---


ただしそれは“濃さ”ではなく、


意図的に作られた重さに近い。



---


悠真は来ない。



---


来る予定もない。



---


そのことが、もう当たり前になっている。



---


あすかはスマートフォンを見ない。



---


見る意味がないのではなく、


見ることで何かが変わる段階を過ぎている。



---


マスターは何も言わない。



---


ただグラスを拭いている。



---


その音が少しだけ規則的に聞こえる。



---


あすかは視線を落とす。



---


選ばれない時間。



---


それは拒絶ではない。



---


ただ優先順位から外れているだけ。



---


その事実が一番静かに痛い。



---


誰かに「終わり」と言われる方がまだ楽だ。



---


今はそれすらない。



---


ただ、少しずつ薄くなる。



---


あすかはグラスに手を伸ばす。



---


一口飲む。



---


苦味が強い。



---


でもその苦味は、今の気持ちに近い。



---


やがて店を出る時間になる。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「春は、いろいろ変わるね」



---


あすかは少しだけ笑う。



---


「変わりすぎかもしれないです」



---


マスターは何も言わない。



---


ただその言葉を受け止めるようにうなずく。



---


外に出る。



---


夜の風はやわらかい。



---


でもそのやわらかさは、今のあすかには少しだけ残酷だった。



---


駅までの道。



---


人は多い。



---


春の夜は明るい。



---


それなのに、自分の中だけが少しだけ暗い。



---


電車の音が近づく。



---


スマートフォンが震える。



---


あすかは一度だけ見る。



---


短い通知。



---


「今は少し余裕がない」



---


それだけ。



---


あすかは画面を閉じる。



---


驚きはない。



---


でも、確かな変化だった。



---


“余裕がない”という言葉は、


距離の別名だ。



---


電車が来る。



---


光が差し込む。



---


あすかは乗る。



---


扉が閉まる。



---


春の街が遠ざかる。



---


でも、距離はそれだけではない。



---


あすかは思う。



---


選ばれない時間は、


関係の終わりではない。



---


しかし、関係の形は確実に変わっている。



---


その変化を、


まだ名前にできていないだけだった。



---


(第6章 第5話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ