表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第6章 寂しさを思い出す春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/141

第3話 沈黙の更新

沈黙にも、種類がある。



---


ただ何も起きていない沈黙と、


何かが変わった後の沈黙は違う。



---


あすかはそれを、はっきり感じ始めていた。



---


四月の初め。



---


街は完全に春の色へ移っていた。



---


桜は満開に近いのに、


その景色が少しだけ遠く感じる。



---


「人生の交差点」



---


夜。



---


扉を開ける。



---


カラン。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「今日は一人?」



---


あすかは少しだけ間を置く。



---


「はい」



---


その一言が、以前より重く感じられた。



---


席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


今日は少しだけ温度がある。



---


でも、それは安心ではなく、


“配慮された温度”のようだった。



---


悠真は来ない。



---


そして今日も、連絡はない。



---


いや、正確には“来なくなった”わけではない。



---


ただ、頻度が変わった。



---


あすかはスマートフォンを見ない。



---


見ても意味がないことを、少しずつ理解していた。



---


マスターは何も言わない。



---


ただグラスを拭いている。



---


その動作が、少しだけゆっくりに見える。



---


あすかは視線を落とす。



---


沈黙が長い。



---


しかしその沈黙はもう空白ではない。



---


“更新された状態”だった。



---


何かが終わったわけではない。



---


でも、以前のままでもない。



---


扉は開かない。



---


誰も来ない。



---


それでも時間は流れている。



---


やがてあすかは気づく。



---


「待つ」という行為が、


もう意味を持たなくなっている。



---


待っていないのではない。



---


ただ、“待つ対象”が曖昧になっている。



---


それが一番静かな変化だった。



---


グラスを飲み干す。



---


少しだけ苦い。



---


でもそれが現実の味に近い気がした。



---


店を出る時間になる。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「春だね」



---


あすかは少しだけ笑う。



---


「そうですね」



---


外に出る。



---


春の夜風はやわらかい。



---


でもそのやわらかさが、少しだけ痛い。



---


駅までの道を歩く。



---


いつも通りの道。



---


でも“いつも通り”という言葉が、


もう成立しなくなり始めている。



---


電車の音が遠くで聞こえる。



---


人の流れがある。



---


世界は変わっていない。



---


ただ、自分の位置だけが変わった。



---


あすかは思う。



---


関係は消えていない。



---


ただ、更新された。



---


そして更新されたものは、


以前と同じには戻らない。



---


スマートフォンが震える。



---


今度は見た。



---


短いメッセージ。



---


「少し落ち着いたら連絡する」



---


あすかは画面を閉じる。



---


それ以上は何もない。



---


でもそれで十分だった。



---


もう“何かを待つ関係”ではない。



---


“変わっていく途中の関係”になっている。



---


春の空気は静かに流れていく。



---


そしてあすかは、


その変化をまだ受け止めきれていなかった。



---


(第6章 第4話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ