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あすかの幸せについて  作者: こうた
第5章 まだどこにも行けなかった冬

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第4話 新年の静けさ

年が変わったからといって、世界は急には変わらない。



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ただ数字だけが書き換わる。



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あすかはそのことを、少しだけ実感していた。



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一月。



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新しい年の空気は、思っていたより静かだった。



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街はまだ年末の余韻を引きずっている。



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正月気分と日常の間に、薄い膜のような時間があった。



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あすかは仕事始めの帰り道、


冷たい風の中を歩いていた。



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吐く息は白い。



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その白さが、少しだけ新しい気持ちに見える。



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「人生の交差点」



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夜。



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扉を開ける。



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カラン。



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マスターは軽くうなずく。



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「新年だね」



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あすかは小さく頭を下げる。



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「今年もよろしくお願いします」



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マスターは少し笑う。



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「こちらこそ」



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席に座る。



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グラスが置かれる。



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今日はいつもより少し澄んだ味だった。



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新しい年の始まりのような味。



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悠真はまだ来ていない。



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遅れる連絡はあった。



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それでも心は乱れない。



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そのことが、少しだけ不思議だった。



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扉が開く。



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カラン。



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悠真だった。



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「明けましておめでとう」



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「おめでとうございます」



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いつものやり取りが、


少しだけ特別に聞こえる。



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座る。



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沈黙。



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でもそれは新しい沈黙だった。



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過去の延長ではない。



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少しだけリセットされた時間。



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悠真が言う。



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「年越したな」



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あすかはうなずく。



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「そうですね」



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それだけで十分だった。



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特別な会話はない。



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でも特別な空気はあった。



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悠真が続ける。



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「今年どうなるんだろうな」



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あすかは少し考える。



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未来はまだぼんやりしている。



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でも以前より怖くはない。



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あすかは言う。



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「分からないです」



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少し間。



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「でも、今までよりは落ち着いてる気がします」



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悠真は小さく笑う。



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「それで十分かもな」



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マスターは何も言わない。



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ただ静かにグラスを拭く。



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帰り道。



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冬の夜は澄んでいる。



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空気が冷たく、よく通る。



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二人は並んで歩く。



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距離は変わらない。



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でもその距離に意味はある。



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悠真が言う。



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「去年とは違うな」



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あすかは横を見る。



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「違いますね」



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何が違うのかははっきり言えない。



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でも確かに違う。



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駅が見える。



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別れ際。



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悠真が少しだけ間を置く。



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そして言う。



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「今年もよろしく」



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あすかは少しだけ笑う。



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「こちらこそ」



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改札を抜ける背中。



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その背中はもう迷っていない。



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でも完全な答えにもなっていない。



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あすかは思う。



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新年は始まりではなく、


ただの続きなのかもしれない。



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それでも、


その“続き”があることが大事だった。



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冬の静けさの中で、


二人の関係はまた一歩進んでいた。



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第5章 第5話へ続く

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