表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第5章 まだどこにも行けなかった冬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/141

第1話 雪の降らない街

冬は来ているのに、雪はまだ降らなかった。



---


ただ寒さだけが先に積もっていく。



---


十二月下旬。



---


年末の空気が街に混ざり始めていた。



---


あすかは仕事帰り、コートのポケットに手を入れて歩いていた。



---


吐く息は白い。



---


それを見るたびに、季節の変化を実感する。



---


「人生の交差点」



---


扉を開ける。



---


カラン。



---


マスターはいつものように軽くうなずく。



---


「もう年末だね」



---


あすかは小さく笑う。



---


「ほんとですね」



---


席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


今日は少しだけ温かい香りがした。



---


外の寒さを中和するような味だった。



---


悠真はまだ来ていない。



---


でもそれはもう不安ではない。



---


“遅れて来るもの”として定着している。



---


扉が開く。



---


カラン。



---


悠真だった。



---


「寒いな」



---


「ほんとですね」



---


いつもの短い会話。



---


座る。



---


沈黙。



---


でもその沈黙はもう怖くない。



---


ただの“間”だった。



---


悠真が言う。



---


「今年ももう終わるな」



---


あすかはうなずく。



---


「早かったですね」



---


時間の感覚は、少しだけ歪んでいる。



---


長かったようでもあり、


短かったようでもある。



---


悠真が続ける。



---


「結局さ」



---


あすかは顔を上げる。



---


「ちゃんと形にはなってない気がする」



---


あすかは少しだけ息を止める。



---


その言葉は否定ではなかった。



---


事実の確認のようだった。



---


あすかは静かに言う。



---


「でも、なくなってもいないです」



---


悠真は少しだけ笑う。



---


「それが一番中途半端だよな」



---


その言葉に、あすかも小さく笑う。



---


否定はできなかった。



---


帰り道。



---


外は一段と冷たい。



---


街灯が少し滲んで見える。



---


二人は並んで歩く。



---


距離は安定している。



---


でもその安定は、


完成ではなく保留だった。



---


駅が見える。



---


悠真が言う。



---


「このまま年越すの、不思議だな」



---


あすかは少し考える。



---


「でも、悪くはないです」



---


その言葉に偽りはなかった。



---


悪くない。



---


でも完璧でもない。



---


その間にいる。



---


駅に着く。



---


別れ際。



---


いつもより少しだけ長い沈黙。



---


それでも焦りはない。



---


悠真が言う。



---


「また来年な」



---


あすかはうなずく。



---


「はい」



---


改札を抜ける背中は、


もう遠くない。



---


でも完全には届かない。



---


その距離が、


今の関係のままだった。



---


あすかは思う。



---


まだどこにも行けていない。



---


でもそれは、


止まっているのではなく、


進み方を探している状態なのかもしれない。



---


冬の夜は静かに深くなる。



---


そして二人の時間は、


まだ終わらないまま続いていた。



---


第5章 第2話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ