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あすかの幸せについて  作者: こうた
第4章 寂しさを思い出す秋

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第8話 揺れる確信

確信は、突然訪れるものではない。



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気づいた時には、少し前からそこにあったものだと分かる。



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あすかはそれを、ゆっくり理解し始めていた。



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「名前のない関係」のまま数日が過ぎた。



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会う頻度は少しずつ安定してきた。



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無理に増やすこともなく、


無理に減らすこともない。



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それが今の二人の距離だった。



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「人生の交差点」



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夜。



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あすかはカウンターに座っていた。



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カラン。



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扉が開く。



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マスターは一度だけ目を上げる。



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「今日は少し落ち着いてるね」



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あすかはうなずく。



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「そう見えますか」



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「見える」



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短い会話。



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それでも心は少し軽い。



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悠真はまだ来ていない。



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でも今日は不安ではなかった。



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来ることが分かっているからではない。



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“来ても来なくても崩れない”と少し思えたからだった。



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その変化が小さく怖い。



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依存が薄れているようにも感じる。



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でもそれは悪いことではない気もした。



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扉が開く。



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カラン。



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悠真だった。



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目が合う。



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軽く笑う。



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「遅れた」



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「大丈夫です」



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いつものやり取り。



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でも以前より自然だった。



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座る。



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沈黙。



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それはもう重さではなく、


間になっている。



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悠真が言う。



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「最近さ」



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あすかは顔を上げる。



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「落ち着いてきた気がする」



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あすかは少し考える。



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「そうですね」



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確かにそうだった。



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不安は減った。



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でもそれと同時に、


熱も少しずつ落ち着いている。



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そのことに気づく。



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悠真が続ける。



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「これっていいことなのかな」



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その問いは曖昧だった。



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あすかはすぐに答えられない。



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恋が落ち着くことは、


良いことなのか。



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それとも、


終わりに近づいているということなのか。



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マスターは何も言わない。



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ただ静かにグラスを拭いている。



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あすかはゆっくり言う。



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「分からないです」



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「でも……前よりは怖くないです」



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その言葉に悠真は少しだけ目を細める。



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「俺もかもしれない」



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短い沈黙。



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でもそこに妙な安心があった。



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帰り道。



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並んで歩く。



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距離は近い。



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でも以前のような揺れは少ない。



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安定しているようで、


どこか不思議な感じがする。



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駅が見える。



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悠真が言う。



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「落ち着くのってさ」



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あすかは顔を向ける。



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「いいことなんだろうけど」



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言葉が止まる。



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そして続ける。



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「ちょっと寂しいな」



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あすかは少しだけ息を止める。



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同じことを感じていた。



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不安が減ると、


同時に何かが薄くなる。



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熱のようなもの。



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衝動のようなもの。



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あすかはゆっくり言う。



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「でも、これが“続く”ってことなのかもしれないです」



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悠真はうなずく。



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「そうかもな」



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駅に着く。



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別れ際。



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以前よりも自然に別れられる。



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でも少しだけ立ち止まる時間がある。



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それが“揺れ”だった。



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改札を抜ける背中を見ながら、


あすかは思う。



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確信はまだ形になっていない。



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でも確実にそこに向かっている。



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恋は熱だけでは続かない。



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でも静けさだけでも続かない。



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その間にあるもの。



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それを二人は今、


探している途中だった。



---


秋の夜は深くなる。



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そして確信は、


まだ揺れたままそこにあった。



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第4章 第9話「境界線の温度」へ続く

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