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あすかの幸せについて  作者: こうた
第4章 寂しさを思い出す秋

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第6話 選び直す関係

関係は、一度決めたら終わりではない。



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むしろそこからが本当の始まりだと、あすかは後になって知ることになる。



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川沿いで「好き」という言葉を交わしてから三日。



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世界は何も劇的には変わっていない。



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仕事も変わらない。



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季節も大きくは動かない。



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それでも、あすかの中だけは確実に変わっていた。



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悠真からの連絡は増えた。



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しかし以前のような軽さではない。



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『また話したい』



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『今週どこかで会える?』



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言葉が少しだけ丁寧になっている。



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距離がゼロになったわけではない。



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むしろ、


“どう近づくか”を考えている距離だった。



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あすかはその変化に戸惑っていた。



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嬉しい。



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でも同時に不安でもある。



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「人生の交差点」



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夜。



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あすかは店にいた。



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カラン。



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扉が開く。



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マスターは少しだけ笑う。



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「今日は落ち着いてるね」



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あすかはうなずく。



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「少しだけ」



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グラスが置かれる。



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以前よりも穏やかな味だった。



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不思議と心に馴染む。



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悠真はまだ来ていない。



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でも今日はそれが怖くない。



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来ると分かっているからだった。



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待つという感覚が変わっていた。



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“来るかどうか”ではなく、


“どう来るか”に変わっている。



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扉が開く。



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カラン。



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悠真だった。



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目が合う。



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少しだけ笑う。



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前より自然な笑顔だった。



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「待った?」



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「いえ」



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二人は座る。



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沈黙はある。



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でも重くはない。



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むしろ、少しだけ柔らかい。



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悠真が言う。



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「ちゃんと考えたんだけどさ」



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あすかは顔を上げる。



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「うん」



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「このまま曖昧に戻るのは違うと思う」



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あすかは息を吸う。



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その言葉は、もう怖くなかった。



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「私もそう思います」



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静かに返す。



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悠真は少しだけうなずく。



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そして続ける。



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「でも、急に全部変えるのも違う気がする」



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あすかは少し考える。



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確かにそうだった。



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白か黒かではない。



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恋はいつもその間にある。



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悠真が言う。



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「だから、選び直さない?」



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あすかは瞬きをする。



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「選び直す……」



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その言葉は新しかった。



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終わらせるでもなく、


始めるでもない。



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今の関係を一度置いて、


もう一度形を決める。



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あすかはゆっくりうなずく。



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「いいと思います」



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その瞬間、


空気が少しだけ変わる。



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緊張でもなく、


安心でもなく、


“進む前の静けさ”。



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マスターは何も言わない。



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ただ静かにグラスを拭いている。



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それが祝福のようにも見えた。



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帰り道。



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二人は並んで歩く。



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以前より距離は近い。



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でもまだ触れない距離。



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その距離が心地よかった。



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悠真が言う。



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「正直、怖いけどな」



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あすかは少し笑う。



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「私もです」



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正直な言葉だった。



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でもそれでいいと思えた。



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怖いまま進んでもいい。



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そう思えたのは初めてだった。



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駅が見える。



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別れ際。



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悠真が言う。



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「ちゃんとやり直そう」



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あすかは少しだけ間を置く。



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そして答える。



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「はい」



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それはもう曖昧な返事ではなかった。



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改札を抜ける悠真の背中は、


以前よりも近く感じた。



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でもまだ完全には触れない。



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その距離が、


今の二人の答えだった。



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夜風が少しだけ柔らかい。



---


秋は深まり始めている。



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そして二人の関係もまた、


形を変えながら進み始めていた。



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第4章 第7話「名前のない関係」へ続く

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