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あすかの幸せについて  作者: こうた
第4章 寂しさを思い出す秋

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第5話 言葉になる瞬間

言葉になる瞬間は、いつも静かに訪れる。



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ドラマのような決定的な音はない。



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ただ、空気が少しだけ変わる。



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それだけだった。



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翌日。



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あすかは待ち合わせ場所へ向かっていた。



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駅前の通り。



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秋の風が頬をかすめる。



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空は薄く晴れている。



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昨日とは違う空だった。



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「人生の交差点」で会うのではなく、


今日は外で会うことになっていた。



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悠真の提案だった。



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『少し歩こう』



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その一言だけだった。



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意味は分からない。



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でも断らなかった。



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むしろ、少しだけ救われた気がした。



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店の中ではなく、


外で話すということ。



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それは区切りのようでもあり、


始まりのようでもあった。



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待ち合わせ場所。



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悠真はすでに来ていた。



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少しだけ風に髪が揺れている。



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「おはよう」



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「おはようございます」



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いつもより自然な声だった。



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歩き出す。



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目的地は決まっていない。



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ただ並んで歩く。



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駅前から少し離れる。



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人通りが減っていく。



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会話はすぐには始まらない。



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でも沈黙は重くなかった。



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不思議だった。



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昨日までの苦しさが少し薄れている。



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悠真が言う。



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「ここまで来ると落ち着くな」



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あすかはうなずく。



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「そうですね」



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川沿いの道だった。



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水の音がかすかに聞こえる。



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秋の光が反射している。



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悠真は立ち止まる。



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あすかも止まる。



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少し風が強い。



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「昨日の話なんだけど」



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その言葉に心臓が少しだけ動く。



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逃げない。



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そう決めていた。



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「はい」



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悠真はゆっくり言葉を探す。



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「やっぱり、曖昧なままは違うと思った」



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あすかは黙る。



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「でも、終わらせたいわけじゃない」



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その言葉は静かだった。



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でもはっきりしていた。



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あすかは視線を落とす。



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分かっている。



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曖昧なままでは続かない。



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でも終わらせたくない。



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それは同じだった。



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悠真が続ける。



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「ちゃんと向き合いたい」



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風が一瞬強くなる。



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その言葉が胸に落ちる。



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向き合う。



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それは逃げないということ。



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そして、


決めるということでもある。



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あすかは息を吸う。



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そしてゆっくり言う。



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「私も……向き合いたいです」



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声は震えていなかった。



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不思議だった。



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怖いはずなのに、


どこか静かだった。



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悠真は少しだけ笑う。



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「じゃあ、聞くけど」



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間。



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あすかはうなずく。



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悠真は言う。



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「俺のこと、どう思ってる?」



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その瞬間。



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時間が止まる。



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川の音だけが続く。



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頭の中が一瞬空白になる。



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でも逃げない。



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逃げたくない。



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あすかはゆっくり顔を上げる。



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そして言葉を選ばないまま、


そのまま口にする。



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「好きです」



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静かだった。



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驚くほど。



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叫びでもなく、


告白でもなく、


ただ事実のように。



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言葉が落ちた瞬間、


空気が変わる。



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悠真は少し目を見開く。



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でもすぐに逸らさない。



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沈黙。



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長く感じる沈黙。



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そして悠真は小さく息を吐く。



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「そっか」



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それだけだった。



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その一言に、


すべてが詰まっているようだった。



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拒絶ではない。



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受け入れでもない。



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でも無視でもない。



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あすかは少しだけ震える。



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でも目は逸らさない。



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悠真が続ける。



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「俺も」



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その言葉は短かった。



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でも重かった。



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心臓が跳ねる。



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「多分、同じだと思う」



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風が止む。



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世界が少しだけ静かになる。



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言葉になった瞬間、


曖昧だったものが形を持つ。



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でもそれはまだ、


始まりでも終わりでもなかった。



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ただ一つだけ確かなのは、


二人が同じ場所に立っているということだった。



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悠真が言う。



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「これからどうするか、だよな」



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あすかはうなずく。



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「はい」



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その声はもう迷っていなかった。



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川の流れは変わらない。



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でも二人の時間は、


確かに動き始めていた。



---


秋の空は高い。



---


そして少しだけ遠い。



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それでも二人は、


同じ方向を見ていた。



---


第4章 第6話「選び直す関係」へ続く

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