第10話 定義された日々
人はいつからそれを「幸せ」と呼ぶのか。
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失ったあとか。
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手に入れたあとか。
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それとも、気づいたときか。
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十二月。
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街は少しだけ急ぎ始めていた。
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年末の空気。
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冷たい風。
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あすかは「人生の交差点」に立っている。
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カラン。
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扉が開く。
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顔を上げる。
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朝比奈だった。
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もう、特別な驚きはない。
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ただ、自然にそこにいる。
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「こんばんは」
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「こんばんは」
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それが日常の形になっていた。
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朝比奈は席に座る。
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グラスが置かれる。
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沈黙。
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それはもう、沈黙ではなかった。
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共有されている時間だった。
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朝比奈が言う。
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「一年、早かったですね」
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あすかは少しだけ考える。
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「そうですね」
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朝比奈は続ける。
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「いろいろありましたけど」
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あすかは静かにうなずく。
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喪失。
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再生。
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出会い。
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選択。
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それらはもう過去の出来事ではなく、
一本の線になっていた。
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あすかは言う。
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「でも、悪くなかったです」
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朝比奈は少し笑う。
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「僕もです」
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沈黙。
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外では冬の風が吹いている。
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でも店の中は静かだった。
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あすかは思う。
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幸せは、
大きな出来事ではなかった。
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気づけばそこにあるものだった。
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劇的ではない。
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輝いてもいない。
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でも確かに、
失いたくないと思えるもの。
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それが今のすべてだった。
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朝比奈が立ち上がる。
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「帰ります」
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あすかはうなずく。
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「はい」
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扉の前。
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朝比奈は少しだけ振り返る。
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そして言う。
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「また明日」
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あすかは少しだけ笑う。
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「はい」
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カラン。
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扉が閉まる。
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あすかは一人残る。
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静かな店内。
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そして、少しだけ長く目を閉じる。
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思う。
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私は今、
幸せの中にいる。
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それは、
探して見つけたものではない。
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気づいたら、
そこにあったものだった。
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そしてその事実を、
もう疑っていない。
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これが、
私の幸せについての物語だった。
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(最終章へ続く)




