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あすかの幸せについて  作者: こうた
第13章 定義された日々

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第10話 定義された日々

人はいつからそれを「幸せ」と呼ぶのか。



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失ったあとか。



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手に入れたあとか。



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それとも、気づいたときか。



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十二月。



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街は少しだけ急ぎ始めていた。



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年末の空気。



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冷たい風。



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あすかは「人生の交差点」に立っている。



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カラン。



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扉が開く。



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顔を上げる。



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朝比奈だった。



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もう、特別な驚きはない。



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ただ、自然にそこにいる。



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「こんばんは」



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「こんばんは」



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それが日常の形になっていた。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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沈黙。



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それはもう、沈黙ではなかった。



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共有されている時間だった。



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朝比奈が言う。



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「一年、早かったですね」



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あすかは少しだけ考える。



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「そうですね」



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朝比奈は続ける。



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「いろいろありましたけど」



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あすかは静かにうなずく。



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喪失。



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再生。



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出会い。



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選択。



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それらはもう過去の出来事ではなく、


一本の線になっていた。



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あすかは言う。



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「でも、悪くなかったです」



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朝比奈は少し笑う。



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「僕もです」



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沈黙。



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外では冬の風が吹いている。



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でも店の中は静かだった。



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あすかは思う。



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幸せは、


大きな出来事ではなかった。



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気づけばそこにあるものだった。



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劇的ではない。



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輝いてもいない。



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でも確かに、


失いたくないと思えるもの。



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それが今のすべてだった。



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朝比奈が立ち上がる。



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「帰ります」



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あすかはうなずく。



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「はい」



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扉の前。



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朝比奈は少しだけ振り返る。



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そして言う。



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「また明日」



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あすかは少しだけ笑う。



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「はい」



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カラン。



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扉が閉まる。



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あすかは一人残る。



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静かな店内。



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そして、少しだけ長く目を閉じる。



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思う。



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私は今、


幸せの中にいる。



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それは、


探して見つけたものではない。



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気づいたら、


そこにあったものだった。



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そしてその事実を、


もう疑っていない。



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これが、


私の幸せについての物語だった。



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(最終章へ続く)

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