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あすかの幸せについて  作者: こうた
第13章 定義された日々

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第9話 積み重ねた先

時間は、何かを劇的に変えるものではない。



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むしろ、少しずつ輪郭を整えていくものだ。



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十一月。



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空気はすっかり冷たくなっていた。



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あすかはいつも通り「人生の交差点」に立っている。



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カラン。



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扉が開く。



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顔を上げる。



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朝比奈だった。



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もう、その存在に心が乱れることはない。



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ただ、自然に視線が向く。



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「こんばんは」



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「こんばんは」



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それだけで十分だった。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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少しの沈黙。



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それはもう“間”ではない。



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積み重なった時間の上にある静けさだった。



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朝比奈が言う。



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「最近、ふと思うんですけど」



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あすかは視線を上げる。



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「何ですか」



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朝比奈は少し笑う。



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「最初に会った頃と、全然違いますね」



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あすかは少しだけ考える。



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そしてうなずく。



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「違いますね」



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朝比奈は続ける。



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「でも、嫌じゃないです」



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あすかは静かに答える。



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「私もです」



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その言葉には、


迷いがなかった。



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朝比奈はグラスを見つめる。



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「こういう関係になるとは思ってなかったです」



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あすかは少し笑う。



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「私もです」



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沈黙。



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しかしそれは、


振り返るための沈黙ではない。



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今を確かめる沈黙だった。



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あすかは思う。



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この関係は、


始まりの形からは想像できない場所に来ている。



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でもそれは、


迷子ではない。



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積み重ねた結果だった。



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朝比奈が言う。



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「これからも、こうなんでしょうね」



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あすかは少しだけ間を置く。



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そして答える。



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「たぶん、そうです」



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朝比奈は笑う。



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「それでいいです」



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その言葉は、


決意でもなく、疑いでもない。



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ただの受容だった。



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夜が深くなる。



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店は静かだ。



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あすかは思う。



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幸せは、


特別な瞬間ではなく、


こういう積み重ねの中にある。



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気づかないほど静かで、


でも確かにそこにあるもの。



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それが今の自分の答えだった。



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朝比奈が立ち上がる。



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「帰ります」



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あすかはうなずく。



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「はい」



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扉の前。



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朝比奈は言う。



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「また明日」



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あすかは小さく笑う。



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「はい」



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カラン。



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扉が閉まる。



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あすかは一人残る。



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静かな店。



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でも、空っぽではない。



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あすかは思う。



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この日々は、


もう壊れるものではないのかもしれない。



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そしてそれは、


かつて望んだ“幸せ”の形だった。



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(第13章 第10話へ続く)

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