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あすかの幸せについて  作者: こうた
第13章 定義された日々

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第7話 当たり前になるということ

人は変化に気づくよりも、


それが「当たり前」になったときに初めて安心する。



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九月。



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夏の熱が少しずつ抜けていく季節。



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あすかは「人生の交差点」に立っている。



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カラン。



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扉が開く。



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顔を上げる。



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朝比奈だった。



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もう反射のように、


自然に目が向く。



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「こんばんは」



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「こんばんは」



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それは挨拶というより、


確認に近い。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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少しの沈黙。



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その沈黙は、


もう“間”ではない。



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“時間”そのものだった。



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朝比奈が言う。



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「最近、ここに来るのが普通になってきました」



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あすかは少し笑う。



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「普通ですか」



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「はい」



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朝比奈は少しだけ視線を落とす。



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「前は、少し特別だったんですけど」



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あすかはうなずく。



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「今は違うんですね」



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朝比奈はすぐに答える。



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「悪い意味じゃないです」



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あすかは少しだけ間を置いてから言う。



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「分かってます」



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そのやり取りは短い。



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でも十分だった。



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あすかは思う。



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“特別”が“普通”になることは、


終わりではない。



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むしろ、


関係が生活に組み込まれた証だ。



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朝比奈がグラスを見つめる。



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そしてふと笑う。



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「こういうの、いいですね」



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あすかは少しだけ首を傾げる。



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「どういうのですか」



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朝比奈は少し考えてから言う。



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「何も説明しなくていい感じです」



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あすかは小さくうなずく。



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「それ、分かります」



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沈黙。



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でもそれはもう、


埋める必要のない沈黙だった。



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あすかは気づく。



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この人といる時間は、


“努力して続けるもの”ではなくなっている。



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“続いてしまっているもの”になっている。



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夜が更ける。



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朝比奈が立ち上がる。



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「帰ります」



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あすかはうなずく。



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「はい」



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扉の前。



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朝比奈は振り返らずに言う。



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「また明日」



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あすかも自然に返す。



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「はい」



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カラン。



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扉が閉まる。



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あすかは少しだけ目を閉じる。



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そして思う。



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関係は変わる。



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でも、


壊れない変化もある。



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それは、


“当たり前になる”という形だった。



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(第13章 第8話へ続く)

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