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あすかの幸せについて  作者: こうた
第13章 定義された日々

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第4話 距離の再確認

人は一度安心を覚えると、


それを当然だと思い始める。



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そして少し離れたときに、


初めてその存在の重さに気づく。



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六月。



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梅雨の気配が街に広がっていた。



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あすかはいつも通り店に立っている。



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「人生の交差点」。



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カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



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朝比奈だった。



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傘を軽く閉じる仕草が見える。



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少し濡れた肩。



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あすかは何も言わずにタオルを差し出す。



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朝比奈は少し驚く。



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そして小さく笑う。



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「ありがとうございます」



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そのやり取りは、


もう特別ではない。



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でも確かに優しい。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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雨の音が店の外で続いている。



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朝比奈が言う。



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「最近、少し考えてました」



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あすかは視線を上げる。



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「何をですか」



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朝比奈は少し間を置く。



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「距離のことです」



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あすかの手が止まる。



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「距離?」



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朝比奈はうなずく。



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「離れても大丈夫なのか、とか」



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あすかはすぐには答えない。



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雨の音だけが続く。



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そしてゆっくり言う。



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「大丈夫だと思います」



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朝比奈は少し驚く。



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あすかは続ける。



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「いなくても崩れる関係じゃないと思うので」



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それは強がりではなかった。



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事実に近かった。



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朝比奈は静かにうなずく。



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「同じことを思ってました」



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その一言で、


空気が少し軽くなる。



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関係は、


依存ではなくなっていた。



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“なくてはならない”ではなく、


“いてくれると嬉しい”。



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その違いが、


二人の間に確かにあった。



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夜が深くなる。



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雨はまだ降っている。



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朝比奈が言う。



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「今日は帰ります」



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あすかはうなずく。



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「はい」



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立ち上がる朝比奈。



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しかし少しだけ立ち止まる。



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「あすかさん」



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あすかは顔を上げる。



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「また明日も、来ていいですか」



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その問いは、


もう確認ではなかった。



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あすかは少しだけ笑う。



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「来てください」



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朝比奈も笑う。



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「分かりました」



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扉が開く。



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雨の音が強くなる。



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カラン。



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あすかはその背中を見送る。



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思う。



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距離は縮めるものではなく、


確認し続けるものだ。



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そして今、


その確認はもう怖くなかった。



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むしろ、


安心だった。



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(第13章 第5話へ続く)

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