第4話 距離の再確認
人は一度安心を覚えると、
それを当然だと思い始める。
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そして少し離れたときに、
初めてその存在の重さに気づく。
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六月。
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梅雨の気配が街に広がっていた。
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あすかはいつも通り店に立っている。
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「人生の交差点」。
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カラン。
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扉が開く。
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あすかは顔を上げる。
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朝比奈だった。
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傘を軽く閉じる仕草が見える。
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少し濡れた肩。
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あすかは何も言わずにタオルを差し出す。
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朝比奈は少し驚く。
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そして小さく笑う。
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「ありがとうございます」
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そのやり取りは、
もう特別ではない。
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でも確かに優しい。
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朝比奈は席に座る。
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グラスが置かれる。
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雨の音が店の外で続いている。
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朝比奈が言う。
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「最近、少し考えてました」
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あすかは視線を上げる。
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「何をですか」
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朝比奈は少し間を置く。
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「距離のことです」
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あすかの手が止まる。
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「距離?」
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朝比奈はうなずく。
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「離れても大丈夫なのか、とか」
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あすかはすぐには答えない。
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雨の音だけが続く。
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そしてゆっくり言う。
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「大丈夫だと思います」
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朝比奈は少し驚く。
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あすかは続ける。
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「いなくても崩れる関係じゃないと思うので」
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それは強がりではなかった。
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事実に近かった。
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朝比奈は静かにうなずく。
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「同じことを思ってました」
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その一言で、
空気が少し軽くなる。
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関係は、
依存ではなくなっていた。
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“なくてはならない”ではなく、
“いてくれると嬉しい”。
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その違いが、
二人の間に確かにあった。
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夜が深くなる。
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雨はまだ降っている。
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朝比奈が言う。
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「今日は帰ります」
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あすかはうなずく。
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「はい」
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立ち上がる朝比奈。
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しかし少しだけ立ち止まる。
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「あすかさん」
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あすかは顔を上げる。
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「また明日も、来ていいですか」
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その問いは、
もう確認ではなかった。
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あすかは少しだけ笑う。
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「来てください」
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朝比奈も笑う。
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「分かりました」
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扉が開く。
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雨の音が強くなる。
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カラン。
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あすかはその背中を見送る。
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思う。
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距離は縮めるものではなく、
確認し続けるものだ。
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そして今、
その確認はもう怖くなかった。
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むしろ、
安心だった。
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(第13章 第5話へ続く)




