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あすかの幸せについて  作者: こうた
第12章 名前を与える日

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第8話 告白前夜

言葉にしないまま積み重なったものは、


ある日、急に重さを持つ。



---


それは突然ではなく、


ずっと前からそこにあったものが、


形を持つ瞬間だった。



---


二月下旬。



---


夜はまだ冷たい。



---


「人生の交差点」。



---


閉店後。



---


あすかはカウンターの中を片付けていた。



---


グラスを洗う音だけが響く。



---


朝比奈はまだ席に残っている。



---


珍しく、すぐには帰らなかった。



---


あすかは気づいている。



---


今日の空気が少し違うことに。



---


言葉が少ないわけではない。



---


むしろ、


必要以上に静かだった。



---


朝比奈がグラスを見つめながら言う。



---


「最近、思うことがあって」



---


あすかの手が止まる。



---


「はい」



---


朝比奈は少し間を置く。



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そして続ける。



---


「このままじゃいけない気がしてます」



---


あすかは顔を上げる。



---


その言葉の意味を、


すぐには理解しない。



---


でも、


胸の奥が少しだけ反応する。



---


朝比奈は続ける。



---


「曖昧なままじゃなくて」



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「ちゃんと向き合いたいというか」



---


言葉は慎重だった。



---


でも意志ははっきりしていた。



---


あすかは静かに聞いている。



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分かってしまう。



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これは関係の話だ。



---


二人の関係の話だ。



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沈黙。



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店の時計の音だけが響く。



---


朝比奈が言う。



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「来週、時間をもらえませんか」



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あすかは一瞬だけ息を止める。



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そして、


ゆっくりうなずく。



---


「はい」



---


それだけだった。



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でも十分だった。



---


朝比奈は少しだけ安心したように笑う。



---


「ありがとうございます」



---


その笑顔を見て、


あすかは思う。



---


これは終わりではない。



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むしろ、


始まりに近い。



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カラン。



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扉が閉まる。



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朝比奈が帰った後、


店には静けさが戻る。



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あすかはグラスを置く。



---


手が少しだけ震えていることに気づく。



---


怖いわけではない。



---


ただ、


分かってしまったからだ。



---


このままではいられない。



---


何かが変わる。



---


良くなるのか、


壊れるのかは分からない。



---


それでも。



---


逃げる気はなかった。



---


あすかは小さく息を吐く。



---


窓の外には、


冬の終わりの気配があった。



---


春はまだ遠い。



---


でも、


確かに近づいている。



---


その夜、


あすかはなかなか眠れなかった。



---


何度も思い返す。



---


朝比奈の言葉。



---


「このままじゃいけない」



---


それは責める言葉ではなかった。



---


でも、


前へ進もうとする意思だった。



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そしてあすかもまた、


同じ場所に立っていることを知っていた。



---


私はこの人が好きだ。



---


それはもう確信だった。



---


あとは言うだけだった。



---


ただそれだけなのに、


世界は少しだけ重く感じる。



---


あすかは目を閉じる。



---


明日ではない。



---


その次の日でもない。



---


たぶん、


もうすぐ。



---


二人の関係は、


言葉を必要とする場所へ向かっている。



---


そしてそれは、


避けられない。



---


(第12章 第9話へ続く)

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