表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第12章 名前を与える日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/141

第6話 離れて気づくこと

距離は、あるとき急に存在感を持つ。



---


それまでは当たり前だったものが、


突然「ないもの」に変わる。



---


一週間。



---


朝比奈は出張に出ていた。



---


あすかの日常は、


いつも通りに流れているはずだった。



---


仕事。



---


帰宅。



---


食事。



---


眠る。



---


変わらないはずの繰り返し。



---


それなのに、


どこかが静かすぎる。



---


「人生の交差点」。



---


カラン。



---


扉が開く。



---


あすかは顔を上げる。



---


違う客。



---


そしてまた沈黙。



---


その繰り返し。



---


ふとした瞬間に、


気づいてしまう。



---


扉の音に、


少しだけ期待している自分に。



---


そのたびに、


小さく胸が動く。



---


そして何も起きない。



---


その小さな失望が、


積み重なっていく。



---


夜。



---


帰宅したあすかは、


何気なくスマートフォンを見る。



---


メッセージはない。



---


分かっている。



---


忙しいと言っていた。



---


それでも、


少しだけ指が止まる。



---


何を期待しているのか。



---


自分でも分からない。



---


ただ、


いつものやり取りがないだけで、


世界が少しだけ静かに感じる。



---


一週間前。



---


朝比奈は「帰ったらまた来ます」と言った。



---


その言葉を思い出す。



---


たったそれだけなのに、


支えになっていたことに気づく。



---


あすかは小さく息を吐く。



---


ベッドに座る。



---


窓の外には夜。



---


静かすぎる夜。



---


そのとき、


ふと思う。



---


私はこの人に会いたいのだ。



---


以前なら、


ここまで明確ではなかった。



---


でも今は違う。



---


会いたい。



---


それだけの言葉が、


はっきりと形を持っている。



---


翌日。



---


仕事中。



---


無意識に時計を見る回数が増える。



---


いつもなら気にしない時間。



---


それでも、


どこかで思っている。



---


そろそろ戻ってくる頃ではないか。



---


その期待に気づいてしまい、


少しだけ苦笑する。



---


閉店間際。



---


カラン。



---


扉が開く。



---


反射的に顔を上げる。



---


朝比奈だった。



---


あすかは一瞬、


呼吸を忘れる。



---


「こんばんは」



---


その声が、


いつもより少しだけ嬉しく聞こえた。



---


朝比奈は少し笑う。



---


「ただいま戻りました」



---


その言葉に、


あすかは小さく驚く。



---


「ただいま?」



---


朝比奈は少しだけ照れる。



---


「なんとなくです」



---


あすかは笑う。



---


そして気づく。



---


この言葉が、


なぜこんなに嬉しいのか。



---


ただの帰還の挨拶。



---


それだけなのに。



---


胸の奥が温かい。



---


あすかは静かに言う。



---


「おかえりなさい」



---


言った瞬間、


少しだけ自分に驚く。



---


朝比奈も少し固まる。



---


そして、


とても優しく笑う。



---


「ありがとうございます」



---


沈黙。



---


でも今夜の沈黙は違う。



---


離れていた時間を、


埋めるような沈黙。



---


あすかは思う。



---


私はこの人がいない時間を、


もう平気ではいられない。



---


それは弱さではない。



---


むしろ、


生きているということなのかもしれない。



---


朝比奈がグラスを見つめる。



---


あすかもそれを見る。



---


同じ時間。



---


同じ空気。



---


そして同じ気持ちに近づいている。



---


言葉にしなくても、


もう十分だった。



---


一週間の空白は、


二人の関係を少しだけ変えていた。



---


より確かに。



---


より深く。



---


そして、


より戻れない方向へ。



---


(第12章 第7話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ