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あすかの幸せについて  作者: こうた
第12章 名前を与える日

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第4話 近づく距離

距離というものは、


歩いて縮めるものではない。



---


気づいたときには、


もう近くなっているものだ。



---


一月下旬。



---


冬の寒さは続いていた。



---


それでも、


あすかの心は以前ほど冷えていなかった。



---


仕事を終えた帰り道。



---


スマートフォンが震える。



---


朝比奈からのメッセージだった。



---


> 「今日、少しだけ時間ありますか?」





---


あすかは自然に笑う。



---


そして返信する。



---


> 「あります」





---


迷わなかった。



---


以前なら、


予定を確認して、


少し考えていたかもしれない。



---


でも今は違う。



---


会いたいと思った。



---


それだけだった。



---


待ち合わせたのは川沿いの遊歩道。



---


近くにカフェがあり、


夜になると人通りも少なくなる場所だった。



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朝比奈は先に来ていた。



---


「こんばんは」



---


「こんばんは」



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もう、


このやり取りだけで安心する。



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二人はゆっくり歩き始める。



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川面に街灯の光が映る。



---


風は冷たい。



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でも隣に誰かがいるだけで、


少し違う。



---


朝比奈が言う。



---


「最近、仕事どうですか」



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他愛ない会話。



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でも、


自然に続く。



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無理がない。



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話したいから話している。



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その感覚が心地いい。



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歩きながら、


あすかはふと思う。



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最初に会った頃。



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朝比奈は少し遠い人だった。



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優しいけれど、


どこか手の届かない場所にいる人。



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そんな印象だった。



---


でも今は違う。



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隣を歩いている。



---


同じ景色を見ている。



---


同じことで笑っている。



---


その事実が、


なぜか嬉しい。



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朝比奈がふと立ち止まる。



---


橋の上だった。



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夜景が広がっている。



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二人は並んで川を見る。



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しばらく無言。



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しかし、


その沈黙は温かい。



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朝比奈が言う。



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「不思議ですね」



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「何がですか」



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「最初は店で話すだけだったのに」



---


あすかは少し笑う。



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「そうですね」



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朝比奈も笑う。



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「今はこうして歩いてる」



---


その言葉に、


あすかの胸が少しだけ熱くなる。



---


自分も同じことを考えていた。



---


朝比奈が続ける。



---


「良かったと思ってます」



---


静かな声だった。



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でも本心だと分かった。



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あすかは夜景を見る。



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そして小さく答える。



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「私もです」



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風が吹く。



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髪が揺れる。



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朝比奈が少し心配そうに言う。



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「寒くないですか」



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あすかは笑う。



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「少しだけ」



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すると朝比奈は、


自分のマフラーを少し外しかける。



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あすかは慌てる。



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「大丈夫です」



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朝比奈も少し照れたように笑う。



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「そうですよね」



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二人とも笑う。



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ほんの短いやり取り。



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でも、


胸の奥が温かくなる。



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やがて帰る時間になる。



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駅へ向かう道。



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少しだけ歩く速度が遅い。



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どちらも意識していない。



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でも、


もう少し一緒にいたい。



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そんな気持ちが、


どこかにある。



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改札前。



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朝比奈が言う。



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「今日はありがとうございました」



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あすかは首を横に振る。



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「こちらこそ」



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少しだけ沈黙。



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そして朝比奈が笑う。



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「次は、もう少し暖かい日に歩きたいですね」



---


あすかも笑う。



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「そうですね」



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その約束は、


とても自然だった。



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別れ際。



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二人とも少しだけ振り返る。



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そして目が合う。



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小さく手を振る。



---


それだけ。



---


それだけなのに、


胸が少しだけ高鳴る。



---


あすかは帰り道で思う。



---


この人といる時間は、


もう特別になっている。



---


そして、


その特別さを失いたくないと思っている。



---


その気持ちは、


もうごまかせなかった。



---


(第12章 第5話「失いたくないもの」へ続く)

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