表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第12章 名前を与える日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/141

第3話 店の外の時間

場所が変わるだけで、


人は少しだけ違う顔を見せる。



---


一月中旬。



---


初詣の日から数日が過ぎていた。



---


あすかは仕事を終え、


駅へ向かっていた。



---


冬の夕暮れ。



---


空は薄い群青色に染まり始めている。



---


スマートフォンが震える。



---


朝比奈からだった。



---


> 「仕事帰りですか?」





---


短いメッセージ。



---


あすかは少し考えてから返信する。



---


> 「今終わりました」





---


数秒後。



---


返事が来る。



---


> 「もし時間があれば、少しお茶でもどうですか」





---


あすかは画面を見つめる。



---


そして自然に笑った。



---


以前なら迷ったかもしれない。



---


でも今は違う。



---


> 「大丈夫です」





---


送信する。



---


胸の奥が少しだけ軽くなる。



---


待ち合わせたのは駅近くの小さなカフェだった。



---


ガラス越しに朝比奈が見える。



---


先に来ている。



---


あすかは思わず笑う。



---


また少し早く来たのだろう。



---


店に入る。



---


朝比奈が立ち上がる。



---


「こんばんは」



---


「こんばんは」



---


向かい合って座る。



---


店内には静かな音楽が流れている。



---


「人生の交差点」とは違う空気。



---


でも不思議と居心地は悪くない。



---


コーヒーが運ばれてくる。



---


湯気がゆっくり上がる。



---


朝比奈が言う。



---


「こうして会うの、二回目ですね」



---


あすかはうなずく。



---


「そうですね」



---


少しだけ笑う。



---


その事実が、


なぜか嬉しかった。



---


会話が続く。



---


仕事のこと。



---


好きな本のこと。



---


最近見た映画のこと。



---


特別な話ではない。



---


でも、


それが楽しい。



---


朝比奈が話す横顔を見る。



---


店では気づかなかった表情。



---


少しだけ無防備な笑顔。



---


考え込む癖。



---


話している途中で視線が泳ぐところ。



---


そういう小さなものが見えてくる。



---


あすかは思う。



---


もっと知りたい。



---


その感情に気づく。



---


朝比奈のことを。



---


どんな人生を歩いてきたのか。



---


何が好きなのか。



---


何を大切にしているのか。



---


知りたいと思う。



---


その気持ちは、


もう単なる興味ではなかった。



---


時間が過ぎる。



---


気づけば二時間近く話していた。



---


朝比奈が時計を見る。



---


「長居してしまいました」



---


あすかも時計を見る。



---


本当だ。



---


でも、


もっと短く感じていた。



---


店を出る。



---


夜の空気は冷たい。



---


二人は駅へ向かって歩く。



---


歩幅が自然に合う。



---


それが少し嬉しい。



---


信号待ち。



---


並んで立つ。



---


会話は途切れている。



---


でも気まずくない。



---


むしろ落ち着く。



---


朝比奈が言う。



---


「また誘ってもいいですか」



---


あすかは顔を上げる。



---


その言葉に、


少しだけ胸が跳ねる。



---


朝比奈は少し照れたように笑う。



---


「迷惑でなければ」



---


あすかは首を横に振る。



---


「迷惑じゃないです」



---


そして少しだけ考える。



---


「私も、また会いたいです」



---


言った瞬間、


少しだけ恥ずかしくなる。



---


でも後悔はなかった。



---


朝比奈は一瞬驚き、


そして本当に嬉しそうに笑った。



---


「良かった」



---


その笑顔を見て、


あすかも笑う。



---


駅が近づく。



---


別れる時間が来る。



---


でも以前ほど寂しくない。



---


また会えると分かっているから。



---


それは、


とても大きな違いだった。



---


改札前。



---


「お疲れさまでした」



---


「お疲れさまでした」



---


少しだけ沈黙。



---


そして朝比奈が言う。



---


「次も楽しみにしています」



---


あすかは自然に答える。



---


「私もです」



---


朝比奈が手を振る。



---


あすかも小さく振り返す。



---


その姿が見えなくなるまで、


少しだけその場に立っていた。



---


胸の奥が温かい。



---


幸せという言葉にはまだ早いかもしれない。



---


でも、


確実に近づいている。



---


あすかはそう思った。



---


(第12章 第4話「近づく距離」へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ