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あすかの幸せについて  作者: こうた
第12章 名前を与える日

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第2話 初詣

約束というものは不思議だ。



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会うと決まっただけなのに、


その日までの時間の流れが少し変わる。



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一月五日。



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冬の空は澄んでいた。



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朝。



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あすかは鏡の前に立つ。



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何度目か分からない確認をしている。



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髪。



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服。



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コート。



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別に特別なことではない。



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初詣に行くだけ。



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そう自分に言い聞かせる。



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しかし、


いつもより少しだけ時間をかけている自分がいた。



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玄関を出る。



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冷たい空気。



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吐く息は白い。



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待ち合わせ場所へ向かう。



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駅前。



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人は多い。



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正月休みの名残が残っている。



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あすかは少し早く着いた。



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時計を見る。



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まだ十分前。



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そのとき。



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「お待たせしました」



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声が聞こえる。



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振り向く。



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朝比奈だった。



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あすかは少し驚く。



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自分より早く来ていたのかもしれない。



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朝比奈は少し照れたように笑う。



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「実は十五分くらい前からいました」



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あすかは思わず笑う。



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「早すぎませんか」



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「そうかもしれません」



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二人とも少し笑う。



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その笑いだけで、


緊張が少し和らぐ。



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神社へ向かう。



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並んで歩く。



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店では何度も会っている。



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なのに、


外で会うだけで少し違う。



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朝比奈も同じらしい。



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会話が少しだけぎこちない。



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でも嫌ではない。



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むしろ、


そのぎこちなさが少し心地いい。



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参道には屋台が並んでいた。



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甘い匂い。



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子どもたちの笑い声。



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冬の青空。



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あすかはふと思う。



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こういう場所を、


誰かと歩くのはいつ以来だろう。



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悠真と別れてから、


ずっと一人だった。



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朝比奈が隣にいる。



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その事実が、


思ったより自然だった。



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本殿へ着く。



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列に並ぶ。



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前の人が参拝を終える。



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順番が来る。



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二人は手を合わせる。



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何を願ったのか。



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あすか自身もよく分からない。



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ただ、


今の時間が続けばいいと思った。



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それだけだった。



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参拝を終える。



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階段を下りる。



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朝比奈が言う。



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「何をお願いしましたか」



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あすかは少し笑う。



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「言ったら叶わないかもしれません」



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朝比奈も笑う。



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「それは困りますね」



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二人は境内を歩く。



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特に目的はない。



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それでも時間は過ぎていく。



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不思議だった。



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何も特別なことをしていない。



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それなのに楽しい。



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屋台の前で足を止める。



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甘酒。



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湯気が立っている。



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朝比奈が言う。



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「飲みますか」



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「飲みます」



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紙コップを受け取る。



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温かい。



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冷えた指先に熱が伝わる。



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あすかは一口飲む。



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少しだけ甘い。



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朝比奈も飲んでいる。



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その姿を見て、


自然に笑みがこぼれる。



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朝比奈が気づく。



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「どうしました?」



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あすかは首を振る。



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「なんでもないです」



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本当は違う。



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ただ、


楽しいと思った。



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それだけ。



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それだけなのに、


言葉にすると少し照れくさい。



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午後。



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帰る時間になる。



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駅前まで戻る。



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少しだけ名残惜しい。



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あすかはその感情に気づく。



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朝比奈も同じようだった。



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しかし、


どちらも口にはしない。



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朝比奈が言う。



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「今日はありがとうございました」



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あすかは答える。



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「こちらこそ」



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少しだけ沈黙。



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そして朝比奈が笑う。



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「思った以上に楽しかったです」



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その言葉に、


あすかの胸が少しだけ温かくなる。



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あすかも笑う。



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「私もです」



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それは本心だった。



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朝比奈は少し安心したように笑う。



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その笑顔を見ながら、


あすかは思う。



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店の中だけでは分からなかった。



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この人といる時間が好きなのだ。



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その事実が、


少しずつ形になり始めていた。



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「また会いましょう」



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朝比奈が言う。



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あすかは迷わず答える。



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「はい」



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その返事は、


今までで一番自然だった。



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冬の空は高かった。



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新しい年は始まったばかり。



---


そして二人の関係も、


少しずつ新しい場所へ進み始めていた。



---


(第12章 第3話「店の外の時間」へ続く)

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