第1話 新しい年の最初の夜
新しい年になったからといって、
人は急に変われるわけではない。
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昨日の続きが今日になる。
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去年の続きが今年になる。
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それだけのこと。
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それでも、
新しい始まりを感じる夜はある。
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一月二日。
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街はまだ正月の空気を残していた。
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「人生の交差点」。
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カラン。
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扉が開く。
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あすかは自然に顔を上げる。
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朝比奈だった。
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その瞬間。
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胸の奥が少しだけ温かくなる。
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もう否定できない。
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この人が来ると嬉しい。
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それは事実だった。
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「こんばんは」
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あすかが言う。
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朝比奈は少し笑う。
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「こんばんは」
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席に座る。
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グラスが置かれる。
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いつもの夜。
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いつもの時間。
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なのに、
どこか違う。
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年が変わったからではない。
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二人の関係が、
少しずつ変わっているからだ。
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朝比奈が言う。
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「年が明けましたね」
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「そうですね」
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「今年もよろしくお願いします」
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あすかは少しだけ驚く。
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その言葉は当たり前なのに、
なぜか少し特別に聞こえた。
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あすかも答える。
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「こちらこそ」
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短い会話。
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でも、
心が少しだけ弾む。
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沈黙が落ちる。
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しかし居心地は悪くない。
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むしろ心地いい。
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朝比奈がグラスを見つめながら言う。
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「去年の今頃は、こんな一年になると思ってませんでした」
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あすかも思う。
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自分も同じだった。
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去年の今頃。
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悠真との未来を信じていた。
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別れが来ることも。
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孤独になることも。
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朝比奈と出会うことも。
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想像していなかった。
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人生は不思議だ。
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失うことで終わると思った場所から、
新しい何かが始まることがある。
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朝比奈が続ける。
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「でも、いい一年でした」
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その言葉に、
あすかは静かにうなずく。
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「私もそう思います」
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本当にそう思えた。
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去年は苦しかった。
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悲しかった。
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たくさん迷った。
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それでも。
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今ここにいる。
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朝比奈がいる。
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それだけで、
去年を否定しなくて済む。
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沈黙。
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しかしその沈黙には、
穏やかな熱がある。
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以前のような距離感ではない。
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でもまだ恋人でもない。
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不思議な場所。
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名前のない場所。
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やがて朝比奈が言う。
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「今度、初詣に行きませんか」
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あすかは一瞬だけ固まる。
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店の外。
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二人だけ。
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初めてだった。
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朝比奈は慌てて続ける。
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「もし予定がなければですけど」
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あすかは少しだけ笑う。
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その慌て方が、
少し可愛かった。
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「予定はないです」
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朝比奈が顔を上げる。
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あすかは続ける。
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「行きましょうか」
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その瞬間。
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朝比奈は本当に嬉しそうに笑った。
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その笑顔を見たとき、
あすかの胸も少しだけ温かくなる。
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何かが始まる予感。
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でも、
不安ではない。
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楽しみだった。
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やがて時間が過ぎる。
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朝比奈が立ち上がる。
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「じゃあ、また連絡します」
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「はい」
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「楽しみにしています」
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その言葉に、
朝比奈は少し驚く。
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そして静かに笑う。
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「僕もです」
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カラン。
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扉が閉まる。
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あすかはその音を聞きながら、
グラスを見つめる。
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初詣。
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ただそれだけ。
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でも、
今までとは違う。
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初めて、
店の外で会う約束。
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初めて、
二人で過ごす時間。
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あすかは小さく息を吐く。
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そして気づく。
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楽しみにしている自分がいる。
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それだけで、
少しだけ笑顔になれた。
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(第12章 第2話「初詣」へ続く)




