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あすかの幸せについて  作者: こうた
第12章 名前を与える日

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第1話 新しい年の最初の夜

新しい年になったからといって、


人は急に変われるわけではない。



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昨日の続きが今日になる。



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去年の続きが今年になる。



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それだけのこと。



---


それでも、


新しい始まりを感じる夜はある。



---


一月二日。



---


街はまだ正月の空気を残していた。



---


「人生の交差点」。



---


カラン。



---


扉が開く。



---


あすかは自然に顔を上げる。



---


朝比奈だった。



---


その瞬間。



---


胸の奥が少しだけ温かくなる。



---


もう否定できない。



---


この人が来ると嬉しい。



---


それは事実だった。



---


「こんばんは」



---


あすかが言う。



---


朝比奈は少し笑う。



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「こんばんは」



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席に座る。



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グラスが置かれる。



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いつもの夜。



---


いつもの時間。



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なのに、


どこか違う。



---


年が変わったからではない。



---


二人の関係が、


少しずつ変わっているからだ。



---


朝比奈が言う。



---


「年が明けましたね」



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「そうですね」



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「今年もよろしくお願いします」



---


あすかは少しだけ驚く。



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その言葉は当たり前なのに、


なぜか少し特別に聞こえた。



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あすかも答える。



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「こちらこそ」



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短い会話。



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でも、


心が少しだけ弾む。



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沈黙が落ちる。



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しかし居心地は悪くない。



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むしろ心地いい。



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朝比奈がグラスを見つめながら言う。



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「去年の今頃は、こんな一年になると思ってませんでした」



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あすかも思う。



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自分も同じだった。



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去年の今頃。



---


悠真との未来を信じていた。



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別れが来ることも。



---


孤独になることも。



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朝比奈と出会うことも。



---


想像していなかった。



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人生は不思議だ。



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失うことで終わると思った場所から、


新しい何かが始まることがある。



---


朝比奈が続ける。



---


「でも、いい一年でした」



---


その言葉に、


あすかは静かにうなずく。



---


「私もそう思います」



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本当にそう思えた。



---


去年は苦しかった。



---


悲しかった。



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たくさん迷った。



---


それでも。



---


今ここにいる。



---


朝比奈がいる。



---


それだけで、


去年を否定しなくて済む。



---


沈黙。



---


しかしその沈黙には、


穏やかな熱がある。



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以前のような距離感ではない。



---


でもまだ恋人でもない。



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不思議な場所。



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名前のない場所。



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やがて朝比奈が言う。



---


「今度、初詣に行きませんか」



---


あすかは一瞬だけ固まる。



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店の外。



---


二人だけ。



---


初めてだった。



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朝比奈は慌てて続ける。



---


「もし予定がなければですけど」



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あすかは少しだけ笑う。



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その慌て方が、


少し可愛かった。



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「予定はないです」



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朝比奈が顔を上げる。



---


あすかは続ける。



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「行きましょうか」



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その瞬間。



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朝比奈は本当に嬉しそうに笑った。



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その笑顔を見たとき、


あすかの胸も少しだけ温かくなる。



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何かが始まる予感。



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でも、


不安ではない。



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楽しみだった。



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やがて時間が過ぎる。



---


朝比奈が立ち上がる。



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「じゃあ、また連絡します」



---


「はい」



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「楽しみにしています」



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その言葉に、


朝比奈は少し驚く。



---


そして静かに笑う。



---


「僕もです」



---


カラン。



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扉が閉まる。



---


あすかはその音を聞きながら、


グラスを見つめる。



---


初詣。



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ただそれだけ。



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でも、


今までとは違う。



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初めて、


店の外で会う約束。



---


初めて、


二人で過ごす時間。



---


あすかは小さく息を吐く。



---


そして気づく。



---


楽しみにしている自分がいる。



---


それだけで、


少しだけ笑顔になれた。



---


(第12章 第2話「初詣」へ続く)

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