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あすかの幸せについて  作者: こうた
第11章 名前のない確信

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第10話 確信の年越し

関係には、


言葉より先に確信が生まれることがある。



---


それは約束ではない。



---


契約でもない。



---


ただ、


「この人は特別だ」と静かに理解してしまう瞬間。



---


十二月三十一日。



---


今年最後の夜。



---


街は年越しの空気に包まれていた。



---


駅前は人が多い。



---


笑い声。



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足音。



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遠くから聞こえる音楽。



---


そんな喧騒の中で、


「人生の交差点」だけはいつも通りだった。



---


カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



---


朝比奈だった。



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そして、


自然に思う。



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来てくれた。



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その感情が先に浮かぶ。



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驚きより先に。



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「こんばんは」



---


「こんばんは」



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二人とも少しだけ笑う。



---


そのやり取りだけで、


どこか安心する。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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マスターは遠くから見ている。



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しかし今日は何も言わない。



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二人の時間を邪魔しない。



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それが一番自然だと分かっているからだ。



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しばらく沈黙が続く。



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でも、


それは居心地の悪い沈黙ではない。



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同じ場所にいることを確かめる時間。



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朝比奈が窓の外を見る。



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「今年、いろいろありました」



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あすかはうなずく。



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「そうですね」



---


本当にいろいろあった。



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別れ。



---


孤独。



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再生。



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そして出会い。



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朝比奈が続ける。



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「でも、最後はいい一年だったと思います」



---


あすかは少しだけ考える。



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そして答える。



---


「私もです」



---


その言葉に嘘はなかった。



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今年の前半なら、


そんなことは言えなかっただろう。



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朝比奈が静かに笑う。



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「良かった」



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その一言が、


不思議なくらい嬉しい。



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沈黙が落ちる。



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しかしその沈黙の中に、


もう不安はない。



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答えを急ぐ必要もない。



---


関係を定義する必要もない。



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少なくとも今夜は。



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あすかは思う。



---


好きなのかもしれない。



---


その言葉が、


初めて自然に浮かぶ。



---


しかし焦りはない。



---


確かめる必要もない。



---


なぜなら、


もう十分に分かっている気がしたからだ。



---


朝比奈も同じなのかもしれない。



---


そう思えるだけの時間を、


二人は積み重ねてきた。



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時計の針が進む。



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年越しまで、


あと少し。



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朝比奈が言う。



---


「来年も、ここに来ます」



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あすかは顔を上げる。



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その言葉は、


約束のようでいて、


約束ではない。



---


でも、


それ以上の意味を持っていた。



---


あすかは静かに答える。



---


「はい」



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そして少しだけ考えて、


続ける。



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「待っています」



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朝比奈は一瞬だけ驚く。



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そして、


とても優しく笑った。



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「ありがとうございます」



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その笑顔を見た瞬間、


あすかは確信する。



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この時間を失いたくない。



---


この人との時間を、


続けていきたい。



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それはもう、


単なる習慣ではなかった。



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友情とも少し違う。



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まだ恋人ではない。



---


でも、


確実にその先へ向かっている。



---


窓の外で、


新しい年が始まろうとしている。



---


あすかは静かに思う。



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来年は、


少しだけ違う年になるかもしれない。



---


その予感は不安ではない。



---


むしろ、


少しだけ楽しみだった。



---


こうして、


第11章は終わる。



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名前はまだない。



---


告白もしていない。



---


それでも二人は、


同じ未来を見始めていた。



---


(第11章 完)


→ 第12章「名前を与える日」へ続く

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